第383話 17枚目:イベント開始

 その後、心の準備と書いて現実逃避と読むあれで公式ホームページを確認した所、フリアドのCMは3パターンあるという事が分かった。

 導入と前半の街紹介、及び「第二候補」の一刀両断と「第一候補」の嵐の壁を割る部分が共通。途中の秘境探索とボス戦ハイライト集、そして締めの魅了属性オーバーキルが違うようだ。

 ……あと2人? 想像余裕でしょ。暖炉横でくつろぎつつ憂いを乗せて微笑む「第四候補」と、顎クイされる視点で見上げる形になる「第五候補」だよ。なおテロップはそれぞれ「こんなイケメンもいるよ!」と「こんな美女もいるよ!」だった。


「ははは……」


 で。それに加えて、だな。公式ホームページに、一般発売に合わせてのグッズ展開があったんだが。

 『スターティア』を始め大きな街のクリアファイルはいい。ディックさんとかキーマンとなる住民NPCのデフォルメキーホルダーもいいだろう。アライメントを司る3柱を始めとした神々モチーフのブックスタンドもいいさ。ティフォン様のは無かったけど。

 ……問題は、キーホルダーのとこにな。影だけになってる「シークレット」っていうのがあったんだよ。影の数? 5つ。形の見覚え? あるに決まってるじゃないか。


「……今日はログイン止めとこうかな」


 たぶんな。あの第1回イベントの時の姿だと思うんだ。シルエット的に。

 公式への注文で、指定も出来るけど、シークレットはランダムでないと出ないんだってさ。

 ……箱単位で注文してる人がどれだけ居るんだろうね、こういうの……。




「「祝!!!」」

「ちぃ姫!」

「公式!」

「「マスコット化――――!!!」」

「はははありがとうございます」


 その後頑張って気合を入れ直し、「まぁ私(のアバター)が可愛いのは事実だし? 可愛いに撃ち抜かれる人数が増えるのは歓迎するべきだな?」と半分自己暗示をかける事でどうにかログインした私を待っていたのは、横断幕を掲げた状態で器用にクラッカー的な魔法をパンパン打ちまくっているソフィーさん達だった。テンション高いな。予想通りだけど。

 ソフィーさん達的にはこっち(グッズ販売)がイベントのメインかも知れない。いやまぁ、私も他人事だったらほしいけどさ。流石に資金力は無いから、当たるまで注文するとかいう事は出来ないにしても。


「ちぃ姫バージョンのCMは既に録画したわ!」

「キーホルダーも注文済みです!」

「でもだからと言ってちぃ姫には迷惑なんてかけないから!」

「もちろん有象無象のシャットアウトはお任せください!」

「古巣の『可愛いは正義』もフル稼働中よ!」

「流石にこればかりは他所とも協力して戦線を張る予定です!」

「わぁ頼もしい。よろしくお願いしますね」

「「お任せされました!!!」」


 テンションが天元突破してるんじゃなかろうかというソフィーさん達だが、その情熱が生みだすパワーは良く知っている。これからは実害がない程度にロールに則って行動しよう。

 ……図らずもエルルがやってほしい行動に沿う事になるな。まぁ仕方ないか。流石に私だって一般召喚者プレイヤーと同じだけの自由があるとは思っていない。それに、竜族の皇女としてロールを続けるならいずれそうなってただろうし。

 うん。引き籠り先、もとい拠点が出来てからで良かったな。流石に街の中に宿をとってどうこうってしなきゃいけないタイミングだと詰んでた可能性もあった。そう思う事にしよう。


「よく分からんが、召喚者達に対してお嬢が有名になった、みたいな感じでいいのか?」

「まぁそんな感じですね。大体合ってます」


 もちろんCMとかグッズなんて分からないエルル達からすれば「何でそんな突然盛り上がってんの?」って感じだろう。とりあえず肝心な部分は察してくれたようなので、それを肯定して話題を終わりにしておく。集中できないからね。

 さて、イベントだ。とりあえず、という感じでイベントページを開いてみたが、うん。流石うちの子。試練ダンジョンのクリア数も納品したアイテム数もすごい事になっている。

 ……が。


「やっぱり数の力っていうのはありますよねぇ……」


 それでもなお、人間種族の中でも、特に人間――徒人族を贔屓する神達の納品数の伸びには、及んでいない。それはそうだ、なんて簡単に言いたくは無いが、やはりどれだけ個として優れていても、数と連携の力と競うのは限界があるようだ。

 ……まぁそうでなければバランスが取れないし、人間種族を推奨したい運営としては、そうでなくては困るだろう。


「召喚者やまともな聖職者が控えめになってるんならまだしも、その辺きっちり丸めこ……誘致しているようですしね。実際徒人族であれば恩恵があるのも確かなんですが」

「ほんっとに意地汚いというか往生際が悪いというか……」

「多種族が連携しなければどうにもならない事態に、内輪もめを誘発させてどうするんですか全く」


 もちろん、協力している召喚者プレイヤーだって人間至上主義の神に全力という訳ではないのだろう。けど、10回試練ダンジョンに挑む内の1回をその神の物にしたとして、それが1000人いればこちらを上回るのだ。

 そして当然、そんな所まで縛る事は出来ない。あくまでゲームだからね。ペース配分を決めるのはあくまで遊んでいる本人だ。絶対的な人数が違う以上、苦戦は分かっている。そんなの知っている。

 ……かと言って、そこで諦めるかって言ったら全力でNOだ。無理ゲーだからどうした。運営の思惑がなんだ。私は、個人的に、あの人間至上主義な神が、嫌いなんだよ。


「勝ちに行きますよ。全力で」

「だろうと思った」


 直接ぶん殴るのはティフォン様に託すしかないが、それ以外は全部やる覚悟だ。もちろん、あっちみたいな非道な手段は抜きでね。

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