第300話 14枚目:白山襲撃

 それが来たのは、翌日のログインで「第四候補」にちょっとした質問をしているときだった。


「ところで「第四候補」」

「うん? なになに「第三候補」から話しかけてくるのは珍しいんじゃね!?」

「あなたの名前が読めないんですが」

「そっちかー。それかー。それはなー、(゜▼゜*)だぞ!」

「ですから何と?」

「うん。だから(゜▼゜*)だ!」

「んなテヘペロが如く言われても具体的な音としては認識できないんですよねぇ」

「わー口調が崩れてるぞ「第三候補」。でも大体伝わってるからいいじゃん!」

「問題があるかないかで言えばないのがフリアドの謎技術ですよねほんと……」


 自分で発音しても、発音できる割に音自体は聞き取れないんだよねこれが。一体どうなってんの? 顔文字をプレイヤー名本名にする「第四候補」も大概だけど。

 と、体が冷えてはいけないとお茶休憩していると、ボコボコボコッッ!! と、雪から雪だるまや氷ゴーレムが起き上がる音が連続した。それを聞いて、お、という顔を山の西側に向ける「第四候補」。


「うーん、「第三候補」達の氷を割る音が結構な牽制になってたみたいだけど、諦めるには至らなかったかー」

「と、言うと……“雪衣の冷山にして白雪”の神、というか、この雪山に攻めかかってくるという?」

「そーそー。俺は指揮取るのに神殿前戻るけど、「第三候補」はどうする?」

「エルルに聞いてみます」

「何、お嬢。今度は何だって?」


 エルルとサーニャにも、雪だるまや氷ゴーレムが起き上がって移動していく音は聞こえていたようだ。警戒の為に戻って来てくれたのだろうが、その言い方は無いんじゃないの?

 という事でさっさと移動した「第四候補」を見送り、手短に説明と集団戦の見学をしたいことを伝えてみる。うーん、と、エルルはしばらく考え。


「……最前線で突撃されるより、司令部で大人しく見学してくれてる方が安全か……」

「ちょっと待てエルルリージェ、それってまさか姫さんは放っておいたら前線に突撃していくって事か!?」

「流石にその認識には遺憾の意を表します!」

「船で護衛してる時に嬉々として撃退に動こうとしたからな、俺が居るのに」


 それを言われてしまうとぐうの音も出ない訳だが。だって大規模海戦だったし。皆動いてる中で私も動きたくなってきてたし。お祭りの空気に参加したかったんだよ!

 まぁともかく、私自身が「第四候補」の指揮及び攻めかかってくるというアザラシ集団に興味があるのもあって、「第四候補」の後を追う形で山の上へと移動する。

 サーニャと「第四候補」が飲み会をしていたあの氷ブロックの建物がそのまま指揮拠点になっているらしく、その屋上に出る形となるようだ。


「あれ、どーした「第三候補」。何か用?」

「ここが一番見晴らしが良いと聞きまして。全体の流れ的な意味で」

「なるほど見学。オッケー!」


 振り返ってぐっ! と親指を立てた「第四候補」だが、正面に向き直るとちゃんと凛々しいんだよな。真面目にしてれば格好いいのにが此処にもいたか。

 さて、と「第四候補」が見ている先に視線を向ける。どうやら単なる雪に見えて、その実山の斜面には迷路が作られていたようだ。白一色である上に角度が計算してあるのか、この場所からしか全容は見えないようになっているらしい。

 そしてそこに、よくもまぁここまで厳重にと一周回って感心するほどの武装や兵器が用意されてあった。全部雪と氷で出来てるんだけど、投石器はもちろん氷の大砲に固く押し固めた雪の砲弾とか、ファンタジーならではだな。


「で、アザラシ軍団との事ですが……」

「……確かに、アザラシだな」

「アザラシだな! あれだけいればきっと街中で腹いっぱい食えるぞ!」

「街はもう引っ越したけどな」

「ぐはっ!」


 フリアドこの世界でもアザラシは食用らしい。まぁ竜族が特殊っていう可能性も無くはないけど、野生動物としての白熊が居たからその辺が捕食者なのだろう。見た目はどれも黒っぽい灰色に白い斑模様なのだが、何か長い牙の生えてる奴が居るから、アザラシだけじゃなくてセイウチとかも混ざってるかもしれない。

 しかしサーニャの感想も、分かる、と頷いてしまうほどに数が多い。ちょっとした津波だなこれ。そしてそれを、雪玉の砲弾や氷の投石で撃退する雪だるま達。氷ゴーレムは動きが遅いからかそれとも別の役割があるからか、最前線には姿が見えない。

 ……流石にこの距離だと【鑑定☆】は通らないか。モンスターなのか動物なのかぐらいは知りたかったんだけど。


「うわっ、もう第一通路突破された!? 数が多いと思ったらやっぱりか! 仕方ない、第三通路までを放棄! 氷入りの雪崩で埋めてやれ!」

「これ、いつもより数が多いんですか?」

「多いよ! 今までの最高記録はこれの6割ぐらい!」

「ざっくり1.5倍と。それは確かに多いですね」


 その6割でも十分多いと思うのだが、確かに数としては圧倒的に多いようだ。そして数が多いというのはすなわち力である。「第四候補」の判断も早いが、かなり危険な状態には違いないだろう。

 が。それとは別に、ちょっと疑問に思う事があった。主に2点ほど。


「サーニャ」

「どうした姫さん、アザラシ狩りか!?」

「いえ。先ほど真っ先に食肉としての言葉が出ていましたが、普通に狩りの対象だったのですか?」

「なんだー。うん、そうだぞ? 白熊も野生の鯨も美味いんだけど、アザラシも脂に癖こそあるけどなかなか美味い! 大体群れで動いてるから一度に数が獲れるのもいいな!」

「なるほど」


 なお、魔物種族と動物で姿が近いあるいは同じだからと言って、同族意識は無い。むしろ害獣として害して来る場合もあるぐらいだ。なので野生の鯨を狩るのは普通の事である。っていうか、渡鯨族の人達も普通に狩って食べるって言うし。野生の鯨を。

 で、アザラシは恐らくこの調子だと動物なのだろう。普通に狩って食べていたというなら、珍しい生き物と言う認識もない筈だ。つまり、普通にそれなり以上の数が生息している動物、という事になる。

 さて、これが前提条件だ。この上で、私が何を疑問に思ったかというと。


「では。何故そのアザラシが、ここまで『大規模な集団行動』をしているんでしょうか。確かに数を頼みにした突撃一辺倒であり、作戦らしい作戦は見えませんが、少なくとも足並みをそろえる程度は出来ているという事になります。――こう言っては何ですが、ただの野生動物が」

「!」

「確かにそりゃそうなんだけど調べてる余裕もなかったんだよなー!」

「次いで。アザラシがこれだけの数がいて、さして珍しい動物ではない。事実目の前のこれだけの数が居ますしね。で、あるならば」


 小首を傾げ、アザラシ(セイウチ含む)の群れを見下ろす。西の海からまだまだ次々と現れては突撃してくるその群れの、更に向こうに視線を向ける。もちろん、何が見える訳でもないのだが。


「この山に来るまで、あれだけの距離を移動していながら。かつ、沿岸部での活動もしていながら。――何故、私達は1体たりともアザラシと遭遇しなかったのでしょうか」


 なお、出典は例によって『本の虫』の情報まとめサイトだ。

 ……カクカクの雪だるまの形をしたこの大陸で、下の丸だけで言えば結構な数の召喚者プレイヤーが居る筈だ。しかしまとめサイトに載っていたこの大陸の生き物一覧の中に、アザラシは、「無かった」。

 さぁって、どういう事なのかなー?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る