第385話 17枚目:周回適正

 いくつかの箱を埋めてから試練ダンジョンに挑戦してみると、試練に向かう時にあの箱に表示されていた数字が選べるようになっていた。で、地形は挑んだ回数だけ、モンスターは倒した数だけあの表示されていた回数が減るようだ。なるほど。投入した素材の分だけ挑戦できるんだな。

 ちなみに元々強いモンスターの素材を入れるとそれが反映される。追加投入する素材も、高級だったり手間が掛かっていたりすると回数の増加量が多いようだ。

 まぁもちろん素材の数としては挑戦した分だけ増えているので収支はプラスである。試練ダンジョンである以上、空間の歪みも減ってはいるだろうけども、だ。


「と、言う訳で。数の優位を殺しつつスタンピートの再現が出来そうな感じに試練をカスタマイズしてみました」

「何でそこまでするかなこの降って湧いた系お嬢は!」

「だって私達の火力だとそれぐらいが一番効率いいで痛い!」


 多数を少数が相手するのに適した岩場に細い通路が無数にある地形に、そこそこのモンスターの素材と、いつか作ってしまった超高ランクな土壌改良系のお札を入れてモンスターの出現数を跳ね上げた箱ことカスタマイズ試練を作った事を報告したら、エルルに怒られてしまった。解せぬ。


「……で、出てくるモンスターっていうのは?」

「ソフィーナさんやカバーさんに聞いて、食料的な意味で美味しい奴がメインです。後は確定でいくらあっても困らない系の素材が手に入る奴ですね」

「数を倒す前提っていうのが既にな……」

「だってそれぐらい倒さないと勝てないじゃないですか」


 主に狂信者連中に。

 と言外に付け加えたのは分かってくれたのか、エルルは頭が痛そうにしつつもそれ以上は何も言わなかった。モンスターのレベルも確認されたけど、私相手ならどう頑張ってもダメージも状態異常も通らない程度に抑えてるよ。

 試練の難易度は高い方がより質のいい納品アイテムを貰える。だから難易度は上げていきたいところなのだが、それで挑戦できなくなっては意味が無い。身体も動かしたいしね。


「……始祖の方はいいのか?」

「もちろん向かうつもりではありますが、ティフォン様やエキドナ様の試練だと結局そういう感じになるでしょう?」

「確かに謎解き関係が出てくるとは思えないけど言い方……」


 うん。ティフォン様達の試練の予行練習って意味も実はあったりする。数か力かは知らないけど、どっちにしろ戦闘力極振りな試練だろうし。それも技巧的なやつじゃなくて力押しの。試練だけあって、普通は出てこないような相手が出てくるだろうし。

 っていうか、技巧的な相手が出て来ても、今の私はまだ振って壊れない武器が無い。身体能力にあかせた体術しか使えないんだから、やっぱり力押しになるだろう。


「……まぁ出てくるにしても、あの神の祝福ギフトを見る限り、私の場合は回復力とステータスの暴力による力押しが推奨されるでしょうし……」

「……そういえばそれもあったな」


 そもそも、その方向を推奨しているのがその始祖なのだ。今更試練だけで方針を変えるようなことはしないだろう。ならボックス様の試練も、同じ方向でクリアして何も問題は無い筈だ。


「次に来る召喚者はその数がぐっと多いですからね。対策はするにしたって今のうちに少しでも空間の歪みを減らしておきたいという大神の思惑もあるでしょうから、ガンガン行きましょう」


 ッパン! と左手に右の拳を叩きつけて言い切ると、エルルは長く深い息を1つ吐いたが、一応納得してくれたようだ。

 ははは。公式にマスコット化された八つ当たりやテスト前のストレス発散がメインという訳じゃないよ? ゼロでもないけど。




 と、言う訳で。

 私はテスト前という事でログイン時間を減らさざるを得ない状態だったのだが、うちの子達が頑張ってくれたので進捗は上々だ。やっぱりモンスターを文字通り山のように倒すと空間の歪みの消費も捗るらしい。

 もちろん私はティフォン様やエキドナ様、そして連名で神の祝福ギフトをくれた神々の試練にも向かっているし、うちの子もそれぞれ種族の神の試練に行ったりしているから、純粋にボックス様オンリーで攻略を続けているのはルージュぐらいだろう。


「あぁ、ちぃ姫さん。少々よろしいですか?」

「何でしょう、カバーさん」

「“神秘にして福音”の神の試練ですが、カスタマイズできるのはこの神殿だけでしょうか?」

「たぶんそうだと思いますが、私は大神殿から挑戦したことがありませんし、他の神殿を見た事が無いので何とも言えませんね」

「なるほど。そうでしたか。では少々協力して頂いても?」


 という事で、どうやら『スターティア』に小さくもボックス様こと“神秘にして福音”の神の神殿が作られていたらしく、そちらに挑んでみたりもした。……道中の方が大変だったのは、まぁ、仕方ない。

 ちなみに試練自体はあの無個性かつテンプレートなダンジョンだったので、色々試してみた結果、挑戦前に挑みたいダンジョンの形を作った箱庭を捧げればいいらしいという事が分かった。ただし挑戦するたびに箱庭を捧げなければならないので、やっぱりうちにある神殿は特別なようだ。

 ま、それでも狙った相手と戦える、狙った素材を周回で集められる、というのはゲーマー的には垂涎の機能ないし場所だ。ははは、その調子でボックス様の試練をヘビーローテーションすると良い。


「ちぃ姫はバランスブレイカーとか言われてるけど、この神様の方がそうじゃないかしら?」

「運営からすると、ある意味真っ正面から喧嘩売ってますよね」


 というソフィーさん達の呟きはきこえないふりだ。そういう2人だってボックス様の試練を周回してるじゃないか。

 第一、普通にしてたら攻略なんて追いつかないだろう。探索する場所も探せば探すほど見つかる現状だし、それに必要な消耗品も大変な量になる。レベリングだってあっぷあっぷしてるし、そんな中で人数が増えるんだ。現状、物資はいくらあっても足りないというのが正直なところだろう。

 それに、本気で運営に支障があるなら、それこそ即行で修正が入る筈だ。そう。あの使徒降臨&ダンジョンお披露目イベントの緊急メンテみたいに。注意されたら素直に自重すると思うぞ? 抜け道があったらするっと抜けるぐらいはするだろうけど。


「というか、その辺締め付けるんならまず“破滅の神々”をどうにかしろって話ですよ」


 ……ってか、『バッドエンド』対策にその辺解放されてるって言われても納得しか無いんだよな。流石にボックス様でも、滅びの為に悪行を成す奴は祝福対象外だから。

 運営に支障があって修正を入れるんなら、まずは『バッドエンド』からだろう。その行動を許容してるんだから、ボックス様の大盤振る舞いは許容内って事だ。

 いやー、ほんと、「自由」の匙加減って難しいね。

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