第355話 16枚目:作戦終盤
イベントは土日を含めて残り4日で、ヒラニヤークシャ(魚)の安定度を削り切り、討伐まで持っていくにはそれぐらいかかるだろう、というのが「第一候補」及び『本の虫』の人達の見解だった。
何度か言っているが、
まぁ、ある意味その無理を通す為に呼ばれたのが召喚者なので、ちょっとシャレにならない妨害があったとはいえ、その目標を達成する為に努力するのは何も間違っていない。
「それに、10年単位以内なら再召喚できる状態で収めると、たぶん後が大変な事になりそうだしなぁ……」
と、呟く私は現在1人だ。何でって? そりゃ少しでも多くのダンジョンを早急に攻略した方がいい都合上、エルルとサーニャとは別のダンジョンに潜った方が効率がいいからだよ。……盛大に渋られたけど、後でお説教が待ってるのが分かってる以上、いくら怒られたって一緒だ。
主に【格闘】アビリティを使った攻撃の威力を把握しておきたいのもあって、経験値は度外視で積極的にアビリティを使っている。魔法はしばらく封印だな。自分の最大火力が分かった以上、ちょっと本気で制御に力入れないとやばい。
……一応、エルルとサーニャに「これは普通か」って聞いてみたんだよ。そしたらさ。
「そんな訳無いだろうが。俺らが化身相手に苦戦してたの見てただろ」
「てか姫さんの場合、今ですら十分歴史に残るくらいの戦闘力じゃないかな」
「……微塵も否定できないな、それ」
「だろう?」
って返事が返って来た。竜族がステータスの暴力が種族特性な上に思いっきりバフを乗せてたって言っても、流石に化身を蹴り飛ばせるのは普通じゃ無いんだって。まぁ召喚者だし。
という訳なので、モンスターを相手にひたすら実践で力加減の練習だ。迂闊に踏み込むと地面が割れるので、人前で「普通」に戦闘できるようにならないと共闘なんて夢のまた夢だからなぁ。
……【解体】が仕事をしているので、力加減を誤ったモンスターの死体が大変な事になってるって言うのもあるけど。
「出来れば2人ぐらい綺麗に倒したいんだよね」
直近だとあの雪中行軍の時で、かなり前だと谷底のダンジョンでのモンスターの倒し方だ。ステータスの高さもそうだけど、それ以上に技量が高いんだよな。素直にあこがれる。
流石に、下手にアビリティを発動したら足が埋まってしばらく動けないとか、情けないどころではない。地形を壊さない程度に、相手を(素材的な意味で)痛め過ぎない程度に、うまいこと加減出来るようになりたいものだ。
「まぁその為にはひたすら練習あるのみって事で、そういう意味でも渡りに船だったし」
それに年末年始の一大イベントはもちろん、その後この大陸の問題が解決するまでにまだまだ厄介事が控えてるんだ。こういう地道な訓練は出来るうちにしておかないとね。
「俺っ! 大っ、勝っ、利ー!!」
「「第四候補」がログイン時間で言うと廃人だと思いませんでした。っていうか、ダンジョンにスキルで自動生成された使い魔を流し込むだけの半分オート攻略じゃないですか」
「なんかめっちゃ正論でぶん殴られた!?」
「正論という事は自分でもちょっと思うところがあった訳ですね?」
「!Σ(・Д・;)」
「だからそれどうやって発音してるんです?」
という会話を交わす現在は土曜日の午後、私は週末の2回目ログインである。何の事かと言うと、ダンジョンを枯らした先にあった儀式場を破壊したのが「第四候補」だったという話だ。
……途中から、誰が儀式場を破壊するか。つまり、一番最初に最奥へ到達するかの勝負になってたからなぁ。私は意識しつつも訓練を優先にしてたんだけど、「第四候補」と「第五候補」とサーニャがガチ勝負モードに入ってたから。
で、やる事が終わったって事で私はエルルから怒られた。最前線に出るなってあれだけ言ったのに何で出た!! という内容で。だって必要な事だったしさー。
「イベント期間は~、あともう少し残ってるけど~。無事に討伐まで行けそうかしら~?」
「戦況見てる限りはいけそうじゃないか? 儀式場を破壊した所でガクッと弱体化が入って、無効化が半減になって半減が消えたっぽいし」
「それなら大丈夫かしらね~」
本戦もとい対ヒラニヤークシャ(魚)レイド戦、外洋海上包囲編はそんな感じのようだ。今からの参戦はちょっと空気が読めてないので、このまま頑張って貰おう。……最後が削り切れ無さそうだったら参戦するけど。
改めてこの氷の大地で出来る事を考える。んー……船(残骸)の山を片付けるのは渡鯨族や『本の虫』の人達に確認を取ってからの方がいいだろうし、「忘却された狭間の大扉」は扉の形を取り戻した。これの移動はもちろん渡鯨族の人達と相談だ。
で。エルルの「白い夜」はあとリアルで半年弱ぐらい先だし、推測だらけだがサーニャにあるだろう似たような爆弾はどうしたって推測の域を出ない。下手すれば北じゃなくて南って可能性もあるし。東に居る「何か恐ろしいもの」は、運営のイベント待ちだ。
「……しかし、とりあえずですが、此処でやるべきことは全部やり切りました……かね?」
「そうなるんじゃね? 俺は、そうだなー。大陸の方に戻って除雪でもすっかな」
隠し要素まで含めて、ようやくのイベント完走、という事になるだろう。うん。やっぱり早めにメイン部分を走り切っておいて良かったな。
後は運営から年末年始イベントのお知らせが来るのを待ちつつ、訓練や準備をするしかない。もちろん年が明けてからの問題へ対処する為の用意も必要だが、これも運営のイベント待ちだ。
『バッドエンド』を追い回すのも選択肢としてはありかも知れないが、流石に個人でやるには限度がある。相変わらずの神出鬼没な暗躍具合で、『本の虫』の人達がその動きを追い切れてないって辺りでその難易度はお察しだ。
「あ、そうだエルル」
「今度は何だお嬢」
「そんな警戒しなくても。いえ、もう少しであの谷底が元の状態に戻りますが、畑の撤収とかしておいた方がいいですよね?」
「……あー、そうか。それがあったな。鬼族のとこにも顔出したいし……」
とりあえず、私達の動きとしてはそんな感じだろう。
……流石にもう、あの竜都跡から何か出てきたりはしないと思いたいし。
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