第324話 15枚目:役割分担

 さてそんな訳で「第五候補」と一緒にダンジョンに潜った訳だが……。


「楽ですねこれは」

「そうなの~?」

「そうなんですよ」


 モンスター相手にも「第五候補」の魅了は通じる。とはいえ、即座に支配下に置くまでは行かず、しばらくの間こちらを襲うという本能と魅了による従いたいという欲求に板挟みにされて動けなくなるだけなのだが。

 が。同行しているのは、ステータスの暴力が種族特性である竜族の、それも皇女であるこの私。1体につき3秒もあれば仕留められるし、的として拘束する事も余裕だ。

 棒立ちの相手を数体残して吹っ飛ばし、「第五候補」の魔法の練習台として拘束するのは、うん。正直、めっちゃ楽。エルルが居たら「訓練にならない」って禁止にされるんじゃないかなこれ。


「お互いの特性が嵌るとこうなるんですねぇ」

「まぁ~。楽なら楽に越したことは無いんじゃない~」


 どうやら無事スキルとして取得できたらしく、【○○古代魔法】を楽しそうに撃っている「第五候補」。初級までは私でも教えられるからね。それ以上はエルルにお願いしたいけど。

 こんな調子なのでさくさく攻略が進む。なるほど、これが役割分担の力って奴か。今まではエルルかエルルとサーニャにお任せしかしてなかったからなぁ。大蛸の時は防御に手いっぱいだったし。

 ……まぁ、ステータスを色々考えた時に、一番合う役割は「タンク」なんだろうけど。ステータスの暴力で何が一番の脅威かっていうと、やっぱり体力と耐性と回復力って事になるだろうし。


「うん。やっぱり最前線が一番適してるんですよね、竜族の皇女

「なにが~?」

「ちょっとパーティでの動きを考えてまして」


 こんな事考えてる時点で怒られそうだから、普段は大人しく守られとこう。とりあえず今の所はまだエルルとサーニャの方が強いんだし。……護衛対象が護衛より強いとか、まぁ、ファンタジーならよくある事だ。うん。

 しかしこのペースで攻略してても減った気がしないんだよな、ここのダンジョン。周りの見た目氷(正確に言えば、空間の歪みを圧縮した不思議物質か?)はまだ最初と比べて誤差程度にしか減ってないし。

 ……まぁ、本来なら来月かもっと先か、渡鯨族関係のイベントに合わせて、全召喚者プレイヤーを相手に攻略させるつもりだったんだろうから、そうそう簡単に削り切れたら困るんだろうけど。


「と。すみません「第五候補」。ウィスパーが来ました」

「分かったわ~。警戒しておくわね~」


 その途中で通知が飛んできたので、「第五候補」に声をかけて応答する。相手は、うん? カバーさんだ。大陸で何か起こったか?


『はい。どうされました?』

『お忙しい所すみません「第三候補」さん。少々こちらの状況が変化致しまして――』


 相変わらず端的で分かりやすいカバーさんの話によれば、どうやら流石に多神教と言っても神の数には限りがあり、「第一候補」の頑張りによって事前に保護・救出できた神も数柱いた事で、とうとう『バッドエンド』が儀式の生贄に出来る神がいなくなったらしい。

 これだけならざまぁみろと快哉を上げるところなのだが、ここで不思議な事が起こった。儀式を行っている様子が(「第一候補」の広域探知でも)無いのに、スタンピートもどきの発生が起こったらしいのだ。

 もちろん原因を探してもそれっぽいものは発見できず、またしばらくすれば勝手に収まったのも意味が分からないポイントとの事。今までの経緯(と書いてやらかし或いは前科と読む)から考えて、これは碌な事にならない、と判断したようだ。


『――という事ですので、「第三候補」さん。「第五候補」さんが居たという船の山に、一時的に別動隊を収容して頂いてもよろしいでしょうか? 最悪、大陸全土を巻き込んでの「何か」が起こる可能性がありますので』

『全く否定できないのが辛い所ですね。分かりました。ダンジョンの残り数を減らしつつ、そちらの護衛も行います』

『有難うございます。――あの「氷食らう何か」の様子も気になりますが、そちらに変化は見られないという事ですし……。イベントももうすぐ後半に突入しますし、警戒していきましょう』

『そうですね』


 戦力を分散する、というのはデメリットだ。デメリットだが……一か所に集めておいて、問答無用の手段で全滅させられると、最悪立て直す暇すら無くなってしまう。実際、あの見た目巨人の時だって全体の戦力を半分に分けていたから辛うじて対策できたわけだし。

 そして今の会話では出てこなかったが、恐らく最初の大陸にも別動隊が居るだろう。まぁ掛けれる保険は多ければ多いほどいいだろうしね。


「さて。「第五候補」」

「話は終わったかしら~?」

「えぇ。あの船の山を拠点として改装しますよ」

「あら~。大仕事ね~」


 魅了を念入りにかけて、何をされても棒立ちしている熊型モンスターを鞭でビシバシと叩いていた「第五候補」が、頬に空いている手を当てた。うん。確かに大仕事だな。拠点と言いながら、最悪あの「氷食らう何か」に対する最終防衛拠点にしなきゃいけないんだから。

 まぁ、使う機会の無かった生産系スキルのレベル上げだと思えばやる気も出るさ。それに、生産スキルも手を動かすことで取得可能となっている。頑張って土木工事しようか「第五候補」。


「……ねぇ、「第三候補」」

「どうしました?」

「もうちょっとここに居てもいいかしら~?」

「……作業員を増やすのならお付き合いしますが?」

「ありがとう~」

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