第298話 14枚目:情報交換

「い、いやほら、前に遺跡の罠踏んで何処とも知れない場所に飛ばされたって言っただろ? それがこの山でさ。死に掛けながらっていうか何回も死にながら雪の中を彷徨ってたら、ここの女神様の神殿に行きついてさ。拠点にさせて貰ってるからログインした時とログアウトする時にお祈りしてたら、それで復活出来たみたいで? 最初は言葉も分からなかったけどその内分かるようになってきて、そこからは色々話聞きながらスキルを使って周囲を調べたり陣地的な意味での防御を固めたりしてた訳だよ、うん。女神様の依頼だから断れないよな! ぶっちゃけ何処かへ行く当ても皆無だし!!」


 と、言うのが「第四候補」の言い分だった。……あぁ、そう言えば言ってたな。あの『スターティア』観光ツアーに行く時の掲示板での声掛けで。そうだな。最初の大陸にこんな雪深い景色は無いからな。

 ちなみにこの話をしたプレイヤーは私が最初という事で、この場所に辿り着いたのは「第一候補」もログアウトした後の事だったようだ。まぁエルルとサーニャは【絆】で召喚者の事を含む現代知識が与えられてるから、一応話は通じる筈だし。

 で、エルルとネレイちゃんは、というと。エルルは周辺警戒と探索、ネレイちゃんは女神様こと“雪衣の冷山にして白雪”の神と謁見しているところだという。


「まぁ、違和感がすっきりしたのはいいんですが。危うく雪だるまミサイルがかの女神のせいになりかけた事について、何か弁明は?」

「全体の流れが次の大陸に行けるようになったって時点で現状を掲示板で報告しておくべきでしたゴメンナサイ」


 流石にネタに走り過ぎたという自覚があるのか、す……っ、と実に滑らかに土下座の姿勢に移る「第四候補」。まぁ私のある意味真逆、人形遣いというか使い魔作成極振りみたいなスキル構成をしてるみたいだから、本体に戦闘力があんまり無いっていうのもあるだろうけど。

 ちなみにこの話は、既にカバーさんに通したうえで、『本の虫』の鍵スレッドにリアルタイム動画として流している。しかしあの隕石が直撃する確率と似たり寄ったりって言ってた「第一候補」の予想がほぼ当たりとはねぇ。普通に想定外だよ。

 ちなみに鍵スレッドは立てた人と、招待された人しか見れない。が、招待者からの招待は可能なので、「第四候補」とはフレンド登録を済ませて招待してある。だから、スレッドに『本の虫』の人達から書き込みがあれば「第四候補」も読めるという訳だ。


「え、うわ、何、なになになに、なんかいっぺんに質問が来たんだけど?」

「私は撮影者をしているので答えてください。貴重な情報源ですからね。出来るだけ丁寧に細かくかつ分かりやすい回答をお願いします」

「わぁ注文が多い! えーっとそれで、どれから答えればいいんだ?」

「とりあえず先着順で答えればいいと思いますよ」


 ぽこぽこぽこん、と次々にレスが付いていくのに、椅子に座り直した「第四候補」が答えていく。私はさっき言ったように撮影者だ。

 え、サーニャ? 流石に真面目にしてるよ? 入り口近くで警戒してる。……お仕事するのと氷の床に正座で待ってるのと、どっちがいい? って聞いたらお仕事するってさ。正座ならエルルからのお説教が短くなるかもしれないよって言ったんだけどな。




 で。そこからまずネレイちゃんが戻ってきて、無事に女神様とお話しできたと話してくれたのをよしよしした。もうしばらくしてエルルが帰って来て、サーニャと話して私が誤魔化し部分をバラして怒られていた。

 「第四候補」へのインタビューという名の聞き取りがひと段落して、エルルが作ってくれたご飯を食べて落ち着いた辺りで「第一候補」がログインしてきた。ので、私が迎えに行って、ようやく全員が合流だ。


『なんと、「第四候補」であったか』

「え!? うっそだろ「第一候補」!? そんな縮んで何があったんだ!?」

『…………故あってな』


 まぁその合流した時にそんな会話があったが、深くは突っ込むまい。あのころころデフォルメハコフグなぬいぐるみに「乗って」いる姿とか見たら、「第四候補」は呼吸困難になるほど笑い転げるだろうから。

 とりあえずだ。“雪衣の冷山にして白雪”の神様が健在だったのも、あの雪だるまミサイルというネタに振った防衛陣地も「第四候補」の影響だった訳だ。では逆に、何故「気配が遠い」と評されたかというと、それはやっぱりこの、山頂の一部を除く雪のせいらしい。

 これはネレイちゃんが聞いてくれた内容なのだが、まず3姉妹の女神様達に眠るように言って、衣(雪)をかぶせて守ったのは間違いないらしい。しかしそこから更に自分のものではない雪が積もり、身動きが取れなくなってやむなく自分も眠りに就くことになったのだとか。


『ふむ。となると、かの女神以外に雪を降らせる要因があるのは確定、という事であるな。それに加え、その要因があまり好意的なものではないのもほぼ確定であるか』

「あ、その辺俺に聞かれても分かんないからな! 何せ女神様の防衛と自分の事で手一杯だったから!」

「自慢げに言ってるんじゃないですよ」


 まぁ「お姉さま」こと“雪衣の冷山にして白雪”の神の現状を知るのが当初の目的だったんだから、それは達成できたのだが。

 運営がこの大陸の問題を、あとリアル11ヶ月は引っ張るつもりである事を考えると、中々黒幕というか元凶の正体までは掴めないだろう。もどかしいのは、まぁ、しょうがない。


『ひとまずは、かの女神に再度伺いを立て、大神殿の位置に心当たりがないか聞いておくとしよう。他に何か気になる点はあるか?』

「小人族に関する事ですかね。元々は大陸の北側に住んでいたのでしょう? その集落の位置が大体でも分かれば、ワイアウ様を始めとした姉妹神の方々もスムーズに本来の場所に戻れると思うのですが」

「うみのかみさま、ぜんぜんまだわかんない……」

「あ、女神様も分からない事はあるって言ってたぞ! 例えば東の海に現れた超デカ氷山とか、渡鯨族の行方とか、西の海から山に攻めかかってくるアザラシ集団とか!」

「何それ聞いていないのですが」

『それは我も聞いておらぬぞ。恐らく『本の虫』も知らぬと思うが』

「いやそりゃ、何のためにあそこまでがっつり防衛陣地作ったと思ってるんだよ? 攻めてくる奴が居るからじゃん」


 ……「第一候補」の確認に、また何か新しい情報が出てきたが。それもまたとりあえず『本の虫』の人達に報告しておこう。

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