第389話 17枚目:偉い人の話

 私がクレナイイトサンゴを私の島に運ぶ時間と、とりあえずすぐ死なない程度の応急処置をした意識不明の5人を治療の為の部屋に運ぶ時間で、代表者をしていた偉い人には落ち着いて貰う事にした。

 ルディルに事態の簡単な説明とクレナイイトサンゴの現物を預けて虫下しのレシピを教え、ルフィルと交代でカバーさんを呼び、再び「第一候補」の島へ移動だ。


「あいつらが目立つ動きしたって? やっぱり後手に回らされたか!」

「本当にねぇ~」


 連絡を受けて急いで来てくれたらしい「第四候補」と「第五候補」と一緒に、偉い人が待っている部屋へ移動だ。流石にあのロビーじゃなくて、お客様用のちょっと奥まった部屋に移って貰っている。

 その前にちょっと寄り道して、相変わらず死んだように身動きしない5人の所へ移動。ぐにぐにと耳や頬を引っ張って微量のダメージを通してから【絆】を発動してテイムを上書きし、即座にリリースしておいた。一応念の為にね。ゲテモノピエロ一派との繋がりなんてない方がいいだろうし。

 気持ちその顔が安らかになった気がしないでもない5人をそのまま、偉い人が待っている部屋に辿り着く。『アウセラー・クローネ』の代表者は私で揃う筈だ。


「遅くなりました……って、どうしたんですか」

『どうも何も、突然取り乱し始めてそのままであるな』

「しゃーないから宥め役はお任せ。性別逆なら頑張っちゃったんだけどなー」


 ……まぁ、扉を開けて真っ先に飛び込んできたのが、ソファーで目をぐるぐるさせながら「第五候補」に膝枕されてる偉い人だったんだけど。何事? とその様子を見ている2人に聞いてもそんな感じだ。

 この短時間で一体何が……と思ったところでふと脳裏をよぎるものはあったが、とりあえず黙って「第五候補」による篭絡、ゲフン、カウンセリングの結果を待つことにする。

 そして、カバーさん達元『本の虫』組が情報交換をしたり掲示板から情報を集めたりしているのを聞きながら待つことしばらく。


「お見苦しい姿をお見せしました。申し訳ない」

『気にせずとも良い。それほどの事があったのだろう?』


 どうやら正気に戻った(?)偉い人は、ちゃんと席について話してくれる状態になった。……まぁその隣に「第五候補」が寄り添うように座ってるんだけどね。精神安定の為だ。仕方ない。(目逸らし)

 偉い人はリーガンと名乗り、ストーサーというそこそこ栄えている町で“権威の神々”の神殿における神殿長をしているらしかった。その町の神殿の中では一番偉い人だ。やっぱり本当に偉い人だった。

 ちなみにストーサーという町の位置は鬼族の集落と『ホーピス』(『スターティア』の次の街)の間にいくつかある、中継地点になる町の中で北の方にある町のようだ。


「(その時点で何か嫌な予感するんだけど)」


 ……私のマイナス方向の予感は良く当たる。やっぱりというか何というか、渡鯨族の街を襲撃した狂信者の集団、その狂信者の2割ぐらいが所属していた町なんだそうだ。しかも同じぐらいの人数を人脈で集めたという中心集団である。

 黒確定……。と思ったのは表に出さず話を聞く。まぁあの時の襲撃では“天秤にして断罪”の神から直接神自身に罰が下ったという事で、かなりガッツリと取り締まられた筈だ。

 と、なれば……まぁ、ほぼ自業自得とは言え、残った神官の人達や神殿へ向けられる目は、ねぇ?


『いやいやいや完全に自業自得だからー!! 俺関与してないけど!!』

『完全に同意ですがウィスパー飛ばすほどですか?』

『俺、シリアスはそんなに持たないの! 無理! 空気重い!!』

『我慢しろ下さい』

『酷い!?』


 思わず丁寧語も崩れるってもんだよ。突然ウィスパーが飛んできたから何事かと思ったら子供か。表面上大人しくしてるから真面目にしようと思えばできるんだなと思った感心を返せ。

 ともかく、それでも神殿長ことリーガンさんは、真面目にすることで信用を回復しようとしたのだそうだ。正しい行動をしてしっかり反省すれば、町の人達との関係も最低でも元に戻る筈だと。偉い。立場じゃなくて心根が偉い。

 ……んでも、まぁ。個人では背負えるものも、抱えられるものも、限界がある。真面目な人なんだな。同じ神殿に勤めていた神官達の狂気に気付かなかった事、町の人達からの冷たい態度と目、応答の無くなった神への祈り。背負って抱えて、折れずとも落ち込んでしまうのは仕方ない。


「……そこへ。熱心に祈りを捧げて来てくれていた召喚者から、1つの祭壇が持ち込まれたのです――」


 その召喚者達曰く、神の物ならぬ試練を乗り越えて出て来た品であり、調べてみた所、しっかりと信仰を持った聖職者が祈りを捧げる事によって、その神の祭壇へと染め上げる事が出来るらしい。との事だった。

 騒動以前からと変わらず神殿に通い、祈りを捧げ、金銭面も精神面も支えてくれた召喚者の言葉だ。リーガンさんはその祭壇を受け入れ、毎日熱心な祈りを捧げる事にしたのだという。


「ちなみに「第一候補」。そういう性質の祭壇はあるんですか?」

『無い。祭壇と言うのは神への祈りの場そのものだ。神の定まっておらぬ祭壇など有り得ぬ。あったとしてもそれは人の手で作っている途中の物であり、試練によって出現する事は無い』


 うーん一刀両断。リーガンさんが俯いてしまったのを「第五候補」が慰めにかかる。これはちょっと休憩かな?

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