第396話 17枚目:「誘拐」開始

 ちょっとした丘ぐらいなら作れそうな量の土をインベントリから出し終わった後は、ルディルの作業場と簡単な宿泊施設を組み立てる作業だ。森の木にロープを張って、防水加工された布をくくりつけていくだけなんだけどね。

 もちろんベッドではなくハンモックだ。複数の木にロープを渡して複数段のネットを張ってるから、個人用じゃなくて雑魚寝するのがメインの特大サイズだけど。もちろん私と「第四候補」とルディルの分はちゃんと個人用だ。ルージュは寝る必要ないし。

 で、そこまで準備して次に作るのは、水槽或いは水風呂である。「第四候補」に開けて貰った大きな穴の周囲をしっかりと押し固め、というか魔法で石に変えてしまって、ざっばぁと同じく魔法で水を投入だ。


「魔法で出した物が普通に残って使える仕様で助かりましたよね」

「壁系とか攻撃系とかを除いてだけどなー。あれが残ったらえらい事になるぞ?」

「まぁそれは確かに」


 後はこの水風呂に誘拐してきた被害者を沈めて、その口に虫下しを突っ込めばクレナイイトサンゴが回収できるという訳だ。別に水場を作らなくてもクレナイイトサンゴ自体は出ていくんだけど、水中だと仮死状態の持ちが良いらしいんだよね。

 で、そこまでやって、私はさらにインベントリからあるものを取り出した。


「ルディル、ルージュ、ちょっとこれ見てください」

「うん? 何だいマスター?」

「( ・◇・)?」


 それは横50㎝、縦30㎝の、ほぼ厚みの無い白い板だ。表面には1㎝刻みで5㎝ごとに線が太くなった方眼が書かれている。


「クレナイイトサンゴを薬にするには、特定の長さに切る必要があります。それが同時にトドメにもなるので手早くやる必要があるのですが、いちいち計っていたら時間が掛かってしょうがないでしょう?」

「まぁ確かにねぇ。……ほほぅ? もしやマスター、この線ってもしかするとぉ?」

「太い所がその必要な長さの幅になってます。これならクレナイイトサンゴを乗せて伸ばすだけで必要な長さがすぐ分かりますよね?」

「(^▽^)」


 ちなみに素材は、ビニールっぽいと評判のクラーケン一族の長の皮に樹脂を塗りこんで、プラスチックっぽくした新素材だ。元は皮なのでこの方眼線は染めによるものとなっている。洗っても落ちない安心仕様だ。

 そしてプラスチックっぽいってことは、簡単に丸められるって事だ。そう、刻んだクレナイイトサンゴを別の瓶に入れておくのも簡単って事だな。クレナイイトサンゴは長さが10㎝はないと生存できないので、調薬に必要な長さに切ってしまえばいくら山積みにしても問題ない。


「これは捗るねぇ。これならルージュも刻み作業が出来るだろうしぃ」

「(`▽´)」

「大量のクレナイイトサンゴが来るという前提で、放っておいても良い事は1つもない相手ですからね。さっさとトドメを刺せるならそっちの方が良いでしょうし」

「地味に時間かかってたからねぇ、長さを測ってから刻むって作業はぁ。縦横どっちでも見ただけで同じ長さに切れるんなら、ぐっと効率は上がると思うよぉ」

「それは良かった。あ、ルフィルとルフェルにも同じものは渡してありますし予備もありますよ」


 まぁそもそもの耐久値が高いから、まな板として使ってる分にはそうそう壊れたりしないだろうけど。

 という準備が一通り終わった所で、のそのそと最初の土ゴーレムが戻ってきたようだ。厚みも高さもある土の人形は、その重量からすると十分に静かな足音で、さっき作った水槽あるいは水風呂に近づいて、


ばっちゃぁん!!

「ごべばばべぼぶくぶくぶく……」


 その土の身体の「中」に捕え、あるいは格納していた人を、ぽいっと水風呂の中に放り込んだ。放り込まれた人がパニック状態でもがいているのを無視して元の形に戻り、またのそのそと大きさからすればすごく静かに移動していく。

 いらっしゃい第一号さん、と思いながら、おぼれて意識が遠くなったらしいその人の首根っこを引っ掴み、顔を水の上に出してその口に虫下しを突っ込んだ。げほげほ言っていたが、無事飲んでもらえたらしい。

 となれば、その身体からクレナイイトサンゴが出てくる訳だが……。


「うわぁ」

「あっはっはっは、大漁だな!」


 ぶわー、っと出て来たクレナイイトサンゴの量に思わずドン引きだよ。こんな量が寄生してて「手遅れ」じゃないのはいっそ不思議なのだが……あれか? もしかするとクレナイイトサンゴを増やす、生きた水槽としての役目もあったって事か? うわ、最低度がさらに増したぞ。

 すっかり痩せてしまったという感じの成人男性はそのまま気を失ったらしく、ぐったりと力が抜けたまま動かなくなった。なのでそのまま引っ張り出し、服の中にクレナイイトサンゴが引っ掛かってたりしてないのを確認してから、ざっくり水気をふき取って特大ハンモックの端に寝かせる。

 毛布でくるんだ上で私が回復を掛けたので、まぁ、このまま死んでるってことは無いだろう。


「なんかぁ、思ったより1人から採れる量が多そうだねぇ?」

「そうですね。いえ、良いか悪いかで言えば悪い知らせなんですが」


 まぁ、とりあえず一晩この調子で続けてみようか。虫下しのクレナイイトサンゴ以外の材料はたっぷり持ってきてるんだし。

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