第388話 17枚目:危険物処理

 で。

 早業で鎧ごと爆弾が縫い込まれたシャツをルフィルが引っぺがし、それを私が全力を込めた結界魔法で隔離。何故かその中に付き人らしい神官服の人達のフード付きケープも入っていたが、その理由を聞く前に爆弾が爆発。

 ッッドン!! と、結界に包まれていてもかなり強い衝撃が通ったので、これがこのまま爆発してたら島の地形が変わるぐらいはしてたんじゃないだろうか……とぞっとしながら虫下しの瓶を取り出しつつ、エルルとサーニャを振り返った。


「2人で協力して簡易の水風呂とか作れます?」

「あの寄生虫モンスターか。アレクサーニャ、枠」

「えっ何それ知らないんだけど!?」


 実際直接相手をしたエルルは秒で理解してくれたが、サーニャは大混乱だ。まぁそれでも氷でがっちりした空箱を作ってくれたのは流石なんだけど。

 そこへエルルがざばっと水を投入して、そこへ私は1人ずつ軽装になった人を放り込み、その口に虫下しを突っ込んだ。

 ……うっわ、とちょっと引く程の赤い糸のようなものが出て来た段階で、ようやく「第一候補」も把握したようだ。


『……まさかこのような手段を取って来るとはな。すまぬがお客人、彼らはこちらで治療するが、良いな?』

「は、はっ?」

「【鑑定☆☆】したら「瀕死」とか出てたんで急いだほうがいいですよ」

「は、なんっ……いや、それは、是非お願い致します……!」


 いやー御使族のネームバリューすごいな。とは言え一応現状最高の神官であり、そのままヒーラーを兼任している「第一候補」なら大丈夫だろう。ばさっと大判の毛布を広げた上に、虫下しを飲ませ終わって水風呂から引き揚げた人を転がしていく。

 鎧を着けた護衛が3人、フード付きケープを被っていた付き人が2人だったので、虫下しは無事に足りた。……付き人の人に虫下しを飲ませたら、簡易の水風呂がすごい事になったけど。


「……「寄生(大量)」って時点で嫌な予感はしましたが、改めて見るとやっぱり気持ち悪いですね……」

「で、これどうすんだお嬢」

「虫下しに加工してもらおうかな、と。ルフィル、製法を伝えたらいけますか?」

「3人掛かりなら多分大丈夫だと思うメェ」


 3人。つまり、ルフィル、ルフェル、ルディルの調薬組だな。まぁ製法そのものに捻った部分は無いし、調達が最も難しい材料であるクレナイイトサンゴは今大量に手に入った。時間さえあればいけるだろう。

 しかし何度でも何処までも祟ってくれるモンスターである。それを大いに利用している『バッドエンド』も性質が悪いが、それは既に分かっていた事だし。


「“破滅の神々”の信者に寄生と洗脳能力を持ったモンスターを与えるとか厄以外の何物でも無いんですよねぇ」

『全くであるな。こちらも辛うじて命はあるが、治療に相当な時間がかかるであるぞ』

「でしょうね。後遺症はどの程度ですか?」

『このまま、通常の治療であれば……死ぬまで寝た切りであるな』


 まぁ神経へ癒着する形の寄生だからね。脳を含めて神経系統が全身ボロボロになるって事だから、再生系の治療を使って神経の再構築をしないといけないって事だもんな。通常じゃない治療なら目があるだけ良しとするしかない。

 で、ここまでやっておいてなんだが、置いてきぼりになった代表者さんは、とちらっと視線を向けると……ボロボロと、お爺様の入り口ぐらいにいる人が声も無く大泣きしていた。お、おう。大丈夫じゃないな? どういう感情?


「あぁ……あぁ、すまない。すまない……私が、私があの時に、しっかりと神を、信じ抜けてさえいれば……お前達が、こんな事になる事も、無かっただろうに……」


 ……話をちゃんと聞いてから判断しなきゃいけないが、多分この人、偉そうな分だけは本当に偉いんだな。毛布に並べられて身動き1つしない5人の横に膝をついて、首から下げていた“権威の神々”のシンボルを額に当てて祈るようにしながら、言葉と共に止めどなく涙を零していた。

 さて。もう既に十分嫌な予感しかしない訳だが……これはもしかすると、本気で町の1つぐらいは、落とされてたんじゃないかと思えて来た。

 だって渡鯨族の街への大規模な襲撃があった事から考えて、絶対どこかにコネクションはある筈なんだ。そして、十分な時間もあった。その時間で、きっちり、しっかり、その繋がりを太く深く、根のように張り巡らせていたとするなら……不可能では、無いだろう。


「――この島に居る間は、安全を保障しましょう。ですよね? 「第一候補」」

『無論である。この場は我が領域、我が祈りの地。そうそう簡単に邪神などには手出しさせぬ』


 だから。

 何故この島に来たのか、どうしてこの島だったのか、彼らがこうなった理由は、経緯は、そしてその全てのきっかけは。

 その辺の詳しい事を、この偉い人に、知ってる限り、教えて貰おうじゃないか。

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