第391話 17枚目:対処相談
さて話を聞き終わり、リーガンさんに「第五候補」が別室に案内する形で退室してもらって、まず何を一番に警戒するべきか、と言えば。
「問題は自爆テロです。テイムで再利用可能になっている人間爆弾……言葉にすると最低度がすごいですねこれ」
『同意である。が、流石に「第三候補」ほど高いレベルの【絆】を持っている者はそうそう居らぬであろうし、そも爆弾を見破り安全に引き剥がす時点で難易度が高い』
「私もルフィルが気づいてくれなければ間に合ったかどうか自信ありませんからね。そもそも虫下しだって在庫が常備してあるような物でもないでしょう」
相手が今回の自爆テロの成功率を、どのくらいだと想定してるかにもよるだろうけど。もし防がれて町の状態が分かるという前提であれば、それに動くという事自体が相手の思惑通りだ。後手に回る事が続けば、たぶん何処かで致命的なダメージが入るだろう。
逆に、あそこまで念入りにテイムや寄生をしていたんだ。成功するという前提であれば、それをほぼ完璧に防いだ現状はこちらが一歩上回ったという事になる。そうであれば、このまま即座に行動すればギリギリ速度で勝てるだろう。
……まぁ、普通はその両方を考えて行動しているだろうけど。つまり、成功しても失敗してもダメージを抑え、利益を得る為の動きがある。筈だ。
『そう言えば「第三候補」。あの少年、フード付きケープも取り払っていたようだが、あれは一体どういうことだ?』
「あぁ、あれですか。どうやら刺繍と言う形で盗聴機能と監視カメラ機能が付いた発信機のようなものになっていたらしいですよ。もちろん支払わなくてはならないコストは重いですが、装着者から強制的に吸い上げる仕様だったとか」
『それは確かに取り払ってそのまま破壊するのが正解であるな……』
ほんと最低だよな。そのコストの分もあって状態が「瀕死」だったらしいよ。鎧の人の方は爆発物そのものが劇薬だから、触れてるだけでダメージが入る仕様だったし。
まぁそれはともかく、問題は自爆テロだ。他の場所で起こったらまず防ぎきれない。そしてあの爆発物そのものが劇薬な上に、周辺一帯にクレナイイトサンゴがこれでもかとばら撒かれるとなれば、単純な爆発だけでも大概なのに周辺被害がどうなる事か。
その辺の被害確認と警告はカバーさん達がしてくれている筈だが、どれだけ効果があるかは分からないんだよな。元『本の虫』のメンバー同士の繋がりは生きている筈だから、各クランへの連絡はスムーズに行くだろうけど。
「今の所それらしい被害は確認されていないようです」
「そもそも黒と目される町からの接触自体、今回が初めてのようですね」
と、カバーさんとパストダウンさんから声が掛かった。なるほど。とりあえず今の所まだ直接被害は出ていない、と。まぁ時間の問題だろうけど。
しかしあの大規模海戦の時と言い、その後の海流を利用しての妨害工作と言い、今回の件と言い、あっちに爆発物が好きで得意な奴が居るな? テロと言えば爆発物ってイメージも無くは無いが、火薬って
生産道具も既に揃えて、材料の安定供給も可能になってると見た方がよさそうだ。もっとも、材料が採れる場所は最初の大陸だけでも結構あるし、そちらの方向から押さえるのは無理があるだろうけど。
『被害が無いのは幸いであるが、放置してはまず間違いなくまた被害が出るであろうからな。可及的速やかにどうにかせねばなるまい』
「ほんっとそれな! でもじゃあどうしたらいいんだって話だけどさ。あれだよな? 1ヵ所どうにかしたらあと2ヵ所がどうにもならなくなるんじゃね?」
「微塵も否定できないんですよね。1つの町に手を付けた瞬間にあと2つが丸ごと生贄に捧げられるとかも十分ありえますし」
『その場合、きっちり元凶は逃げ去って手掛かりも皆無になっておる上に、更なる災厄が出現するという事だから、実質こちらの敗北であるな』
「で、真っ先に私達の所へちょっかいを出してきたって事は、相応に警戒してるって事でしょうから、踏み込んだらアウトの可能性まである、と」
「うーんこの手詰まり感。何でその頭をもうちょっと平和な方に使わないんだろうな?」
ほんとな。趣味嗜好の違いだって言われたら終わりなんだけど。
さてまぁこれらの前提から考えると、まず町自体に踏み込むのは避けないと最悪詰む。次に3ヵ所の同時攻略が必須。今回も大盤振る舞いである事を考えると、クレナイイトサンゴ対策も欠かせない。
……難易度が高いんだよなぁ!
「まず虫下しの数が圧倒的に足りないんですよね。今作って貰ってはいますが、1つの町だけでも足りるかどうか」
「でもあれだろ? 虫下しってその、くれないとさーご自体が無いと作れないんだろ? 詰んでるじゃん」
「くれない、いと、さんご、です。そうなんですよね。……闇に紛れて被害者を攫うとか出来ればいいんですけど」
「物騒! いや確かに確実な救助と素材調達を兼ねた提案って意味だとすげー有効なのは分かるけど!」
渡鯨族の街にはまだ在庫がある筈だが、無理して出して貰うと渡鯨族の所で足りなくなる可能性がある。だってあの海にはまだクレナイイトサンゴが普通に生き残っているのだ。今も少しずつ駆除は進めているようだが、それでも元の数が数だから、中々進んでいないらしい。
それにあんまりまごまごしていると、その町の井戸や近くの川を経由してクレナイイトサンゴがばら撒かれる可能性がある。地下を含めた水脈がクレナイイトサンゴに汚染されるとか、最悪をさらに下回る事態だ。
だから、難易度が高いんだと……!! と頭痛を耐えていると、んんー、とこちらも何か考えていた「第四候補」から、こんな声が上がった。
「なぁなぁ。その、えーと、くれない……なんちゃらって奴。寄生虫なんだよな?」
「クレナイイトサンゴですね。寄生虫型のモンスターです」
「長すぎて舌回んないんだよ! でその、寄生ってどんな感じのやつ?」
『主に脳を中心とする神経への癒着であるな。深度が増すにつれて神経を侵食する形で破壊する故、後遺症が酷い事になる』
「うっわえぐい。一応イベントログって形で追いかけはしたけど詳しく聞くとほんとえぐい。……けどまぁ、あれだな? 神経への寄生ってことはー、神経が無けりゃ効かないんだな?」
「まぁ理論上はそうですが……」
『流石に無機物に寄生して操る、という話は聞いた事が無いであるな』
それらの回答を受けて、にっ、と人外の美貌に、悪戯っ子のような笑顔を浮かべる「第四候補」。
「うん。いけるかもしんない」
「何がです?」
「ゆーかい」
それはさっき私が口に出して、有効だが物騒と言われた、現実味の薄い机上の空論的な提案だ。そこで先程の各種確認を思い出し……なるほど、と納得した。
確かに「第四候補」なら出来るだろう。そしてそれは、種を知らなければ分からず、準備さえしっかりすれば3ヵ所で同時に行動する事も可能だ。同様に「第一候補」も思い至ったのか、否定や疑問の声は出てこなかった。
「……で、だなー。その準備の為にはこう、必要な物があってだな?」
「魔石にしろ素材にしろ、まぁ山ほど必要でしょうね」
「うんそうなんだけどさー。流石に今持ってる装備だとその、あれだ。出力ってかスペックが足りなくって、な?」
『…………説得は自身でする事だ』
「手伝ってくれ! 説得しきれる自信は、無い!!」
んだけど。
……まぁ、うん。正直、そこが一番難易度高いよね。自力で頑張ってもらうしかないけど。
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