第333話 16枚目:イベント開始

 さてイベントだ。あのスタンピートもどきの発生から『バッドエンド』が今も何か小細工なり下準備しているんじゃないかという懸念はぬぐえないが、とりあえず今はやれることをやろう。

 イベント会場である特殊な空間は船(残骸)の山の奥にあり、「第五候補」が確認した時は何か重苦しい金属の蓋ががっちり閉めてあったらしい。『本の虫』の人達が【鑑定】したところ、破壊不能オブジェクトってやつだったようだ。

 で、イベントが始まってからその場に行くと金属の蓋が無くなっていて、青白い光で描かれた魔法陣が姿を現していた。魔法陣の上に乗ると「閉じた空間」に転移するかどうかを聞かれて、Yesを選ぶとスタートするようだ。


「ただでさえ探索で難易度高め、護衛しながら連れ帰るので更に難易度が上がるのが分かっているのに、時間制限まで付いているとか聞いていないのですが?」

「あー……。それでアレクサーニャはあっちについて行かせたのか、お嬢」

「最悪モンスターの群れもろとも迷路を破壊しながら脱出しなければなりませんからね。『本の虫』の人達も弱くはありませんが、特級火力はあった方が良いでしょう」

「そんな空間の内部でそこまで暴れて大丈夫か?」

「流石に遭難者が増える仕様は無いと思います」


 ちなみに内部の広さと罠やモンスターの数と時間制限は、今のところランダムだ。『本の虫』の人達が挑戦した人たちに話を聞いて纏めているけど、まだ情報が足りないらしい。

 一応傾向としては、罠やモンスターが多い程、或いは内部が広い程時間制限も伸びるらしい。また、要救助者である渡鯨族の人達が何人居るかはまた別で、こちらはほぼ完全にランダムな感じのようだ。

 ……今の所渡鯨族の人達以外の要救助者は見つかっていないとの事だが、どーだろーなー。


「でも出る時は外になるんだな。まぁ入る奴とぶつからなくていいけど」

「その問題もありますし、「閉じた空間」の一部が崩壊したから放り出されたって事になるんじゃないですか?」

「……なるほど」


 という訳で、順番待ちをしつつ私はエルルとの挑戦だ。とりあえずしばらく様子を見て、問題なさそうならエルルと私も別行動するとしよう。手数が必要なんだから、特級火力を分散できるならしておいた方がいいだろうし。

 ただし私単体の言葉に説得力が無い、あるいは護衛付きでないと皇女だと信じて貰えないようであれば引き続きエルルと一緒に挑戦する事になるな。「閉じられた空間」の中に居るだけあって、内部での情報共有は出来ない=いつだって初対面という事になるから。

 さて、私の皇女っぽさはどの程度通用するだろうね?




 途中で強制休眠が途切れたヒラニヤークシャ(魚)を再び強制休眠状態にしたり、渡鯨族の人達が街に帰る為に船の修理を手伝ったり、実際戻った先で資材の運搬なんかを手伝ったりしながらだったが、割と平和にイベントは進行していったと言っていいんじゃないだろうか。

 イベント期間としてはいつもの2週間であり、学生の定めで私は平日だとリアル夜しかログインできない。今回のイベントは救出人数の他、倒したモンスターや解除した罠の数および難易度もポイント化されて競う事になるらしい。

 そして、一応救済策、に当たるのだろう。10月のイベントで復活した動物姿の神(の化身)にお供え物を持ってお願いすると、一緒について来てくれるという事が判明した。


「姿によっては戦闘力もありますし、神は神ですからね。救出に来た事をすんなり信じて貰えるのは大きいです」

「個人的にあっちの大陸の渡鯨族と親交があった召喚者は、護衛する相手が増えるがそっちでもいいらしいな」

「それが進むと、救助済みの渡鯨族の方から手紙を持たせてもらったりも出来るみたいですね。その本人が再び「閉じた空間」に入る事は出来ないようですが」


 という事で、何気に難易度が高かった出会った瞬間の好感度というか信用値稼ぎは一般召喚者プレイヤーでもどうにかなっている感じのようだ。まぁ、そこでこけたらどれだけ道中の対策をしててもどうしようもないからなぁ。

 イベント開始から数日が経過した現在、召喚者プレイヤー達のやる気が大変高いのもあって結構な人数の渡鯨族の人達が救出されている。そして、順調に「何があったか」という話も聞けるようになっていた。

 もちろんその中に街を綺麗さっぱり吹き飛ばした元凶ことヒラニヤークシャ(魚)の事も入っていて、本来はここで情報を集める事でフラグを立てつつ対策する、という流れだったのだろう。


「その元凶が既に出てきてるもんだから、そりゃパニックにもなるよなぁ……」

「むしろそっちの説明と落ち着かせる方が難易度高いとか、ほんとあの害悪クラン碌な事をしませんねぇ」


 そこに説得・説明スキルに長けた『本の虫』の人達が取られている為、もし各救済策が無ければ救出速度はもっと落ちていただろう。

 で。「何があったか」という話、「の中にヒラニヤークシャ(魚)の事も入っている」って事は、他の話ももちろんあるって事でさ。“熱岩の火山にして黒煙”の神の話とか、東の海の変化とかはまぁそりゃあるだろうなって話だったんだけど。


「ははは。何度も言っていますが、どうしてこう悪い予感ばかり当たるんでしょうね?」

「予感がするだけいいんじゃないか。備えられるんだから」


 そこに、この大陸に居た、他の種族の話があってね。……どうも、今確認されてる種族と、何か説明が噛み合わない部分があるんだよね。

 今この大陸では、人魚族と、小人族と、渡鯨族が確認されてるじゃない? 竜族はあのスタンピートからしばらくして他所へ行った(らしい)からカウントされないものとして。

 話を詳しく聞くと。……あと、雪女系の種族と、獣人系の種族が、居る筈なんだってさ。


「例の世界規模スタンピートで多くの種族が移動した「後」の話ですから、今、この大陸のどっかに、「いないとおかしい」筈なんですが。現在の地図がほぼ完成した現在、全く見覚えが無いんですよねこれが……!」

「同じこの「閉じた空間」に居るのか、もしくはその種族ごとに似たようなことになってるか……もしくは、別の場所で別の厄介な状態になってるか、か」


 という事だ。全く本当に厄ネタが尽きないな、いつもの事だけど!

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