第387話 17枚目:招かれざる客

『「第三候補」、少し来てくれまいか』

『今忙しいんですけど?』

『すまぬな。少々危急である』


 恐らくは正攻法以外でその実績を伸ばしている“破滅の神々”を何とか食い止めるべく、難易度をじわじわ上げながら試練ダンジョンに潜っていると、突然「第一候補」からそんなウィスパーが来た。

 手短過ぎるその内容には眉をひそめたが、どうにも本気らしいのでエルルとサーニャとルフィルに来てもらい、カバーさんに声をかけてから「第一候補」の島へ移動だ。

 空を飛ぶには距離が短く、流石にジャンプで移動できる程ではないので素直に貰った船で移動する。しっかし「第一候補」が詳しい事説明しない上に「危急」ねぇ。


「庭主さんが僕を連れてくるって時点で警戒しまくりですメェ」

「そうなのか?」

「そういう事なんです。最悪、『バッドエンド』一派が乗り込んできてて「第一候補」が捕まってるぐらいは想定してますよ」

「うっわぁほんとに最悪だけど邪神の信者だって時点でやってもおかしくないか!」

「メメメ~」


 ルフィルとルフェルは防衛に関して噛んでいる。主にアイテムや罠という方向で。それがそのまま反映されたからか、スキルも【罠作成】とかそういうのが揃ってたんだよね。

 だから、もし罠であり何か小細工がされていれば、それを見破れるという事だ。出来ればルディルも来てほしかったんだけど、万が一があった場合は残って貰った方が助かるので今回はこの4人である。

 エルルの操舵でさくっと中央の島に到着。こちらも「異空の箱庭」を使ったのか、最初に見た時よりも広くなってる気がする島を、その中で一番大きな建物へと進んでいく。


「来ましたよ、「第一候補」。入ってもよろしいですか?」

『うむ。待っておったぞ。入ってくれ』

「それじゃあ失礼しますよ」


 一応クランの代表者だし見栄えも大事、という意味もあって、「第一候補」の島においては住居と来客用の宿泊場所が1つの大きな建物となっている。こう、カタカナの「ろ」の字みたいな形だ。その中央に神殿がある感じだな。

 南側の外側中心に正面玄関があり、今回はそこから入る訳だ。普段の状態であれば、神殿がある中央まで素通りできる大きな玄関ホール的な場所がある。来客との面会と言うか話をする場所でもあるので、大きな扉をノックして「第一候補」の声が聞こえた事に違和感はない。

 だから普通に扉を開いて中に入った、の、だが。


「…………」

『あまりそう睨んでやるな、「第三候補」』


 そこに居た「来客」というのが。……“権威の神々”の印をつけた、結構偉そうな神官と、その付き人及び護衛、という感じの集団だったのは、予想外だ。

 代表者だけが席に座り、後の全員がその背後を固める形で立っているその集団を見るなり、思わず反射的に細めてしまった目をそう受け取ったのか、テーブルを挟んで対面に座るカーリャさん、の、膝の上に抱えられた「第一候補」からそんな注意が飛んできた。

 ……正直、喧嘩を売りに来たのか? と勘繰る程度には私の好感度は低いぞ。この集団に対しての。


「……どこぞの邪神の信徒がやらかしているので忙しい中を来たんです。多少は有益な話なんでしょうね?」

『棘だらけであるなー。安心するが良い。その想定よりは少なくともマシな提案と協議である』


 喧嘩腰と取られても仕方ない発言に対する「第一候補」の言葉も大概であると思うのだが、それを受けても来客の一団は静かなものだった。なるほど。自覚があるかあるいはその程度は覆い隠せるか、それなりに「話せる」相手のようだ。

 それが分かったなら良しと、「第一候補」の斜め後ろに移動する。相手の護衛や付き人の位置だな。実際半分以上護衛だし。私含めて。


『さて。そちらの望み通り竜族の皇女も席についてくれたぞ? あぁ、不死族に関してはまだ本人と直接会えてもおらぬのでな。先も説明したが、今この場に呼び出すことは不可能であること、ご承知願いたい』


 私がその場所に落ち着いたところで、「第一候補」がそう口火を切った。へえ。私を呼べっつったのはこの来客集団の望みか。しかもこの分だと「第二候補」も呼べと言ったらしい。無理なもんは無理だけどな。

 そして「第一候補」にとってもそこそこ不愉快な話の進め方をされたらしく、何というか、そこはかとなく「いい加減本題に入れ」という気配がする言い方だ。

 しかし私をねぇ。少なくともエルルが護衛としてついてくるのは分かってるだろうし、何で呼んだんだろうね? 代表者というなら「第一候補」だけで十分な筈だし、代表者を揃えろというなら「第四候補」と「第五候補」も呼んでなきゃおかしい。不死族も、ってことは、世界三大最強種族を望んだって事か?


「どうしても、お呼びできませんか。御使族であるあなたでさえ」

『我とていまだ未熟の身故な。今何処に居るかも分からぬ、ややもすると神ですらその目の届かぬ場所に居るかも知れぬ相手を呼び出すのは、到底無理な話である』

「なんとか、なりませんか」

『先程から何度も説明しておる通りだ。おらぬものは呼べぬ。そも、彼女とて本人が言ったように、大分無理を押して貰ったのだ』


 なるほど。この調子でごねにごねた結果のあのウィスパーという事だったらしい。面倒な気配しかしないんだけど。というか、理由がさっぱり分からん。世界三大最強種族って言ったって本来はバラバラだ。揃えると願いが叶うとかそんな話も聞いていない。

 じゃ、何だって話になるんだけど……。と、思ったあたりで、小さく袖が真後ろから引かれた。振り返らずに小さく手を握る。


「(庭主さん、流石に危険ですメェ。あの鎧を着てる方々、全員からすごい量の火薬の匂いがしますメェ。その割に少しも怖いと思ってないですメェ。ヤバい人達ですメェ)」


 ……は? と、思いはしても、表面上は一切反応しなかった私をどうか褒めて欲しい。続いて、は!!?? と思ってもそれを抑え切った事もだ。

 もちろん即座に頭を回しつつぐっぱと手を開閉する。何処へどう逃げた物かとざっくり動きを考えた後で、まだごねている代表者から、暇になったという感じで何気なく視線を逸らし、その後ろへと向けた。

 ……そしてそのまま、ようやくカンストして上限突破した【鑑定☆☆】を発動だ。


[種族:徒人族

名前:ミケル

職業:神殿騎士

状態:寄生(重度)、洗脳(重度)、瀕死、意識混濁、強制信仰変更、テイム

装備:祝福されたロングソード(“権威の戦狂にして武勇”)

   神殿騎士のカイトシールド

   神殿騎士の金属鎧一式

   穢れ火薬の爆弾束のシャツ(爆発まであと5分21秒)]


 わぁすごい、上限突破したら一気に見える情報が増えてる。前は「状態」の所までしか見えなかったからなぁ。装備まで全部見えるとか、次はスキルも見えるようになるんだろうか?

 ……っじゃなくて、だな!

 爆弾が爆発するまであと5分ちょい、それに寄生(重度)に洗脳(重度)にテイムって事はこれ死んでも利用される感じだな!? こんなことするの『バッドエンド』以外に居ないだろあのゲテモノピエロ!!


「どう、しても……なりませんか」

『と、言われてもな。我が未熟である事もあり、限度と言うものはやはり存在するである』


 気のせいか、心持ち肩を落とした代表者に視線を向けてこちらにも【鑑定☆☆】を発動。良かったこっちは寄生も洗脳もテイムも無いな。何か「衰弱」と「恐怖」って出てるけど。

 ここで爆弾を巻いたほぼ意識の無い騎士たちを空高く放り出すのは簡単だし、「寄生(重度)」と「寄生(大量)」にやはり「テイム」と表示されている付き人を蒸発させるのも恐らく簡単だが、そうするとこの代表者さんが帰ったら死んでしまう事になるし。多分生贄とかで。

 それに出来れば全員無事な状態で正気に戻して話聞きたいんだよね。内部情報的に。あとこの場で「確定正気」を作れるならそっちの方がいい。


「……何というか」

『む?』


 ふ、と息を吐きつつ、後ろで緩く組んでいた手でゴーサインを出す。確かまだインベントリの中に虫下しが残ってた筈だ。神の祝福ギフト付きの【格納】で性能の上がってる私のインベントリなら、劣化してるって事も無いだろう。

 アザラシの時にテイム状態は「上書きできる」というのは知っている。私のステータスと【絆】のレベルはほぼ間違いなく現状最高だ。だから、色々補助して底上げしているものを引っぺがせば強引に「奪う」事も十分可能だろう。

 ふいに声を出したことで私に視線を集める。その後ろから、小柄な影が移動した事に、さて相手は気づいただろうか。


「そこまでやるかとドン引きするのと、まぁやるだろうなぁと納得するのと、半々ぐらいですかね……」

『何?』


 いやー、ほんとルフィルを連れて来てて良かった。武装も罠も纏めて解除をお任せできるから、安心感が違うよね。

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