第382話 17枚目:宣伝戦略
メインとなるのがダンジョン=隔離空間という事もあり、流石に今回は自重をポイしてもいいかなーと思いながらも平日は平日だ。そして期末考査前である。学生の身分である以上は勉強だけはしっかりしておかないと、後で自分の首が絞まる。
エルル達にお願いしてきたから、イベント自体は開始と同時に進められている筈だ。その点ルシル達はナヴィティリアさんに手伝って貰った元作成使徒なので、試練ダンジョンへの挑戦と指定アイテムの納品については問題無いだろう。
「(っていうか、それでいくとあれかな。私は直接挑戦するんじゃなくて、捧げもの作る方に回った方がいいか? ルールと合流できたんだから私がスクショ取り損ねたイベントステージの記録とかも残ってるだろうし)」
捧げものと言えば、以前イベントで手に入れた白いルピナスとカスミソウは既にルフィル達に渡してある。ボックス様の花というのは分かるから、2人も真面目にお世話をして増やしにかかってくれている筈だ。
で。私が言うのも何だが、『アウセラー・クローネ』の中でも私達は直接戦闘能力に大きく振れている。恐らく「第二候補」が正式に合流すれば最大火力の呼び名は譲ることになるだろうが、現状で言えば火力的には大体の相手がオーバーキルになる筈だ。
つまり、戦闘力による試練ダンジョンの突破は既に十分なのだ。正直なところ、私が参戦しなくても、エルルとサーニャとルシルとルージュだけで過剰火力だろう。
「(生産できる方だからな、私で。いやエルルもやろうと思えば出来るだろうしルージュも金属関係なら出来るけど。それにボックス様の性格考えると戦闘より捧げものの方が喜ばれそうだし、ダンジョンに籠ってて「何か」あった時にすぐ動けなかったらそれはそれでヤバいし)」
……という感じで、授業の内容をノートに取っているとき以外はフリアドの思考で埋まっていた12月1日。推定フリアドをしているクラスメイトが周囲を巻き込んで騒いでいたのをスルーして帰宅だ。さっぶい。
フリアド第三陣のゲームスタートは1月1日からだが、一般販売は今日からだ。ゲーム店へ向かう人の流れがいつもの数割増しになっている気がする中をまっすぐ家に帰り、着替えから夕食以下略という感じの日常をこなす。
『『フリーオール・アドバンチュア・オンライン』――!』
「ん?」
で。その最後として歯を磨いているところに、ザ・ファンタジーという感じの明るい音楽と共にそんな音声が聞こえて来た。身体を傾けてテレビを視界に収めてみると、どうやら一般販売開始に合わせてCMが新しくなったらしい。
何気に毎ログイン目にしているタイトルが表示され、次に映し出されたのは数多くの種族が行きかう街の大通りだ。……って、あれ『スターティア』の屋台通りじゃないか。
どうやら大通りを進む誰かの視点らしく、映像は左右に揺れながら明るい喧噪の中を進んでいく。そしてその人混みを抜けた先は、打って変わって一面の平原が広がる光景だった。
「(南の門から出た景色か。ゲームの中の光景をそのまま持って来れば、第一陣と第二陣は「ほんとにこういう光景があるぞ」って言うもんな。期待を煽っていく方向だなぁ)」
平原まで出るとそこからは一転、平原に居るモンスターや、モンスター相手に戦闘している
その後もテンポよく画面が切り替わり、人魚族や鬼族の街が映し出されていく。私は見た事ないが、あの森と一体化しているのが森人族の街で、丘に半分埋まっているのが小人族なのだろう。一際デカいお城は人間の国の首都かな。最初の大陸の目立つ街総ざらいという感じだろうか。
街が終わると続いては秘境が映し出され、そこでの戦闘へとメインが移っていく。私はすっ飛ばしてしまったが、どうやら街から街へ移動するには道を塞いでいるモンスターを倒す必要があったようだ。
「(今は誰しもが通れるってことは、倒せるのは1回限りか、幻影みたいな感じでプレイヤーに限りいつでも挑める感じなのかな)」
戦闘がメインになってきた辺りでテンポが上がって来ていた音楽が、更にテンポを上げていく。大物かな、と思って出てきたのは、予想通り、ボスラッシュ……正しくは、ボスバトルラッシュだ。
トラックのような大猪が槍で貫かれ、見上げるような大熊が大剣で一刀両断にされる。空を覆うような毒々しい模様の蛾が翅の根元を矢で射貫かれ、牛でも掴めそうな巨鳥が特大の火球で叩き落とされる。
ボス戦のハイライトを繋いだ映像は、ゲーム好きならこれだけで十分盛り上がれるだろう。思わず歯ブラシを動かすのを止めて見入っていた先で……いつかどこかで見た感じの、無数の鎧を繋ぎ合わせて作られた異形の百足のような姿が、一刀を持って縦半分に斬り割られた。
「んっぐ、」
思わずむせてしまったが、今のは間違いない。5月イベントでの「第二候補」だ。だって目の前で見てたからな。周りに居た『本の虫』撮影班の人を映し込むことでそのサイズを強調するカメラワークは流石なんだが、持って来るか。
で、そこへ続いたのは、無数の船が一斉に出航する様子だった。その向こうに広がるのは、激しい風と雨で出来た、天まで届き海を遮る巨大な壁だ。
「けほ……まぁ、持って来るか」
口をゆすいで見た先で、映像はその荒れ狂う海と嵐に立ち向かう船団を映していた。うん。この先も知ってる。
思った通り、映像の中心が船団から嵐の壁に移った辺りで、縦に一線、切れ目のような物が入った。それは徐々に左右に移動し、幅を広げ、壁を扉へと変えていく。
そしてその暗闇の中に突入する様に映像は動き、一瞬の暗転の後見えたのは、一面真っ白な氷と雪の大陸だった。そこでもう一度、音声が入る。
『最高最大の「自由」を、あなたの手に――『フリーオール・アドバンチュア・オンライン』! 販売中!』
あーなるほど、クラスで盛り上がってたのはこのCMかー。と今更に納得しながら、大変大盛り上がり納得なCMを見終わって再度口をゆすごうとコップの水を口に含んだ。
ところで。ぱっ、と画面転換。
「っっぶ!?」
白いワンピースにつばの広い白い帽子をかぶった銀髪銀眼美少女が、涼しげですらある無表情で何かふわふわしたぬいぐるみを受け取るところが大写しになった。
その美少女は何かを確かめるようにしばらくぬいぐるみを抱きかかえ――無邪気な全開の笑顔で、ぎゅ~っとばかりぬいぐるみを抱きしめる。きらきらぁっ、と光る演出がついて、画面の右下に「こんな可愛い子もいるよ!」とテロップが出た。
げっほげほげほとかなり相当咳き込んでから、クラスメイト達の盛り上がりの、本当の意味を悟る。なるほど。そりゃあの格好いいCMの締めに可愛い威力オーバーキルの映像持ってきたら誰だって食いつくだろうさ!
「はかったなうんえい……!!!」
そしてその衝撃で思い出した。
あの謎メールの文面、どっかで見た事あると思ったらあれだ。撮影許可関係の、つまり映像に関する設定で見た奴だ……!!
しかしクラスメイト達の様子からしてあのCM、公式ホームページでいつでも閲覧できる感じの奴だ。こんな爆弾作りやがって、流石に私だって周りの反応が怖くてログインを躊躇うんだが!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます