第310話 15枚目:元凶発見

 足並みを揃えるより単独の方が速いらしく、サーニャは【人化】したまま私と同じくエルルの背中だ。それでも私と違って周囲を見る余裕はあるみたいだけど。

 て、あれ? よく見たらサーニャの背負ってる槍って、エルルの背負ってる剣とは違ってなんか普通の武器っぽい? 竜族って皆余った力を武器の形に押し込むもんだと思ってたんだけど、え、違うの?

 んーでもフィルツェーニク君はエルルの背負ってるのと同じ色味の剣だったしなー。まさかのシュヴァルツ家特有のスキル的なものだったり?


『うわ、たぶん見つけたけど、あれは酷い』

「うーわぁ“破滅の神々”が噛んでるって聞いたからある程度覚悟はしてたけど、輪をかけて特別酷いなこれは!?」


 と、考えに沈んでいる間にエルルが目的地を見つけたようだ。然程なくサーニャも見つけたらしく、すぐに感想が出てくる。うーんしかしそこまで酷いか。

 それらの感想に覚悟を決めつつ、私も身を乗り出して地上を見下ろしてみると……あ、うん、これは酷いわ。……主に、痛々しいって意味で。



 さてここで突然だが、この大陸における神話の元ネタとなったハワイ神話についてちょっと説明しておこう。

 大まかな形としては多神教であり、一番大本の創造神と、そこから分かれて生き物を生み出した神がいる。その神々を合わせて4大神と呼んで、一番格が上の神となる訳だ。

 で、その下に各職業を司る神々が居て、さらに下に各家族、あるいは個人を守る神々が居る。もちろん、その神々の中でも職業の重要性なんかで、多少の上下はある訳だが。ちなみにポリアフ様達4姉妹神は2段目の神々の中で上位に当たる神様となっている。



 ここでポイントとなるのは、神様の格によって気軽に会えるかどうかが変わるって事だ。具体的に言うと、創造に関わっている4大神は相当に準備を整えて儀式をして、ようやくその力の一端を借りられるかどうかといったところだろう。

 逆に一番格の低い守護神は、まぁ、うん、イベントの結果次第だが、実にフレンドリーな感じでほいほい出会えてもおかしくない感じの遭遇率となるだろう。いや実際どうなるかは分からないけど。

 で、ポリアフ様を始めとした中間の神様はというと、普段は無理だが事情があれば会って話せる、言い換えれば干渉できるという感じだろうか。つまり、だな。


「……大型の鮫、ではないですよね。それを、海の上に磔ですか……」

『たぶん神だな。海関係の』

「普通神って言ったら不可侵で下手に手を出せば手を出した奴が酷い目に合う筈なんだけどな!?」

「ポリアフ様方同様、弱っているところを捕まえられてしまったのでしょう。さてこれで上空から吹っ飛ばして終わりという訳にはいかなくなりましたが、地上は地上で警戒が厳しそうですね……」

「吹っ飛ばして終わりってまたそんな姫さん大雑把な」

『残念だが本気で言ってるぞ』

「マジで!?」


 そりゃ海の神様と連絡つかない訳だよ。完全に捕まってるじゃないか! いやまぁ本来はこの地元の物じゃない雪で弱ってたからだろうけど!

 エルルとサーニャが何か言っていたがスルーして考える。とりあえずあの禍々しい感じからして、鮫を磔にしている台座と槍あるいは杭が“破滅の神々”由来の品なのだろう。で、周囲に居るのがあのゲテモノピエロ率いる『バッドエンド』の構成員だろうか。

 しっかし完全に迎え撃つ形で待ち構えてるんだよな。正面から戦って勝てるならいいが、当たり前に罠や搦手を使ってくるだろうし、どうしたものか。……とりあえず上空からのスクショを撮ってカバーさんと「第一候補」に送ってと。


「一応聞きますが、2人共、正面から突破してあの敷地を更地に出来ます?」

『うーん……いや、ちょっと厳しいな。“破滅の神々”が儀式をやってるところに踏み込むのは大分危険だし、あれだろ、自分を生贄に捧げた前科持ちの召喚者が噛んでる可能性も高いんだろ?』

「まぁ高いというか、まず間違いなくあいつでしょうね」

『じゃあたぶん「踏み込まれる」事まで想定して儀式場を構成してる可能性があるな。下手に踏み込んだら即座に生贄にされる可能性もある、っていうか、むしろ「踏み込むことで儀式が完成」の可能性まであるな』

「下手に手出しも出来ないとは相変わらずやり方が汚いですねぇ……。という事は、魔法やブレスを叩き込んでも「それをエネルギーとして」儀式が完成したり、発動している儀式が強化されたりする可能性もあると」

『これだから邪神は厄介なんだよな』

「全くです」


 上空で意見を揃えた所で、サーニャが首を傾げて、素朴な疑問を口にした。


「なぁ。普通邪神ってそんなに遭遇しない筈なんだけど、なんで姫さんとエルルリージェはそんな慣れてる感じなんだ?」

「……色々ありまして」

『……まぁな』


 ははは。

 ……儀式をやっている元凶と直接遭遇済みな上、生贄にされかけた子を救出したり、あわや自分も生贄にされそうになったとか、今説明してる余裕は無いよね。

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