第392話 17枚目:覚悟と推測

 どこまで時間的猶予があるか分からないので、そのまますぐに行動開始だ。私はボックス様の試練であれば1人で挑戦しても良しと言われているので、「第四候補」からざっくりと必要な素材を聞きだして連続挑戦である。

 「第四候補」はエルルとサーニャの説得、「第一候補」はパストダウンさんを始め元『本の虫』メンバーと協力して、可能な範囲で情報を集める事にしたようだ。

 ちなみに「第五候補」はのんびりじっくり時間をかけて、更にリーガンさんから詳しい話を聞きだしている。まぁ確かに、そんな末期の状態になってたら普通はすぐ分かる筈だからな。そうじゃないって事は、何らかの偽装をしていたって事だろうし。


召喚者プレイヤーも含めて普通に交流は続いている筈ですからね。にしても、全く。その町にとっては間違いなく最悪の滅び方でしょうから、心底エンジョイしているようで……!!」


 心の底から嗤いながら、町という単位に最悪の終わりバッドエンドをもたらしたゲテモノピエロの姿が浮かぶ。……正直に言えば、現実においては「何ゲームにそんなマジになってんの?」と冷めた目で見られるのは私の方だろう。

 けど、だ。

 敢えて言おう。


「――本気になって何が悪い」


 本物の異世界だと思って何が悪い。そこにいる人々を「生きている」と思って何が悪い。自分と同じ1個の人格で命だと思って、何が悪い?

 理由なんて「私はそう思った」からで十分だ。エルルやサーニャに、妖精郷の妖精たち、『スターティア』の人々、人魚族や歌鳥族、渡鯨族の人達。肉の身体が異世界に存在しない、その程度の違いがどうした。

 ゴッッ、と、山が動いているようなサイズ感の石で出来た巨人を殴り倒し、砕けた巨大な身体をインベントリに回収しながら、脳裏に浮かぶピエロ服を着た異形の姿を振り払った。


「見下して嘲笑って壊すことしかしないなら、最初から関わってくんな」


 把握は出来ても理解は出来ない。根本から相容れないし絶対に退かない。互いの思い描く未来が重なることは一切無い。嗜好に由来する違いなのだから、恐らく、死んでも変わらないだろう。

 作り育むことと歪め壊すことが交わる事は、それこそ、天地がひっくり返っても有り得ない。

 だから、これは、戦争なのだ。




『やっぱり~、見た目は普段通りの生活をしていたみたいよ~。寄生が重度になると~、区別を付けるのは難しいんですって~』


 冬休みまでの数日を過去最高に長く感じながら帰宅してログインした翌日。まだちょっと材料が足りないという連絡を受けてボックス様の試練に挑んでいると、「第五候補」からそんな情報が届けられた。

 どうやらクランにはその拡張具合によって、レイドボス戦の時のような、クランメンバー限定の広域チャット的なものが使えるようになるらしい。メンバーであってもあまりに離れた場所に居ると通じないそうなのだが、この群島の中に居る間は問題なく通じる様だ。


『まぁその程度はしておるであろうな。位置としては辺境であっても、召喚者や住民の移動経路としては普通に機能しておる筈なのだ』

『でも~、神官の人や~、ある程度以上普通の神を信仰している人は~、町に留まろうとしなくなったんですって~。神殿長さんも~、神殿の外に長く居るのは辛かったそうよ~』

『それはそうでしょうね。何せ邪神ですし。強制的とはいえ自らを省みないぐらい強く祈りを捧げる信者がそれだけ集まれば、ある種の聖域的な場所にもなってるでしょうし。邪神ですけど』

『聖域って言うか穢土地だよな! 一般人からすると!』

『そのどちらも間違っておらぬのが頭の痛い所だ。そしてそれだけ自身の気配が濃い場所であれば、直接奇跡の1つ2つ振るえてもおかしくはない。……邪神の奇跡など、碌な物ではないのだが』

『下手すれば土地を含めた町諸共生贄と言う名の消滅やらかして、莫大な量の空間の歪み発生からの過去最悪の野良ダンジョン登場まで行くんじゃないですか?』

『否定できぬな。流石に、そこから世界が崩壊していく、というところまでは何らかの強制力で防がれるだろうが』


 否定出来ないらしい。っていうか、世界崩壊の引き金としても十分なのか。怖。まだ大陸2つ目の問題も解決しきってないのにゲーム終了の可能性があるとか怖。

 いやまぁ『バッドエンド』というかあのゲテモノピエロの考えからすればそこまでいけば喝采ものなんだろうけど、流石にそれは運営からの強制ストップが入ると思いたいところだ。

 まぁ、強制力が働いたらせっかくのイベントが無くなっちゃうかもしれないから、やっぱり内部で防げればそっちの方がいいよね。召喚者プレイヤー全体に対するペナルティとかあってもおかしくないし。


「……ペナルティを課すぐらいならさっさと垢バンしとけって、実際そうなったら文句言お」


 しかし、ここまでやらかして(私もある意味言えないのだが)強制排除されないってどうなってるんだろうな? 注意位で行動を改めるとは思えないけど、それでも何らかの手は打ってる筈じゃないか、普通なら。

 ……ん? いや、ちょっと待てよ。確かあの大規模アップデートの時に、大神(運営)と神々は別の物なんだなってほぼ確信したよな。そして、その行動にはあんまり大きく干渉できないのも。でなきゃあのイベント概要のぐだぐだ具合が説明できないし。

 って、ことは。それは多分、“破滅の神々”にも、適用される訳で。正しい手順で、しっかり信仰し、捧げものをして、授かった加護なら。大神(運営)でも、手出しし辛くなる、って事、だよな?


「あれ? って事は、まさか……その辺、何か、ガードが掛かってたり、する……のか?」


 悪の為の悪を成しても、世界から追い出されにくくなる。悪徳を積んでも、超常的な手段で排除され辛くなる。それが、邪神の加護。その効果の1つ。だと、したら。

 ……どうしようか。筋が通っちゃったんだけど。


「あれか。やっぱり正面から、直接、殴り合いで倒さなきゃいけないのか」


 物理的な意味だけではなく、策略的な意味も含んでだな。

 ……マジかぁ。

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