第290話 14枚目:説得(時短)
エルルが話を聞いて貰えない状態ながら再度説明している間に、カバーさん達と相談。その結果、一番これが手っ取り早い、という話になった。
「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね?」
「お嬢?」
「はっ!? そうでした、うっかり! アレクサーニャ・ダスク・ヴァイスと言います!」
「アレクサーニャさん。端的に結論から言いますと、現在は私が護衛をエルル1人に任せて歩き回る必要がある程度には非常事態です」
「はっ! それは確かに!?」
「いやそりゃそうなんだが、だからお嬢?」
「その非常事態中にこうして巡り合ったのも何か意味があるかもしれません。なので一時的なものとは言え、しばらく行動を共にしてほしいのですが、構わないでしょうか?」
「勿論ですとも! 一時とはいえ皇女様付に成れるなんて大出世ですからねヤッター!」
「……あ、なるほど」
という事で、フルネームを聞いたうえで私が右手を出すと、白服黒髪碧眼右サイドテールさんことアレクサーニャさんは、感激に近い感じでその手を取ってくれた。
そしてそのままぶっ倒れた。
……うん。エルルと違って武器は身長ぐらいある槍なので、のたうち回るであってるな。
「あれか。あれだな。俺が不意打ちでやられたのと一緒。……あれ、きっついんだよなぁ」
なお、何が起こったのかを察したエルルはちょっと遠い目をしていた。後悔はしてないが、うん。不意打ちに関してはごめんね?
つまり、【絆】でテイムすることで現代知識を付与してしまえって事だ。まぁ私としても味方に引き込めるなら引き込んでおきたいし、エルルと似たパターンの爆弾が見えている以上は実家から引き剥がしてうちの子にしたいところだ。
……ヴァイスってね、「白」の事なんだよね。ははは。
「で、エルル。色々聞きたいのですが」
「いや。……その。お嬢も【成体】が見えて来たし、そうなると俺だけだと、ついて行ったら色々アウトな場所に行くこともあるだろうし……問題が山積みどころじゃないのは分かってたんだが、実力は確かだし、居ないよりはいいかな、と、だな……」
「…………。え、まさか彼ではなく彼女だったんですか?」
「そこか!?」
……本人はのたうち回っててそれどころではないのでセーフ。と、思いたい。そういう事にしておいてくれ。
だって身長はエルルと変わらないし、軍服のデザインも一緒だし、声も確かに男性にしては高めな感じがしたけどあのテンションだから違和感なかったし、顔も中性的だし、あとその、言っては悪いが服に無理をさせている感じも一切無くってだな。
そうか。女の人もとい竜だったのか。なら略称はアレクではなくサーニャの方がいいのかなこれ。とりあえず呼んでみて反応を見るか、それとも本人に聞くか?
「というか、俺だけって言うのは下手しなくてもお嬢が舐められる要因になるから、その点こいつの方がまだマシだし……」
「エルルと離れるぐらいなら竜族に合流しませんが?」
「……は?」
どうにも自分に対する評価が低いエルルで、同時代の竜族と会った事でそれが加速しているようだが、エルルを手放す選択肢は、エルル本人には悪いがあり得ない。
爆弾? だからどうした。舐められる? それがなんだ。
「私自身が血筋的には一切まともな繋がりを持たない野良皇女ですよ? まして私は召喚者で、世界を救ってしまえばお役御免となる可能性も高い。実質私を育ててくれたエルルを切るぐらいなら、竜族との縁を切ります」
「いや流石にそれはダメだろ」
「本気で言ってますよ? 地位は端から不要ですし、しがらみが無い事で身軽に動けるなら願ったり叶ったりですし。エルルがいる方が重要です」
「……っとに、この降って湧いた系お嬢は……」
額に手を当てて顔を伏せ、深々と息を吐いたエルル。うーん怒られるかな? と身構えていると、手が伸びてきて帽子が外されて……わっしゃわしゃと頭をなでくり回された。やったぜ。
とやっている間に、どうやらサーニャさん……うーん、エルルと同じくうちの子にするつもり、っていうか【絆】でテイムしたからうちの子でいいか。うちの子だな? よし。サーニャが現代知識を消化し終わったようだ。
あー、顔面蒼白。そしてふらりと立ち上がり、そのまま、ガシッとエルルの両肩を掴んだ。
「エルルリージェ、どういうことだ!? 何かいきなり色々詰め込まれたがこれは何だ!? 何が起こって世界はこんな状態になったんだ!?」
「知らん。っつか俺も知りたい」
「神々が姿を隠したってどうなってるんだ!? モンスターがどうしてここまで広がっている!? 南の大嵐とか東の流氷山脈とか何があった!? 渡鯨族が機能してないって一体どうしたらそうなるんだ!? この大陸にほとんど集落が残ってないのは何故だ!!??」
「いやだから知らんというか俺も知りたいって言ってるだろ!」
「痛い!!」
そのままエルルを前後に揺さぶろうとしながら怒涛の勢いでエルルを質問攻めにするサーニャ。それをなんとか多少揺れる程度に抑えながら一蹴したエルルだが、最後にはごっちんとサーニャを殴って止めていた。
うん。慣れが見えるね、主にエルルに。こういうやり取りは結構日常だったな。うーんこれは、納得してもらうまでまだ追加で説得が必要か。
……っていうか、今なんかさらっと新情報混ざってなかったか?
「東の流氷山脈とか何それ知らないなのですが」
「そうですね。東側の沿岸に辿り着いた
だよね。しかしカバーさんは相変わらず仕事が早いな。
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