第356話 16枚目:イベントリザルト

 どうやら特級戦力私達の出番は無いまま、対ヒラニヤークシャ(魚)レイド戦は終了したようだ。無事討伐までいけて何よりである。これで少なくとも、フリアドが10年以上続くような超長命ゲームにならない限りあの化身の出番は来ないだろう。

 そしてやっぱり公式のレイドボスではなかったからか、MVP等の特殊報酬は発生しなかった。その代わり、戦闘に参加した全召喚者プレイヤーに一律で「ヒラニヤークシャ(魚)戦闘報酬:○○」というタイトルのメールに添付される形の報酬が出たようだ。

 内訳は「安定度○○%突破報酬」が10%刻みで90から0%までの10段階、「再封印条件達成報酬」と「討伐条件達成報酬」が別で、「討伐成功報酬」がかなりゴージャスだった。


「順番的に、後付けだったのが丸わかりなんですよね」


 で、その後にくっついてくる形で「強制休眠成功報酬」が参加した回数分と、「儀式場破壊特殊報酬」と「狭間の大扉開放報酬」があった。明らかに後付なんだよな。……本来なら、ヒラニヤークシャ(魚)との戦闘に入った時点では達成されてた筈のフラグだから妥当なんだけど。

 ちなみにその内容は基本的に経験値ポーションだ。使うとその後一定時間の間獲得経験値が増える奴。課金しても買えない上に、イベントでもなかなか報酬に現れないという結構な貴重品である。

 それ以外だと、全武器種の中から1つを選んで貰える特殊な装備とか神殿の建材とかで、後はシンプルにお金だった。大盤振る舞いと言っていいんじゃないだろうか。


「まぁ後半は主に『バッドエンド』のせいとは言え、うっかりフラグをスルーされてしまった運営にも非が無いとは言えませんし。詫び石込みならこんなもんでしょうか」


 ……フラグの再確認作業で死人が出ていない事を願うばかりである。

 人間種族のトッププレイヤー達はこの経験値ポーションを使って、第三陣が来るまでの追い込みレベリングをしているのだろう。うっかりミスって人間種族用のスレッドを開いた時、ヒラニヤークシャ(魚)が数十メートルも吹っ飛んだ様子が目標として上がっていたようだが、そっと閉じた。

 で、のんびりとそんな事をしている私が一体何処に居るかと言うと。


「使役者のお手本たる指揮者さんは是非当クラン『ワンマンアーミー』へ!」

「お前らちぃ姫に粉掛けて振られたら即鞍替えとか誇りはねぇのか!?」

「お姉様には是非とも私達の『白百合の園』へ来て頂けないでしょうか!?」

「いえいえ女王様の為に立ち上げた我ら『妖花の僕』へ!」

「ちぃ姫! 『可愛いは正義』に入って! 愛でさせて! ちぃ姫ぇー!」

「大神官様ーっ! 私達『巡礼者の集い』を導いて下さいーっ!」


 …………『スターティア』のクラン登録所ロビーで、「第二候補」以外の「魔王候補」と一緒に、クラン争奪戦の景品と化してる。

 「第四候補」は「俺、人気者!」とご機嫌だし、「第五候補」も満更ではなさそうだ。対して「第一候補」は【人化】していたら顔を引きつらせてる感じの空気。私? 半分以上呆れの無表情だよ。

 現在はイベントが終了した翌日月曜日の夜だ。私含め今自由に動ける「魔王候補」が揃っているのは本当に偶然であり、建物の前で鉢合わせてお互いにびっくりした。


『……我は、此度の事で、「集団の力が必要となる相手」に変化が無かったか、確認したかっただけなのだが』

「俺は街を見物がてら巡る途中でここに来た」

「うちの子達の為に~、大きなお家が欲しくてね~? そしたらここへ案内されたのよ~」

「私は、今更ながらそう言えばクランというものの仕組みや決まりを知らないなと思い立ちまして」


 その理由としてはこういうことらしいね。

 ちなみに周囲が声をかけるだけで近寄って来ないのは、エルル、サーニャ、カーリャさん、「第四候補」のストーンゴーレム、「第五候補」が魅了した元海賊の人達が全力で警戒してるからだ。

 ははは。『本の虫』の人達がアピールの激しい召喚者プレイヤー達を整列させようとして、話も聞いて貰えず弾き出されてるのは初めて見るな。つまりこれ収拾つかないのでは?


「良かったじゃないですか「第一候補」。その英字の名前そのままな「二つ名」がついて」

『この混乱を見て言うという事は皮肉であるな?』

「他に何を口にしても角が立つでしょう」

『……まぁそうであるが』


 ははっ、と笑って内輪の会話で済む内容を口にする。半ば現実逃避のそれに、熱の冷める様子が微塵もない周囲へそろそろうんざりしてきたのか「第一候補」は頭が痛そうな声で応じて来た。


「いやー大人気。俺「指揮者」だって。「ディフェンスマスター」とか「司令官」とかも俺の事? 見事に全部タワーディフェンス関係でウケる」

「私も~、欲しかった呼ばれ方は大体全部されてるわね~。アラーネアさん達には感謝だわ~」


 その話題に乗って来た2人は、現在それぞれ第一回イベントで着ていたものを完全再現した服を装備として身に着けている。製作者は今「第五候補」が言った通り、アラーネアさんを含むトップレベルの【裁縫】持ちプレイヤーだ。

 性能? 大体想像の通りだよ。「第四候補」が使い魔強化特化で、「第五候補」が魅力特化だ。めちゃくちゃ似合ってるのは良いというか分かってたことだし。

 私は最初の大陸に戻って来たので、皇女用軍服(レプリカ)改である。【裁縫】のレベルが上がったからって強化してくれたよ。それに、あのドレスの再現を着るのは【成体】になってからにしたいし。


『まぁ、正直なところ、誰か1人であればこうはなっておらんかったであろうな』

「それには同意します。全員揃っているからある種のタガが外れたんでしょう」

「そんな事言われても~、どうしようもなく偶然よ~?」

「街の見物行くだけにいちいち連絡入れる必要はないだろ?」

「まぁそれもそうなんですが」

『であるが……身動きがとれんのも確かである』

「……それは、まぁ、ねぇ~」

「俺もちょっと俺の人気を見誤った。人気者でごめんな?」


 しれっと「第四候補」が自慢してきていたが、そこはスルー。しかしマジでどうしたもんかな、この状況。収拾つけずに街から出たら大変な事になるだろうし。下手すれば掲示板での場外乱闘が始まるだろう。……いや、そっちはもう始まってるか。


『これは、最終手段しか無いであるか』

「……と、言いますと?」

『我らで集まりを作るしかあるまい。1人欠けているから、しまらんがな』

「あー。まぁそれは仕方ないんじゃね? 遠くへ転移したのが悪い。つーか俺らより先に交流だけならしてるんだろ? しょーがないな!」

「まぁ~、それは、そうね~。でも、それこそ私達ではどうしようもないのだし~。合流次第参加してもらうって事で、今は諦めて貰うしかないわね~」

「永久ではないですが欠番ですね。人数は……まぁ、最低要項は満たしているでしょう」


 【人化】していれば額を抑えるぐらいはしているだろう「第一候補」の提案に、それぞれに同意する。そうだな。この状態だと誰が何処に所属しても角が立つ。それならいっそ、少数精鋭という名の身内以外お断りなクランを作った方が平和で早いだろう。

 まだ通常空間で合流の目途が立っていない「第二候補」には悪いが、確かに「第四候補」の言う通り、最初の大陸からイレギュラーな手段で離れたのが悪いとしか言いようがない。

 外野の勧誘合戦は、そろそろお互いの妨害がメインになってきているらしくこちらの話の流れを察した様子はない。いや君ら、物損は自己責任だからな? 言っても聞こえないだろうけど。


「では名前ですが。どうしましょうか」

『それなのだが、「第三候補」。確か、古代における古代の物とされる言語があったな?』

「えぇ。エルル?」

「……そうか。俺らの時代が今から言う古代だから、俺らの古代語は更にその昔になるのか。あるぞ。俺らの家の名前とかだな」

『ではその言語で、このようなものはどうだ』


 恐らく「第一候補」が合図かお願いをしたのだろう。カーリャさんが警戒を解いて寄ってきて、紙にさらさらと何かを書き出した。字が綺麗だなこの人。ちょっと達筆寄りの筆記体風だけど。

 けどまぁ各種言語スキルがあるので読むのは問題ない。……ふむ。まぁいいんじゃない?


「私は異論ありません」

「いいね! 俺らにぴったり!」

「あら~。いいんじゃないかしら~?」

『「第二候補」にも確認しておくか。……早いな。いや待て、この早さ、まさか掲示板に張り付いておらんか?』

「うん? 今このタイミングで掲示板に張り付いてるって、もしかして匿名で煽りに参加してるんじゃね?」

「八つ当たりですか?」

「格好悪いわね~」


 まだ通常空間で参戦出来ないからって大人げない爺さんだな(推測)。5月イベントの時それはもうモテにモテてた癖に(戦闘訓練的な意味で)。

 ともあれ、方針の決まった私達はそれぞれの護衛に守られてカウンターに移動。まだ勧誘合戦と言う名の乱戦を繰り広げている一般召喚者プレイヤー達をスルーして、新しくクランを立ち上げるのだった。

 クランの名前? 『アウセラー・クローネ』だよ。意味は「人外の冠」ってとこ。「魔王候補」である私達にはぴったりでしょ?

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