第386話 17枚目:不穏な進捗

 早いもので、期末テストは何とか乗り切れた。つまり、12月も半ばを過ぎたという事だ。

 現在のイベント進捗だが、途中からイベントの表示が納品されたアイテムの数ではなく、最終的な異空間型試練の大きさ及びそこをどの神が何%管理するかという表示に変わった。今までは計算しなきゃいけなかったから、これはありがたい。

 そこに表示されたボックス様の管理範囲は、約10%と言ったところだろうか。これでも単一の神としてはぶち抜いて高いんだけどね。他の神は“権威の神々”とかいう神話単位で表示されてるから。


「しかし1割では少ないと思ってしまう不思議」

「いや十分だろ。始祖の方にももうちょっと力振り分けていいんじゃないか」


 ……“細き目の神々”は5%ぐらい。ただ意識して信仰してるのが私と「第一候補」ぐらいって事考えると、名前が出てる分だけ頑張ってるんだけどな。流石に一般召喚者プレイヤーの中に竜に属する種族はほぼいないし、蛇に属する種族も少ないんだ。

 あ、ティフォン様とエキドナ様の試練は予想通り戦闘だったよ。力押し推奨の。大きい単一の奴は殴り飛ばして、数が多い奴は魔法使った。納品アイテムは竜の置物だったよ。

 休憩には恐らく少数民族の神らしい神々の試練に行ってるし、ログインしてる間は何かしらの試練に挑戦している状態だ。うん。頑張ってるな?


「ただ――」


 思わず目を眇めて見た先にあるのは、“破滅の神々”という文字列。そこにある管理範囲の数字は――20%を越えている。

 明らかにおかしい。そんな人数が居る訳ないのだ。確かに『バッドエンド』も住民から協力者を募っていたが、それでも街に住んでいる人の数にはどう頑張ったって届かないだろう。

 もちろん真っ当な聖職者や住民が自分から“破滅の神々”を信仰するなんてあり得ない。他に考えられるのは余程上質な捧げものを繰り返しているパターンだが、“破滅の神々”の場合それは生贄だ。流石に村の1つ2つが消えれば分かる。


「仕掛けてこない訳がないとは思いましたが、さて、どこにどう仕掛けて来たのか」


 であれば、後は事前に思いついた、祭壇への小細工だが……こちらは、確証がない。カバーさん曰く、『本の虫』が解散前に警告と言う形で周知はしたらしく、どこの神殿も祭壇の管理は厳重に行われている筈なのだ。

 にも関わらず、狂信者が集団で存在する神々に迫るこの数字。どういう事だ、と頭も痛くなる。何故なら恐らくこの調子では、正攻法では勝てないからだ。


「召喚者はどうしても活動できる時間に制限がありますからね。住民の方々の力が大きいのは分かっていた事です。が、だからこそ、“破滅の神々”が相手であれば腑に落ちない……」


 何せ共通認識としての邪神である。繰り返すが、普通は信仰しない。してはならないというのが一般人レベルで浸透しているからだ。普通に神殿を建てたら即日解体される程度には徹底している。

 もちろん『スターティア』にあるボックス様の神殿は調べた。試練に挑めればその神の神殿及び祭壇で間違いないのだそうだ。他の神の祭壇を持ってきても、設置は可能だが神殿の神の試練には挑めないのは確定情報である。

 周回している召喚者プレイヤーが多いボックス様の神殿で、ボックス様の試練に挑めないとなればすぐ騒ぎになるだろう。だからここは大丈夫。


「……ただし、確定するのは試練に挑む召喚者が居た場合の話。祈りを捧げるだけの場所であれば、いずれの神の物かは分からない」


 そして、もう一点悪い情報は……信仰してはならない。神殿を建ててはならない。それが徹底して浸透しているが故に、「誰も“破滅の神々”が齎すものの姿形が分からない」という事だ。

 リアルで言う複数の神話体系がごちゃ混ぜに存在しているフリアドにおいては、邪神と言っても多岐に渡る。その大半はそれぞれの神話ごとに纏まっているのだが、それぞれの見分け方も実質失伝しているという状態(「第一候補」談)だ。

 本来ならば対応する善属性の神が出張るなりその神官が動くなりする(らしい)のだが、現在はある意味神話ごとの競争でありレースをしている状態。違う神話との協力なんて、夢のまた夢……という状態である。


「だから……例えば、本来の神から齎される納品アイテムに、“破滅の神々”の力及び属性が混ざっている、とかも、普通にあり得るんですよねぇ……」


 そしてその場合、一見すると本来の神から齎された納品アイテムだから、気づかない。もちろんそれを納品すれば、本来の神だけではなく“破滅の神々”にも実績が入る。

 元の形と少しぐらい違っても、そもそも神から何かが齎されるというのは滅多にない事だ。その違う部分がどう違うのか明確に分からない以上、見分けるのは困難だろう。

 それに神から齎された、という前提である以上、それを「調べる」という事もほとんど行われないと見ていい。もちろん、調べたところで分かるかどうかは別の問題なのだが。


「全く。やってくれますね、本当に」


 『本の虫』は解散した。だから、各クランの召喚者プレイヤーが、それぞれの繋がりで住民たちに接触し、確認する必要がある。の、だが。

 ……異形のピエロの、鼻にかかった不透明な声による、愉しそうな笑い声が、聞こえた気がした。

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