第309話 15枚目:元凶暗躍

『「第一候補」、今手は開いていますか?』

『うむ。戦況としては「第四候補」1人で今のところ間に合っておるな。どうした?』

『大至急、可能ならこの大陸全土を対象に、“破滅の神々”の気配を探査して頂きたく!』

『! 承知した。すぐ取り掛かろう』


 と、言うのがそこから気付いてすぐ、そして現在から2時間前のウィスパーだ。幸いと言うべきか、元々最前線用の拠点として整備されていただけあって、ポーション等の備蓄は十全だったらしく、今のところ戦況は安定している。

 まぁ安定してるって事は押し返せてはいないって事でもあるんだけどね。私にもログイン時間の制限とリアルの生活がある以上、最前線に張り付き続けるという訳にもいかないし。

 それにこの後相手の戦力が上がり続けるというのなら、正直「マイナスではない」現状は「悪い」と言っていいだろう。最悪、女神様の山とこの竜都跡に全住民を集めて集中防衛する必要があるかもしれない。


「……まぁ、此処もいつまで持たせられるかは分かりませんが」


 ただ、女神様の山だけでは全住民を収容する事は出来ないだろう。場所や食料を始めとして、足りないものが多すぎる。もちろん、そうならないのが一番いいのは確かなんだが、最悪は考えておかなきゃいけない。

 そして、それぐらいならカバーさん達もとっくに考えているだろう。その上で色々と策を考えている筈だ。なので、現在はバフを撒きつつ実質指示待ちである。何かあったら特級戦力である私が動くことになるんだろうし。

 と、考えながらも戦線を維持する大門前の戦闘を眺めつつ、バフに混ぜてヒールも時々飛ばしていると、カバーさんが屋上に上がって来た。おや?


「「第三候補」さん! 今からエルルさんが戻られるそうですので、サーニャさん共々元凶と思われる相手の所へ向かっていただけますか!?」

「分かりました!」


 どうやら無事位置の特定は出来たらしい。……って事は、私の既視感は間違いでも何でもなかった訳か。なんだかなぁ。いや、今回に限れば対策できるんだから良しとしよう。

 とりあえず防壁の上から声を張ってサーニャを呼び、カバーさんに了解の返事を返すのとほぼ同時に届いたメールを確認する。えーと、この大陸のー、上の丸の南東端、かな? 地図で見るとまぁまぁ近いけど、流石に此処から目視は無理か。

 しかし東かー。大体分かってたけど元凶の近くかー。……一体どうやって『本の虫』の人達の監視をすり抜けたんだ? まさか本気でモンスターと手を組む方法を見つけたのか?


『お嬢!』

「エルル、急ぎますよ!」

『やっぱり一緒に来るつもりなのか!? 出来ればここで待っててほしいんだが!』

「だったら秒で事態解決してください。時間ありませんよ! ほらサーニャも急いで!」

「いやうん流石に過剰戦力じゃないかな姫さん!? ボクかエルルリージェだけでも大概だと思うんだ!?」

「過剰戦力じゃない可能性があるから皆で行くんですよ!」

「マジかエルルリージェ!?」

『…………っ! くそ、否定しきれない……!』

「マジか!!??」


 とか考えている間にエルル到着。防壁の大門上はヘリポートもといドラゴンポートとして十分な広さがある為、普通に着地したエルルの背中へさっさと移動する。

 エルルはサーニャの確認に否定を返したかったようだが、最初の大陸にある渡鯨族の街近海に現れた、あの巨大な海鮮系の異形やクレナイイトサンゴの見た目巨人を思い出したのだろう。数秒詰まって実質肯定を返していた。それにサーニャはさらに驚愕しているが、だから急がないと事態は悪化する一方なんだってば。

 そうなんだよな。今回もこれ、“破滅の神々”の気配で全域探査をお願いしてそれで反応があったって事だし、そこから『本の虫』の人達が今回のかなり大規模なスタンピートの元凶「と思われる」ってとこまで絞り込んでるから、まず間違いなくあのゲテモノピエロが噛んでるんだよな。


「後で何があったか説明しますが、一言で言うと“破滅の神々”が高確率で噛んでいるんです」

「げ。あの邪神がか。あーなるほど、それなら遠慮いらないな。つか過剰火力でないと安心できない。納得した!」


 ははは、“破滅の神々”の名前は効き目がすごいなぁ。あれだけ現実から目を逸らそうとしていたサーニャが一瞬で納得したよ。混じりっけなしの悪名だけど。

 しかしこの地図に描かれた地点には何があるんだろうね。何か儀式場だろうとは思うけど、余計な仕掛けとか無いだろうな。……上空から吹っ飛ばして事態解決するやつなら対処が楽でいいんだけど。

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