第395話 17枚目:作戦開始
内部時間3時間後。
「っ、全く、可愛いにかける情熱は、相変わらずですね……!」
「(lll´+д+)」
『アタシだけ楽させてもらって申し訳ないぐらい疲れてるねぇ……』
「いえ、ルディルは隠れててもらって正解でした……」
『ならいいんだけどぉ。……うん? それってもしかしてアタシもその「可愛い」の対象に入るって事かなぁ?』
「そりゃ入りますよ。うちの子ですから」
『うわぁ』
どうにか『ステディア』を北方向に抜け、そこから北東方向にたっぷり全力で走り続けて、どうにか後続の一般
乗り物に乗って来た時は、馬とかの生き物なら私の【威嚇】込みの単発ブレスを少し離れた所に撃ち込んだら暴れて立ち往生してたし、ゴーレムの類なのか、引く馬もいないのに走っていた馬車はルージュが一瞬の判断で単純だが重要な部分を壊して機能停止させていた。
だから最後まで追いかけてきていたのは、その身体能力で走って追いかけていた
「いやまぁ、バフと強化系ポーションを併用すれば、一時的な速度だけなら不可能ではないでしょうが……。いえ、今はそれより、目的地へ移動しないといけませんね。ルージュ、大丈夫ですか?」
「(`・v・)」
「なら移動ですね。えーと、方角は……」
『マスター、ちょっといいかぃ?』
「どうしました、ルディル」
『あのねぇ。ちょっと上を見上げてみてくれないかなぁ』
上を? と思いながら、日が落ちかけて赤から黒へ変わりつつある空を見上げる。
そしてその中に、ぽつんと1つ、鮮やかな空色が浮いているのが見えた。
「……」
『……』
「( ´・д・)?」
「あっ、あらー、見つかっちゃったかしらー」
……なるほど。空から見張られてたなら、多少のフェイントには引っ掛からないだろう。こっちは逃げるのに多少曲線を描いて走っていたから、それを直線で追いかけられるなら多少の速度差は埋められるか。
おーけー、おーけー。完璧に理解した。よく知ってるしお世話になった相手でもあるから、にこっと上空に向けて笑っておこう。サービスだ。
「[渦巻き逆巻き荒れ狂え――トルネード]!」
「流石にシャレにならないから撤退するわーっ!!」
まぁ次の瞬間には容赦なく魔力を込めた魔法をぶっ放してるんだけどな! 逃げ切れない元凶はあんたか「空の魔女」! 確かに対空防御は意識してなかったけども!!
惚れ惚れするような速度で文字通り飛んで逃げて行った「空の魔女」さんを見送り、息を1つ。油断も隙もあったもんじゃないな。
「こういう意味でもルイルと合流できなかったのが痛いですね。魔法系の細かい事は全部お任せするつもりだったので。空を飛んでるのが基本ですし」
『まぁ迷子はしょうがないよぉ』
とにかく、大分時間をロスした。急いで移動するとしよう。
「あっははははは大変だったな「第三候補」!」
「防御は貼るから歯を食いしばれ」
「うわ待って待ってシャレになんない死ぬより酷いからそれゴメンてー!!」
何か画面を開いて見ながら爆笑していた「第四候補」に合流すると、そのままの勢いで笑いながらそんな声をかけて来たものだから思わずマジ声の素喋りになったが、まぁ仕方ないな? 何を見ていたのか確認したら、私の目撃情報を集めて追跡の連携をする為のスレッドだったし。
それでもどうにか予定地点で予定時間までに合流することは出来た。予定より若干疲れているが時間通りに行ってはいるので、予定通り行動を開始するとしよう。
遠目に見えるストーサーの町は、陽が落ちたばかりの時間と言う事でまだぽつぽつと灯りが見えた。それが本当に生活している為の物なのか、そう見せかける為の物かは分からないが、とりあえず少し離れた森の木に登って見える範囲に違和感らしい違和感は無いようだ。
「ほんと丁寧な偽装するよなー。んじゃ「第三候補」荷物宜しく!」
「分かりました。とりあえずこの場に山積みにすれば良いんですね?」
「そそ。積み上げてくれればこっちで順次動かすから!」
2人共木から降りて、私はその木の根元に、インベントリに突っ込んでおいた荷物――大量の「土」を、その場にどさどさと積み上げた。
【格納】が効いているお陰なのか元々の仕様か、液体は何か入れ物に入った状態でなければインベントリに入れられないが、土は固体という判定なのか、普通にそのまま入ったのだ。
もちろんわざわざインベントリに入れて運び、この場で出すからにはただの土ではない。これは「第四候補」が特殊な処理を加え、特定の魔力にのみ反応を示すように調整した、特製の「素材」だ。
「それじゃあ始めるか!
[命無き土くれに祝福を
動く事を知らぬ大地に喜びを
模るは神も造りし人の姿
汝は我が手足にして我が兵士
従い、傅き、その価値を示せ
目覚めよ命を模りし忠実なる僕――クリエイトゴーレム]!」
もちろん特定の魔力というのは「第四候補」のものであり、つまりは邪神に制御を乗っ取られない為の対策である。
新しく作った超ハイスペックな杖を土の山に向けて「第四候補」が詠唱すると、ぼこぼこと単なる山積みの土が、身長2mほどの人の形へと変化した。そのまま、のそのそと意外と足音を立てずにストーサーの方へと歩いていく。
そう。今回の作戦とは、動く為に神経を必要としないゴーレムや人形や式神を夜闇に乗じて送り込み、内部で洗脳されて信仰の奴隷と化している住民を1人ずつその内部に取り込む形で誘拐する――というものだ。
「まぁ、朝になるたびに人数が減っていくとか、完全にホラーなんですけどね」
「可能なら一晩で町全部いっちゃいたいけどな! 流石に材料的な関係で無理だけど!」
「まぁその為にその場で虫下しを作れるアタシが来てるんだしねぇ」
もちろん誘拐と言う名の救出をした人はこちらで虫下しを飲ませて治療する。そして虫下しで追いだしたクレナイイトサンゴを使って更に虫下しを作り、次の夜にさらに多くの人を誘拐もとい救出する。そういう流れである。
私はリアル都合でほとんどお任せ状態になるが、私の仕事は基本最初の運搬係だけだ。だから実行チームは、連絡手段に難があっても可能な限り住民で固めたんだし。
正直なところを言えば、確かに、一晩で町の住民を1人残らず連れ出したい。だって確実に成功するのは最初の夜だけだからだ。そこで救出完了できるならしておきたい。が。
「ゴーレムの数はともかく、やはり虫下しの数がネックですね……」
「ほんとそれな。今回手に入った分は全部薬にするか?」
「出来るならそれがベストなんですけど、劣化しないように保存するのがなかなか大変なようですよ。時間もかかりますし」
「流石にそれだけにかかりっきりって訳にはいかないからねぇ」
「そっかー。まぁその辺はしょうがないな!」
だから出来るのは、少しでも長い時間こちらの動きを悟られないよう、ひっそり動く事ぐらいだろう。
……救出完了まで気づかれないのがベストだけど、どこまで助けられるかな……。
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