第393話 17枚目:進む準備

『「第三候補」ー! 許可出たから合流して、くれ!』

『主語を盛大にすっ飛ばしましたね。まぁいいですけど。足りないと言っていた材料が集まったので、どちらにせよ持っていくつもりでしたし』

『仕事が早い!』


 嫌な推測をしつつもボックス様の試練ダンジョンから出てきたところで、「第四候補」から、これは多分ウィスパーが届いた。広域チャットとの区別が難しいんだよな。慣れの問題だと思うけど。

 さてそれはともかく、無事説得の方は上手くいったらしい。となればどうやって「第一候補」の島に移動すればいいかだが、そこはカバーさんに船の操舵をお願いした。

 何せエルルもサーニャも「第一候補」の島に居る。あの自爆テロの続きが無いか警戒するのと、「第四候補」が説得の為に引き留めてたからな。まぁ説得が終わったんならすぐ戻ってくるだろうけど。


「お! 「第三候補」、こっちこっち!!」


 ぶんぶんぶん!! と力いっぱい手を振っている「第四候補」はハイテンションで、その少し向こうで、渋々、という様子を隠そうともしないエルルとサーニャは大分機嫌が悪そうだ。

 場所はあの建物の内、居住区側にある部屋というか、そこに続く廊下だ。部屋の中で待ってればいいのに、待ちきれなかったらしい。


「……どーしても必要だって言うから、仕方なくだからな」

「確かに、姫さんでないと無理っぽいから、しょーがなくね」

「ははは。まぁ悪用は考えなくていい相手ですし」

「「それでもだ(よ)」」


 声を揃えるエルルとサーニャは本当に機嫌が悪い。死ぬ訳じゃないし安全か危険かで行ったら安全だと思うんだけどなぁ。

 まぁ既に勘の良い人は何の事か察していると思うが、改めて説明するとだ。今回「第四候補」が主体となってやる事には、桁外れに性能の良い装備が必要な訳だ。

 それこそ、現時点での最高峰のスペックを持つ装備でも全く不足というほどで、じゃあどうすれば性能を跳ね上げられるかという問題に対して、私の素材を使おう、という事になった、という訳である。


「と言っても、流石に角や牙は痛いので断らせてもらいますよ?」

「大丈夫。欲しいのは鱗だから。宝石の性質があるんなら杖にピッタリだしな! 俺とアンネとカナで3人分が必須、出来れば拗ねちゃうからメアリーの分も欲しいんだけど!」

「それも含めて説得したんならいいんですけど」

「…………気持ちは分からなくもない」

「本当は必須の分だけにして欲しいけど、1人だけ除け者みたいになるのは流石にボクも良心が痛い」


 という事らしいので【人化】を解除。大型犬サイズのドラゴンなので部屋の中でも余裕だ。ていうか、ちょっと大きくなったか私。前はもう少し小さかった気がする。

 ちなみに今出て来た3人分の女性名は、「第四候補」による元作成使徒、現使徒生まれの人達の事だ。全員召喚型かつ使役型のスキル構成で、メアリーさんがアンデッド系、アンネさんが人形系、カナさんが式神系らしい。【人化】の有無は分からないが、全員タイプの違う美女だった。

 ……ただ、何となくだが全員ヤン属性を持っている感じするのは気のせいだろうか。そういう女性が「第四候補」の好みなのか、その後判明したそれぞれ特有の性格なのかは分からないが。


「うーん何というか、姿勢の良さや鱗や毛の色艶が素晴らしいな。犬基準の目線だけど」

『ブリーダーか何かだったんですか?』

「ノーコメント! さてそれじゃちょっと失礼するぞ~」


 ぺたっとその場にお座りして「第四候補」が見るに任せる。ぐるぐるとしばらく私の周りを回って、翼を広げてみたり尻尾を持ち上げたりしていたが、盛大に突き刺さっている視線に押し負けたのか、普通に腕(前足?)の鱗を採る事に決めたようだ。

 もちろん「第四候補」も【採取】は持っている。なので、ティフォン様から加護である【竜鱗】を貰ってから、よく見れば厚みが増して中央に線が入るような形で盛り上がった鱗を引っ張れば、するっと採れる筈だ。

 ……なのだが。


「え、ちょっと待って、なんかいくら引っ張っても抜けないんだけど? 何で?」

『……。ステータスが足りないのでは?』

「どっちかっていうと「第三候補」のステータスが高すぎるんじゃないかな!?」

『後は【採取】のレベルが足りないとか。まぁどちらも十分あり得ますけど』

「まさかの罠だよ!!」


 っていう事だったので、「第四候補」が再度エルルとサーニャを説得に掛かり、結構な時間をかけた後で私が自分で鱗を採る事になった。まぁステータスで難易度が上がるんなら、自分でやるなら間違いなく必要な分のステータスを持ってる事になるだろうし。

 手は爪があるし細かい事が出来る感じが一切無いので、尻尾を使って鱗をぽいぽいと4枚引き抜く。うん。痛みも無いし、体力(HP)が削れた感じもしないな。流石にこの程度でステータスが下がるって事も無いだろう。

 無事に透明な竜の鱗を「第四候補」に渡して【人化】する。袖をまくって腕を見るが、うん。怪我とかそういうのは無いな。


「決行時、私達は荷物運びと護衛ぐらいしか出来ませんからね。で、性能は足りそうですか?」

「あっはっはっはっは、【鑑定】してみたらこの素材えっぐいな! 大丈夫これで足りなかったらどうしようも無いから!」

「何が大丈夫なのかさっぱり分からない言い方をしなくとも」


 なお「第四候補」曰く、自分で作れない物はゴーレムとしても作れないとの事で、あの砦を作って籠城戦していた関係から、生産スキル一式は持っているし結構レベルが高いのだとか。

 早速装備の生産に入るべくテンションが高いまま部屋を出て行った「第四候補」を見送り、息を1つ。


「無いとは思いますが、作るのに失敗したらどうするんでしょうね?」

「二度目は無いぞ」

「まぁ頑張ってもらうしかないんじゃない?」


 ……うん。まぁ、無いとは思うけども。

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