第332話 16枚目:追加情報

 爆弾を抱えたまま、気持ち的には先月の続きという感じで11月はスタートした。つまりイベントが始まるって事だ。頑張って【環境耐性】を鍛えた上で、生産職が超特急で研究して完成した防寒装備を手に入れた召喚者プレイヤー達が氷の大地にやって来るって事でもある。

 『本の虫』の人達は、対ヒラニヤークシャ戦のあれこれをこなしながらイベントの準備も進めていたらしい。いや、確かにその足掛かりとなる船(残骸)の解体や再構築は私も手伝ったけどね?

 それでまぁ、メイン舞台が大陸からこっちに移ったって事は、だ。


「……囮になったとか化身と正面から戦闘したとか色々、色々言いたいことはあるが、一応、後方には居たみたいだから…………まぁ」


 よし、エルルからのお説教回避っ! ……そのエルルも割とがっつり頭が痛そうにしてるし、サーニャは理解が追い付いて無くて背景に宇宙が見えるけど、判定はセーフだからいいんだ。

 なお『本の虫』の人達に話を聞いての判断なので嘘はない。気を付けて動いたかいがあったよやったね!

 っていうのはともかく、エルルとサーニャも私に合流するって事だ。もちろんフライリーさんやルチルもこちらへ来ている事だろう。……まさか布地を作る段階から神官さんのスキルレベルとはいえ神の力を付与(軽度の祝福扱い)しないと氷の大地で活動できる装備にならないとか、誰が思うよ。


「で、お嬢」

「何でしょう」

「今までにもまして召喚者達が気合入ってるというか、やる気がみなぎってる感じなんだが、何があった?」

「…………一言で言うと複合要因で「これは早く片付けるべき」という共通認識が出来たから、ですね。詳しくは……どこからどう説明したものか」

「?」


 自前の【環境耐性】のレベルを上げて装備はそのまま来たエルルとサーニャだが、どうやら召喚者プレイヤー達の様子が、今までのイベントとは若干違う事に気付いたようだ。

 しばらく考え、これは見せた方が早いかな……。と、イベントのお知らせページを開いて見せる。2人は疑問符を浮かべながらそこに表示された文章を読み進めていって……。


「……あー、なるほど」

「???」


 その反応が、エルルとサーニャで、まっぷたつに分かれた。召喚者って存在への慣れの違いがもろに出た感じだな。……サーニャ。そんな二度見三度見しても内容は変わらないよ。

 改めて説明すると、いくつかある理由の内、1つは大体概要を掴んだ時点で私が覚悟を決めていた通り、今回のイベントが「救出」を目的としたものである事だ。助けないという選択肢はないからね。そして救出っていうのは、早ければ早いほどいいと相場が決まっている。

 そして別の1つは、今は半透明で大人しく強制休眠しているヒラニヤークシャ(魚)だ。正確にはフラグ関係でねじれやバグが発生する危険があるんじゃないかというあれだが、早く「真っ当に」倒せる状態にした方がいいという危機感となる。


「ごめんちょっと何が起こるのかが分からない。姫さん、どゆこと?」

「……まぁ文章だけだとちょっと想像し辛いか」

「むしろエルルリージェは何で分かったんだ?」

「それこそ慣れだな」

「?」


 で、右サイドテールを揺らして首を傾げたサーニャは分からず、エルルも理解はしたがその難易度は察している、という事で、召喚者プレイヤー特有の、住民からは理解し辛い要因なのだが。


「大幅に意訳すると、もう数ヶ月したら新しい召喚者がどっとやって来て、召喚の術式が安定して発動されっぱなしになるんですよ」

「…………うん? いや、召喚者っていうのは分かるんだけど、うん???」


 まぁ、うん。

 フリアド。ソフトの生産体制と、サーバーの運用が安定したとかで……12月1日から販売制限が、1月1日から同時接続数の限界が、それぞれ無くなるらしいんだ。CMもガンガン出しているらしく、あまりテレビを見ない私でも既に何度か目にした程である。

 つまり、第三陣であると同時に、それ以降は気軽に召喚者プレイヤーが増えていくって事だな。ここまで1年半ほどかかっているが、ようやく通常のMMOらしくなってきた、と言うべきだろう。


「まぁつまり、召喚者の新人が増えるんです。これはいいですか?」

「それは流石に分かった!」

「そして新人が増えるという事は、仲間になって貰う為に勧誘しに行きたいというのが組織だった動きをしている召喚者の本音です」

「召喚者でも一塊じゃないのかー。部隊分けみたいなもん?」

「どっちかっつーと部署同士の人員の取り合いだな」

「なるほど!」

「そこに加えて、既に此方へ来ている召喚者達に、新しく来る召喚者を支援するとご褒美がある何かが起こる可能性が高いです」


 うん。流石に大きい動きだからか、珍しく、更に次のイベントの触りまでお知らせに書いてたんだよね。どうやら今年の12月と来年の1月にまたがって開催されるみたいで、前半は準備、後半は新人メインとなるようだ。

 どうやらフリアドはクリスマス商戦に殴り込みをかけ、年末年始の休みを纏めてかっさらうつもりらしい。一回がっつり遊んでしまえば、その自由度の高さで離れられなくなるのがフリアドだ。容赦のない攻勢だな。

 という事なので、時間はいくらあっても足りない。なので、渡鯨族の人達の救出完了、及び、ヒラニヤークシャ(魚)の撃退あるいは討伐、という「分かりやすい」ゴールがある今回のイベントは、速攻で走り切ってしまおう、って訳だ。


「まぁ、救出が早まるのは歓迎するべき事ですし、アレをどうにかするのにどれだけ準備込みで時間がかかるか分かりませんからね。私も最初から飛ばすつもりでしたし」

「……正真正銘の化身が根っこに居るのが確定してる上、そのややこしい状態にした元凶の尻尾どころか動きすら掴めてないんだろ。そんな上手くいくかぁ……?」

「ははは。そういう意味でも動きは早い方がいいという事です」


 まぁそういう事だ。

 ……相変わらず「救出できなかった渡鯨族の人達」についての記述が無い上に、よくよく読んで気づいたんだけど、「救出対象が渡鯨族だけとは書いてない」んだから。

 何が起こるか分からない以上、早め早めに動いて対処できるだけの時間を稼いでおきたいところだよね。割と切実に。

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