第367話 16枚目:見学者+

 運営からの謎メールは届いたが、そこからは実に平和な物だった。つまり新たな合格者は出なかったって事だ。……私はステータスも【絆】のレベルも高いから、多分合格したメンバーは全員1パーティに収まっちゃうんじゃないか?

 少数精鋭と言えば聞こえはいいが流石に少なすぎやしないだろうか……。と思いつつ土曜日が終了。まぁ私のログイン時間が、なので、加入試験自体はエルルとサーニャが中心となって続けられるんだけど。

 下手に人数を増やすことに重点を置いて『バッドエンド』に付け込まれる隙を作るのも問題だし、そもそも内輪で争うのは周りにも迷惑だ。だから、そういう心配がない現在のメンバーはある意味ベストと言える、の、だが。


「にしても、私入れてようやく10人っていうのはどうかと思うんだよなぁ……。全員が一騎当千って言ったって、数は力なんだし……」


 ……なんてことを考えながら寝たせいか、朝になっても何だか頭がぼーっとしていた。いつもの朝通りに動くが、顔を洗っても朝ご飯を食べてもすっきりしない。寝不足とは、不覚。

 流石にこのままログインすると主にエルルから心配されそうなので、画面でフリアドの情報を見ながら軽くストレッチする事に。軽く運動するならジョギングでもすればいいんだろうが、外は寒いからね。

 相変わらずクランに関する話題と、未来の第三陣からの質問とそこへの回答がホットなスレッドを独占している。……ここだけ見ると、魔物種族の扱いは散々なままなんだよな。


「まぁその難易度考えれば妥当だけど。……最初に比べれば随分優しくなったとはいえ、人間種族と比べるとどうしてもなぁ……」


 ……育成のハードルを下げるフラグが、もうちょっとあってもおかしくないと思うんだよね、魔物種族。実際にあるかどうかは別の問題として。魔物種族が通常の人権を取り戻す本来のタイミングが分からないから、何とも言えないけど。

 とか思いつつ、ぐいーっと大きく伸びをする。うん、大分頭もすっきりしてきた。でも念の為今日は温度設定を上げて寝よう。寒くて寝付けなかったという可能性もあるから。

 という訳で、いつもよりちょっと遅くなったが朝のログインだ。


「おはようございます」

「姫さんおはよう!」

「ヌシ、おはヨー」


 テントから出ると、サーニャとルウを皮切りに次々と挨拶が飛んできた。賑やかでいい事だ。ちなみにルチル以外の使徒生まれ組は合格の判定が出た時点で【絆】によりテイムをしているので、ソフィーさん達以外は基本的に大所帯のパーティを組んでいる状態となる。

 ……うん。普通に組めてるんだよな、8人パーティ。【絆】のレベルか魅力の高さかは分からないけど。フリアドでは原則スキルとそのレベル以外はマスクデータだし、解析が追い付いて無いから理由は不明なままだけど。

 ステータスが下がった感じはしないので、もしかしたら獲得経験値とかに影響があるのかもしれない。このメンバーで動くなら、どっちみち相当な大物になるだろうから実感は薄いかも知れないけども。


「「第三候補」さん。おはようございます」

「はい、おはようございます。……カバーさんの方から来られるのは珍しいですね?」

「そうでしょうか?」


 ソフィーさん達はまだログアウト中のようで、現在はルドルが模擬戦相手を、サーニャが審判をしている。そしてその簡単な柵で仕切られた入り口の脇に、何故かカバーさんが立っていた。

 うん。珍しいな? カバーさんの方から来るのはともかく、カバーさんが私より先にログインしてるのは。……あれか? 私のログインが遅れたからか?

 しかし何か連絡事項でもあるのだろうか、と首を傾げたが、カバーさんはいつもの穏やかな笑みを浮かべたままだ。カバーさんが模擬戦に来た召喚者プレイヤー達の観察って言うのもしっくりこないし、流石にこの忙しい中私を始め可愛い組を見に来たとかじゃ無いだろう。素の姿ならともかく、全員【人化】してるし。


「あぁ、私の事はお気になさらず。仕事は終わらせてきましたので」

「仕事。……まぁご迷惑をおかけしたとかではないならいいんですが、せめて椅子にぐらい座りません?」

「いえいえ。ちょっとした休憩ですから」


 うん? と首を傾げるが、その意図は分からない。……え、まさか本当に可愛い組を見て癒されに来ただけ、とか……?

 浮かんだ疑問符が解消されないまま、とりあえずこちらでの朝食を頂く。わーいオムライスだー。ふわとろのじゃなくて薄焼き卵でケチャップライスを包む方。ソフィーナさんの作り置きか、美味しい。

 その大食いチャレンジャー用かっていう大きさと、上にケチャップで書かれていた「Love Cute」及び乱舞するハートマークはスルーして食べにかかる。すっかりレベルの上がった【大食】があるから、これで割とちょうどいいかちょっと足りないんだよね。


「ごしゅじんは相変わらずよく食べますねー」

「竜族としたら普通だよ?」

「そうなんですかー!?」

「普通普通。ボクもこれぐらいなら軽食の内だし」


 という事らしいので、そこに関しては普通なようだ。さては【大食】貴様、一般スキルの顔をした種族スキルだったな? メインから外せないから薄々分かってたけど。

 で、その特大オムライスを食べ終わった辺りで審判がエルルに、模擬戦相手がサーニャに交代した。基本はあの3人で回しているらしい。ソフィーネさんが居る時は4人のローテーションになる感じだな。

 そしてそのタイミングで、一瞬、挑戦者の列が途切れたように見えた。次に並んでいるように見えた人が立ち止まって、けど新たに入ってくる人はいないという不思議な状態だ。しかし列が止まったって事は、次の挑戦者が来たって事で。


「結局先輩よりぬるい筈なのに、【人化】には届かなかったですけど――それでも、やれるだけはやってきたっすから」


 つまりそれは、一見すると見落としそうな相手で。

 すなわち……覚悟完了なフライリーさんが、加入試験を受けに来たって事だ。

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