第311話 15枚目:対処開始

 さてそうなると今回もまた、因果的に触れることなく事態を解決する、という必要がある訳だ。相手に触らない、干渉しないでどうこう、っていうのはあれか? 対邪神関係における基本なのか?

 まぁそれぐらい面倒なのが標準だから邪神って言われるのかも知れない。関わるな危険ってか。そうだな。問題はその危険な場所に自ら嬉々として足を踏み入れる奴が居るって事だもんな。

 とりあえず現状、高高度から様子を見ている限りは何もしてこないようだ。見ているだけで影響を及ぼすほどの力もないようで何より。じっと沈黙しているのが不気味っちゃ不気味だけど。


「……。エルル。あの推定海の神が居るのは、氷の上ですね?」

『うん? あぁ、ここから見える限りはあの海岸線に沿って凍ってる、あの大きな氷の上だな』

「姫さんが訓練で散々砕いてたのと同じ奴だな! でもちょっとこっちの方が幅が広いか?」

『あー……たぶんな。流石にその向こうに浮いてる氷山まで繋がってはいないと思うけど』


 まぁ私だけで解決法を見つける必要は無いんだけどね。だって既に「第一候補」とカバーさんに連絡は入れてるんだし。……っていうか、今の確認が既にカバーさんからの質問だ。

 地図があてになるって言うのが分かっているから、場所が分かれば本来の地形も分かる筈だ。しかし何故氷の上に居るかどうかの確認なんてしたんだろうね? たぶんこの後に続く指示で答えが分かるんだろうけど。

 そして案の定、続いたメールに具体的な動きが書いてあった。……うーんこれは、私の説得スキルが試される内容だなぁ。


「エルル、サーニャ。カバーさんから作戦指示が来ましたので聞いて下さい」

『おう』

「カバーってあれか、防衛指揮取ってたあの人間?」

「そうですよ。頭の良い方ですからその作戦は毎回適確なんですよね。で、その内容なんですが」

『まぁ確かに、確実に目的は達成できるよな……』

「エルルリージェがそう言うって相当なんだな」


 あ、今のってエルル的には褒めたって事になるのか。ちょっと目を逸らしつつな感じがしたけど。

 まぁそれはそれとして、カバーさんからのメールを読み上げるように説明する。反応はまぁ大体分かっていたので説得開始だ。過程は省略。


『…………時間が無いのは分かってるが…………!!』

「うわうんさっきの微妙な言い方の理由が分かったというか分からされたとか、ぶっ飛んだ発想だな!?」


 結果、カバーさんの評価が大変な事になってしまった気がする。主にサーニャからの。でもその実効性と達成確率は相当なもんでしょ? まぁそれが至極妥当だと分かってくれたからエルルもサーニャも折れ、もとい納得してくれた訳だし。


「さぁそれでは取り掛かりましょう。今こうしている間もモンスターの群れは止まっていませんからね!」

『前線に出るって言うのに楽しそうにしないで貰えるかお嬢!』

「自ら囮になるようなもんなのにどうしてそんな生き生きしてるのさ姫さん!」


 言われようが散々だが、だって、皇女である前に1プレイヤーだし?




 さて。と、カバーさんから指定されたポイントに下ろして貰い、【人化】を解いたサーニャとエルルを見送って、息を吐いて目を向けるのはかなり遠くの影としてしか見えない『バッドエンド』が待ち構える儀式場と言うか砦だ。

 この場所はあの儀式場を挟んで海の方向に直角な内陸部。竜族の皇女の視力でギリギリ儀式場が見えなくもない、っていう点でその距離はお察しである。

 まぁエルル達への説得材料としてモンスターの侵攻を使っただけはあり、掲示板で見る限り結構防衛状況は厳しいようだ。特に元渡鯨族の街は、そろそろ防壁の耐久度がやばいらしい。


「ま、だからここで決めるか、せめて痛打ぐらいは入れておかなければいけない訳で――」


 【飛行】を意識して、足元に積もるパウダースノーの数cm上に浮かび上がる。【人化】した状態での【飛行】もなかなかうまくなったもんだ。

 そのまま、大きなボールを支え持つように、手を前に伸ばす。そう、ちょうどボール、あるいはレンズが影としてしか見えないあの儀式場をすっぽり覆うように。


「[其れは日照り齎す陽光の欠片

 照り付け熱して渇かす過ぎた晴れ

 際限の無い暑さと乾きを押し付ける

 過剰が故に無慈悲な光の一差し]」


 詠唱途中で頑張って魔力制御。主にその効果範囲を、現在の私から見てマイナスの高さに押し込めるように。具体的には足元へ、土台へしみこませるような形に変えていく。

 同時にその範囲を限界まで広げていく。出力も最大にした方がいいので、まぁ、ちょっと魔力消費があれだしまた魔法をそんな規模で使ってと怒られる案件だな。緊急時だから仕方ない。うん。しかし視線と姿勢はそのまま【飛行】で制御しつつだから結構頭が忙しいなこれ。


「[全ての水を空へ追いやり

 土も岩も砂へと還す

 容赦と加減を忘れた太陽の

 苛烈な火の側面をここに――ドロゥズ・サン]!」


 これはここまで散々お世話になっている、特定範囲の温度を急上昇させる魔法アビリティだ。それをステータスの暴力が捗っている私が、全力で(少なくとも通常触る分には)ただの雪相手に使えばどうなるか、と言えば……ご想像の通り。



 私の足元を中心とした広範囲の雪が、一気に解け落ちて熱湯へと変化した、のだ。



 もちろん私自身は【飛行】で浮いている為巻き込まれることは無いが、うん、うっかり危険を察知し損ねて巻き込まれたモンスターや動物の悲鳴が大変な事になってるな!

 当然ながらそれだけ大規模な事をすればモンスターも寄ってくるのだが、そこはまぁ、私なので。具体的には高温のエリアに入って数秒も無く、雪と氷で作られた動物型の雪像っぽいモンスターはどろどろと溶けて消えてしまった。

 ある意味入れ食いな訳だが、実は今回の本題はそれではない。雪が解ければ水になり、水が熱されると熱湯となる。さて、それではその熱湯はどうなるだろうか?


「レッツゴー熱湯の濁流! 海岸線まで溶かしきってしまえー!」


 つまりそういう事だな。ここでポイントなのは、私がやったのは「周囲の雪を解かす事」であり、その目的はイベントモンスターの迎撃だ。その行動で発生した熱湯の濁流の行き先までは知ったこっちゃない。

 地図から高低差と地形を読み取って、どのポイントで雪を解かせばあの儀式場に直撃するかっていうのを計算していても、あくまで間接要因である。邪神対策もばっちりって訳だ。

 おや、流石に儀式場というか砦がバタバタしてるな? そして気のせいか雪像型モンスターの数が増えたな? ははは。


「飛んで火にいる夏の虫、ですねぇ。飛び込んでくれば来るほど熱湯の量が増えるだけだというのに、ご苦労様です」


 私の魔力的出力を越えられるならやってみろっていう話だ。ま、出来るんならとっくにやってるだろうけど!

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