第390話 17枚目:とある町の状態

 「第五候補」によるよしよしタイム、もとい小休憩を間に挟み、一般人間種族の町ストーサーの“権威の神々”神殿長リーガンさんの話の続きを聞く。その祭壇を受け入れてから(内部時間で)1ヶ月程経った時、祭壇を持ち込んだ召喚者が、その祭壇から試練に挑めるか試させてほしい、と言ってきたのだそうだ。

 繰り返すがその召喚者は、あの渡鯨族の街が襲撃された前から、襲撃後も態度を変えず神殿に通い続け、祈り、せっせと神殿への捧げものを収めて来た、態度と行動は間違いなく熱心な“権威の神々”の信者だ。

 なのでそんな召喚者が試練に挑めれば、それはすなわち祭壇が“権威の神々”のものに染め上げられたという事。もちろんリーガンさんは快く許可した。


「そうして……そうして召喚者達は、試練への扉を開き、その向こうへ姿を消しました。そしてしばしの後、神が振るったと伝承にあるものとそっくりの武器を持ち帰って来たのです……」


 試練に挑戦する事が出来たという点、及び試練で得たというその武器が、劣化した神の武器と言って過言ではない品であったことから、リーガンさんは無事祭壇を染め上げる事が出来たのだと安堵したのだという。

 そして神の定まらぬ祭壇が“権威の神々”のものになったのであれば、いつまでも神殿の奥に安置していてもあまり意味は無い。何故なら元々の祭壇と被るからだ。2つ並べて祈った所で祈りが倍になる訳じゃ無いからね。

 これは辺境ではなく、もっと大きな街かいっそ都まで運び、そこの大神殿に寄贈するべきだろう――と思ったリーガンさんだが、そこにストップをかけた存在が居た。そもそもの祭壇を持ち込んだ、召喚者達である。


『つーかこれ全部自作自演だよな? 試練に挑むって言っても住民からはどの神の試練に行ったかは分からないんだし? 最初から形と属性だけ似せて作ったのを持ち込めば内容関係ないじゃん?』

『まぁそういう事ですよね。見た目に熱心な信者であっても内心が違えば祈りは形だけの物になる。本来ならそんな空っぽの祈りは、頻度次第で天罰対象でしょうが……』

『謹慎中で身動きが取れない間ならいくらでも、って事だよなー!』


 話は真面目に聞きつつ、「第四候補」の相手をウィスパーでする。シリアス苦手にも程があるだろう。見た目は良いんだからもうちょっと静かにしてろ。

 さてまぁストップをかけた召喚者達だが、この祭壇は何処かへ運ぶのではなく、街角に設置して気軽に誰もが祈れるようにした方がいいのではないか、という提案をしてきた。

 祈る場所なら神殿がある。なのに何故、と少し訝しく思ったリーガンさんだが、そもそも事ここに至るまで支えてくれた召喚者達の言葉だ。拒否する事の方が難しい。その上に、だ。


「……まだ、神殿への風当たりは強く。彼らは、信仰心を取り戻していても、神殿まで向かうのは、難しい人々が居るのではないか。そんな人々には、祈っていると多くに知られぬように祈る事が出来る場が、必要ではないか、と」


 完璧な理屈だ。そこまで言われては否定のしようが無い。だからリーガンさんはその召喚者達の勧めに従い、街角の人通りが少ない場所に、小さな庵のような簡易神殿を建ててそこへ祭壇を安置した。

 それ以後リーガンさんは、今まで通りの生活を送りながら1日に1度、その簡易神殿の様子を見に行っていたのだという。最初の方こそゴミが捨てられていたり泥団子が投げつけられていたりしたが、地道に清掃と手入れを続けていると、その頻度は徐々に減っていったらしい。

 代わりに少しずつだが、小さな花や小さな器に入った水等が祭壇付近に供えられている事が増えていったという。もちろんリーガンさんは喜び、それらのお供えを、祈りを持って神に捧げたという。


『だがしかーしその祭壇は“破滅の神々”の物だった!』

『まぁそうなんですけどこんな時まで実況しないでくれます?』

『辛辣!』


 やがて日が経つにつれ、簡易神殿に人の気配を感じる事が多くなった。流石に顔を合わせるのは気まずかろうと、祈りを捧げているらしい人が居れば、帰るまで待ってから清掃や手入れをしていたようだ。

 この分であれば、遠からず神殿への参拝も、以前と同じように行ってくれるようになるかもしれない、と、神と例の冒険者達に感謝を捧げつつ日々を過ごしていた、の、だが……。


「ある日……簡易神殿で祈りを捧げ、神殿に戻った際、何か違和感を覚えたのです。その時は思い当たる節は無く、いつものように自らを清め、改めて神殿にある祭壇へ祈りを捧げ、眠りに就いたのですが……」


 最初は気のせいかと思うほど僅かな違和感だったが、それは消えるどころか、本当に僅かずつだが増していった。それがとうとう、一瞬だが痛みを伴うようになったところで、流石にリーガンさんも真剣にその理由を探し始めたという。

 その頃には神殿への参拝もそれなりに行われるようになっていて、簡易神殿も大体常に誰かしらが参拝している状態だったらしい。もちろん謹慎期間中の話なので、神へ祈ってもその答えは返ってこなかったのだが。

 けれど、流石に同じタイミングに同じ違和感が、何日も発生し続ければリーガンさんも原因に気づく。だってその違和感が起こるのは、必ず決まって、あの簡易神殿の祭壇で祈り、神殿に戻ってきた時だったのだから。


「……まさか、と。そんなまさか、そんな訳が無い……。神殿を支えてくれた、あれ程に熱心な信者を疑うなど。そんな不誠実は許されない……。あぁ、あぁ。そこで、間違いがないのは神の方であると。人は誤るものだと、騙るものだと……私が、神の事を信じ抜けていれば……!」


 ……まぁ、そういう事だ。そこで疑いきれなかった。ブレーキをかけ損ねた。

 もちろん本当に周到に、念に念を入れて用意された、非常に大掛かりかつ巧妙な罠であったから、気付けただけで――そしてその後、正気を保ち続けたという事だけで、十分称賛に値するのだとは言っても、だ。


「私が……私が、あの時に、声を上げていれば……! 更に過ちを重ねた事を、それによって何が起こるかを、恐れなければ……! あのように――ストーサーは、あのようにならずに、済んだのです……!」


 で。このイベントでの、“破滅の神々”の台頭、という部分に繋がるらしい。

 具体的には。


『……本気で町を1つ落として、その住民を1人残らず、命を顧みず祈りを捧げ続ける、実質的な奴隷にするとはな』


 流石に「第一候補」も声がガチ怒りだよ。まぁこの話を聞いて怒らない奴が居たらその時点で敵だけど。サーニャでさえ顔をしかめて目が怖いって時点で分かれって話だ。

 クレナイイトサンゴによる洗脳で寝食を忘れて祈りを捧げ続けさせ、実際命を落とせばそれはそのまま生贄としてカウントされる。本当に、邪神視点では実に効率がいい信仰形態だ。もちろんそれが続けば町は滅ぶから、あのゲテモノピエロもにっこりって奴だろう。

 そしてなお悪いのが、同様の末期状態になっている町が、あと2つあるって事だ。何故って、渡鯨族の街を襲撃した狂信者たちの掲げていた宗教は“権威の神々”だけではないからな。


「あと、最低でも“叡智の神々”と“光輝の神々”でしたっけ?」

『で、あるな。集まった人数も中心集団も、ほぼ同数である』


 末期状態になっている町だけで3つ、周りに散って根っことして生きているだろう繋がりまで含めたら、どうなることやら……。

 いやほんと、何でそのコネクションと手腕をもうちょっとマシな事に使わないかな。

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