第325話 15枚目:嵐の前の備え

 以前スキル(というか魔物種族に対する認識)に変化があった際にナヴィティリアさんから説明を貰ったが、動物と魔物種族(というかフリアド世界の住民なので、人間種族も含む)に対しては【絆】で大神の加護を分け与える事が出来る。

 それに加えてある程度意思疎通の補助もある為、結構便利だ。一応エルルやサーニャも私がテイムしたという扱いになっているし。

 で、モンスターはというとこちらは【契約】というスキルが対応する。まぁ異世界からの侵略者だからね。この世界のあれこれだと説明が出来ない能力や特性があるため、【絆】では対応しきれない、という事だったのだろう。


「……それでいくと、魅了関係による使役ってどういう扱いになるんでしょうね?」

「状態異常を掛けているだけだから~、扱いとしては野良のままじゃないかしら~?」

「なるほど」


 しかし動物型ならともかく、雪像型のモンスターが船を解体したり、そこで出た資材を運んでいるのは、何というかこう、違和感と言うかなんというか……まぁ「第四候補」の雪だるま軍団よりは……?

 という訳で現在、絶賛船(残骸)の山の改装中だ。もちろんトッププレイヤーの一部(戦闘系だが生産スキルの重みを知っている組)と一緒に、『本の虫』の人達の指揮下で、だ。

 なお、船の解体と言っても、年代測定や資料関係の回収はきっちりしているので、検証に問題は無いらしい。うーんさすが検証班。


「大規模戦闘の準備で~、砦作りからするなんて~、まるで国取りゲームみたいね~。ここは一面氷だけど~」

「ははは」


 ……5月イベントでは実際超大規模戦闘の指揮を取ってたし、補給やら情報の纏めや解析やら、裏方ほぼ一手に引き受けてこなしてたんだよな、この人達。

 というか、今現在進行形でも、雪国の大陸の方は各街や村の要塞化を進めてるんだよな、備蓄物資や設置型の兵器も含めて。何処と戦争するの? という準備をして、実際モンスターと戦争規模の戦いをやって勝ってるんだよな……。

 そして、今回のあの「氷食らう何か」も、あそこまでとはいかずとも似たような大規模戦闘になる可能性がそこそこ高いんだよな……。


「……まぁ、頑張りましょう。準備で手抜きをして負けましたなんて、そんな情けない事はありませんし」

「そうねぇ~」


 まぁともかく手を動かそう。この解体作業も生産系のスキルに経験値が入るみたいだし、私は制御力が欲しいのだから、しっかり手を抜かず働けばいいのだ。見た目ロリの仕事量重機なのは今更。

 ちなみにこの解体作業、『本の虫』の人達経由で渡鯨族の人達に相談しつつ進めている。流石に大型船の解体・強化技能までは会得出来なかったようだ。まぁそう簡単に出来るようになったら、それこそ渡鯨族の人達が困ってしまうだろうけど。




「納得半分、不思議半分、船の解体と改造の作業で【建設】と【造船】が生えました」

「私もよ~。というか、作業している人たちは全員、レベルの差はあっても大体生えたんじゃないかしら~?」

「みのみのさんが居れば更に捗った気がします。気候的に死んでしまうらしいので、たらればの話ですが」


 そんな話をしながら、海上に船を元とした、浮かぶ村のような拠点を見る。掛かった建設時間はリアル3日。ギリギリ次のイベントのお知らせが来る前には間に合ったな。

 海側には木造の、同じく浮かぶ櫓が連結される形で立ち並び、氷の大地に接する側は、アザラシ達が避難する分も含めてかなり広い範囲を囲む氷のブロックで出来た防壁が聳えている。

 ちなみにあの「氷食らう何か」対策として、氷のブロックの中には船(残骸)を解体した時に出た端切れ的な木片や錆びて使えなくなった釘なんかをたっぷり投入している。うっかり食べて口の中ズタズタになってしまえ。


「海水を汲み上げて木枠に入れればブロックになるんですから、防壁の方は簡単でしたね」

「そうね~。逆に、海側の櫓は苦労したわ~。単独で飛べる「第三候補」ぐらいしかまともに作業できないんだもの~」

「そりゃ浮いているところに組み立てるんですから難易度が高いのは当然でしょう。うっかり下から登って、バランスを崩したら他を巻き込んで倒れるところでしたし」


 組み立て模様はそんな感じである。……何が起こるか分からないから、何かありそうな可能性が低い海側にも最低限の準備はせざるを得なかったんだよね。色々な物が流れてきて集まる海流があるって事は、それを利用されるかもしれないって事だし。

 まぁメインは氷の大地側なので、間を開けて防壁の半分か3分の1ぐらいの高さの壁が追加で作られてるんだけど。もちろんこちらも氷の中に色々投入されている。

 一応準備は出来た、と、言ってもいい筈だ。さて問題は、仕掛けるタイミングだが……。


「来月のイベントが何かは分かりませんが、ここから1週間ほどが一番キツい筈ですからね。今引き金を引くと、『本の虫』の人達の負担を筆頭に色々と厳しい物があります」

「じゃあ~、しばらくは静観ね~」

「……」


 うん。こちらの取る行動としては、理想を言うなら静観だ。イベントのお知らせの内容次第ではあるが、それでも勝負をかけるなら今月を乗り切ってからの方が望ましいというかありがたい。

 だって、今年の10月は、末日2日が週末で、学生や一般社会人は休みなんだ。イベントのお知らせ通り、ピークを持って来るならその2日だろう。そしてこの氷の大地は、あの扉こそ不安材料であるものの、このイベントで大きな動きは無いと思っていい筈だ。だって、メインは大陸なのだから。

 繰り返すが、メインは北国の大陸であり、氷の大地ではない。そして運営が用意したイベントという名の問題は、可能な限りの準備と対策をしたうえで召喚者プレイヤーの大多数が協力する必要がある程度には難易度が高い。


「どうしたの、「第三候補」~?」

「……大人しく静観を、様子見を、させてくれる相手なら良いんですが」

「?」


 にも拘わらず、私にも、「第五候補」にも、こちらへ来ている一部トッププレイヤー達にも、『本の虫』の人達から戻ってくるようにという声がかかることは無かった。

 もちろん、別動隊と書いて保険と読む立場なのだから、そうそう簡単に呼び戻す訳にはいかないというのは分かっている。だが、それ以上に。


「だって、ここですからね。タイミング的に、最高さいあくなのは」


 絶対に、何か、仕掛けてくる。

 そんな確信があったから、だろう。

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