第394話 17枚目:準備完了

 ログイン時間に関して、「第四候補」は平日にも関わらずフルにログインする事が出来ている。どんなリアル生活を送っているのか気になるところだが、それを探るのは流石にネチケット違反なのでそっと蓋をしておこう。

 まぁつまり、私が冬休みまでが長いとギリギリしながら授業に出ている間も「第四候補」はログインが可能で、その長い活動時間を使えば、普通は時間のかかる高レア素材を使った装備の作成も可能だという事だ。

 という訳で、さらに翌日。


「見てこの杖! 見た目からすら分かるこの高レア感とハイスペック感!!」

「……? 鱗は何処に?」

「いやー面白いな竜の鱗って。「第三候補」のが特殊なのかもしれないけど。ほらこれ、ここ。先にはめ込んだ宝石をコーティングしてるやつ。いい感じで熱を通すと柔らかくなってさー!」

「あぁなるほど」


 私がログインすると、ハイテンションのまま「第四候補」が突撃してきた。そのまま、表面に透明な層のあるオパール、かな? をはめ込んだ、黒くて艶のある木製の柄を金で装飾した、シンプルながらも上質な感じがひしひしする杖を自慢してくる。

 どうやら無事装備は完成したようだ。私の鱗を使ったという事は、性能の方も必要条件を満たせたのだろう。


「素材としての性能見た時からもう笑うしかなかったけど、実際装備に使ってみたら笑いが止まらないんだよな!!」

「そこまでですか?」

「そこまでだよ! 戦力事情はインフレ気味だけど、その中でも頭おかしいレベルだから! 大陸2つ分ぐらいは先の装備なんじゃないのかって!」

「頭おかしいとは……」

「ほんとに!!」


 まぁ私のステータスの伸びは普通じゃないからなぁ。装備を【吸引領域】で吸収したスキルとか神の祝福ギフトによる補正とかで。で、通常ならそんな相手を倒したという事なのだから、そうもなるか。

 けどとりあえず「第四候補」の装備が出来たのなら行動開始だ。時間がどれだけあるか分からないのだから、素早く動くとしよう。まぁ私はルージュを護衛に荷物運びなんだけどね。


「あー……まぁそれなら大丈夫か」

「めっちゃ強かったもんな、あの鎧の……姫さん、どっち?」

「ルージュは女の子ですよ。少なくとも感性と意識的には」


 何でルージュを連れ出すかと言うと、エルルとサーニャは私と同じくインベントリが大容量なので、荷物を運ぶ役だからだ。一応護衛も兼ねているので、2人には搦手対策兼虫下し生産係としてそれぞれルフィルとルフェルがくっついていく。

 ちなみに私と一緒に行動するのはルージュに加えてルディルとなる。後の皆は後方待機兼イベントを進める係だな。何せこうしている現在も“破滅の神々”の管理割合はじわじわ増えている。今から根本(推定)をどうにかするとは言え、ちょっとでも抑えられるものなら抑えておきたい。


「やれやれ、後方支援係が一番忙しい、かぁ。分かってはいたけどちょっと複雑だねぇ」

「(゚ロ゚;)」

「大丈夫だよぉ。役に立てるのは嬉しいからねぇ」


 という感じで仲の良い2人+「第四候補」を連れて、今の所本命で最も末期となっているストーサーの近郊へと移動だ。『ホーピス』の大神殿からだと危険度があれなので、1つ先の『ステディア』からだな。

 え、移動速度が問題じゃないかって? あぁ、それなら大丈夫だよ。ステータスの暴力である私や【人化】を解けば誰にでも余裕で乗れるルディルはともかく、ルージュも動けない訳じゃないからね。具体的には、剣を浮かせたのと同じ要領で鎧全体を浮かせて、擬似的にホバー移動できる。


「あ、なるほど? そういう感じの? まぁ剣を浮かせられるなら同じ扱いの鎧も浮かせられるか!」

「で、あなたはどうするんですか「第四候補」?」

「こうする!」


 なお「第四候補」は馬っぽいゴーレムを召喚して、それに乗って移動するようだ。素早く移動できるならいいか。

 何で速度が要るんだって? そりゃもちろん目的地まで距離があって時間がないっていうのもあるけど、それ以上にだな。


「では私達は北側へ」

「こっちは東側だな!」


 ……大神殿にワープしてるんだぞ? つまり、大きな街の、ほぼ中心部なんだぞ……?

 もちろん何処かに居るだろう『バッドエンド』構成員からの監視の目をごまかすって目的もあるけど。そもそも、街から出る為には、一般召喚者プレイヤーから逃げ切る必要があるからだよ……!

 だから普段はエルルに移動をお願いしていた訳だが、エルルもサーニャもこちらは隠密重視で移動中の筈だ。目をこちらに引き付けるって目的もあるしな。ははは。どうせ姿を見せるんなら1回で最大の効果を上げなきゃ割に合わないじゃないか。


「さて、ルージュ」

「(p*・∀・)p」

「刃を立てると後がややこしいですが、峰打ちまでは問題ありませんのでガンガンやって良し、です」

「(;・∀・)」

「……マスター。もしかして彼女、対超多数戦闘に慣れてたりするのかなぁ?」

「大得意ですよ」


 まぁ、だからルシルとかルチルじゃなくてルージュなんだし。ちなみに、ソフィーさん達は『可愛いは正義』を通して移動の補助をしてくれる算段になっている。

 っさー、ちょっとミスったらすぐもみくちゃにされるだろうから、一気に駆け抜けないと色んな意味で危険な街に繰り出そうか。先行最速逃げ切りが完全勝利の条件だ。

 ……おかしいな。何処の危険地帯だ? 街ってもうちょっと平和な場所だった筈なんだけど。

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