第299話 14枚目:作業兼訓練

 “雪衣の冷山にして白雪”の神の守りはひとまず「第四候補」が担当しているという事で、そちらにも『本の虫』の人達が派遣されることになったようだ。

 環境的に厳しいのでは、とも思ったが、女神様の加護が篤い土地というか、山自体が御神体だから、神殿周辺であれば木の実の類も取れる程度に寒さを抑える事も出来るとのこと。つまり、道中さえ乗り切れば拠点には出来るって事だ。

 しかし調味料は不足しているので、基本的に調味料無しで焼いた肉しか食べられないらしい。なので今までは木の実で作る酒がほぼ唯一の楽しみだったのだとか。


「いや美味しいよ? 美味しいんだよ特にあの加護付きのパンの実。パンっていうか柔らかいクッキー生地みたいな感じだし生だと結構果汁もあってさ。その生でも焼いても肉と合わせても美味しいんだけど、塩ぐらいは欲しいよねっていうのが心底からの本音っっ!!!」


 机ドンして叫んでいた「第四候補」は切実だった。その氷のブロックで出来た机を思いっきり殴ったせいで、拳を抱えて転げまわるのまでがセットだ。「第一候補」の事を言えない貧弱さだな。同じように殴ったら机が砕ける私は私でどうかと思うけど。

 なお「第四候補」は西から来るアザラシの集団を撃退する以外に、北方向の除雪(=女神様のものではない雪の排除)と、北の海岸線の氷を砕いて散らすという仕事もしていたらしい。結構働いてたんだな。


「まぁ他にやる事も無かったしー。実際スキル上げには丁度良かったし。それに頑張ったら女神様直々に褒めてくれるもんだからさぁ? そりゃやる気も出るってもんだよ、うん」

「で、それに夢中になって他の召喚者の動きを確認し忘れていた、と」

「スミマセンデシタ」


 実に滑らかな土下座だ。ちょっと面白くなってきたじゃないか。

 そういう事情だったので、とりあえず指示待ちの間は北の海岸線を掘り出す作業を手伝う事にした。主に海の中に出来た氷を砕く方で。雪だるまだけじゃなくて氷のブロックで出来たゴーレムとかも居たんだけど、流石にちょっとパワー不足だったらしいんだよね。


「いやぁ、いくら殴っても蹴っても砕いても構わないどころか褒められる大きな物なんて、滅多にありませんからね」

「ほんとにな。出来ればこの間に手加減を覚えてくれお嬢」

「努力します」


 なので、南側と同じく本来の地表からすれば高い壁のようになっている氷を相手に、格闘での戦い方の練習だ。やっぱり魔力による強化とその制御が肝だったようで、主にその辺に関する指導が多かった。

 もちろん滝のように水が落ちてくる状態だと(主に凍り付いて取り込まれるという意味で)危険がある為、先に海側半分を切り離してから練習台にしている。切り離した方法? エルルの【竜魔法】強化+私のフルバフによる尻尾叩きつけ。綺麗に割れたよ。

 放置しっぱなしだった【格闘】と【服】が上がる上がる。もちろん【格闘】にもアビリティがあるから、全力で使ったらどうなるかな?


「お嬢ー?」

「えー」

「えーじゃない。それでなくてもお嬢は何しても火力が高すぎるんだから、火力を上げるのは制御が追い付いてからだ」

「まぁそれはそうでしょうけども」

「制御しやすい【人化】状態で制御出来たら、次は難易度の高い竜姿での訓練が待ってるからな?」

「先が長い」


 まぁ制御力の必要は、それはもうひしひしと感じてるけどさぁ。……というか、この巨大で密度の高い氷相手でも、うっかり力を込め過ぎたら一発で割れ砕けちゃう辺り、あっこれはヤバいって思ってるけど。

 え? 氷が砕けたら? いったん退避してから別の場所の除雪をして海側を割って、修行再開。この海岸線分だけはあるからね。ある意味的には困らないって訳だ。


「うっへぇ、「第三候補」がステータスお化けになってる。なぁにあれ、見た目可愛いけど中身怪獣じゃね?」

『まぁ、竜族の皇女であるからな。それに加えて、通常以上にステータス補正が付くスキルを積んでおるであろうし……加えて言うのであれば、恐らく、現状でもまだまだ成長途中であるぞ』

「こっわ、近寄ったら素振りの余波だけで吹っ飛ばされそう。あれ? その「第三候補」に俺首掴まれてたよな?」

『そうなのであるか? ……巫女ネレイの話では、鉄塊がごとき首枷もあっさりと握りつぶしていたとの事であるが』

「怖ぁ!? え、ちょ、まさかあそこでふざけた返答してたら俺の首も握りつぶされてたって事!? 怖い! 今更だけどめっちゃ怖い!!」


 そんな会話が聞こえたが、おおむね事実だからスルーしてやろう。ははは、力が入り過ぎて新しく的にし始めたばかりの氷塊を粉々に砕いちゃったのは偶然だ。会話が聞こえた直後だけど偶然だ。いいね?


「うーわ、勝てる気がしない。というかそもそも「第三候補」自身が弱点を潰して環境を整えて実力以上の厄介さになる性格だっていうのに、その上本人があそこまで強いって、それなんて無理ゲー?」

『敵対しなければよかろう。それだけの話である』

「あ、うん。そうだな。うっわ危ねぇ、一発までなら誤射が通じて良かった……」


 ちなみに、割と根に持つ性格でもあるぞ。

 サーニャを撃ち落とした事と雪だるまミサイルとかいうネタに走った事、しっかり覚えてるからな?

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