第289話 14枚目:忘れもの
雪に埋もれた竜都を調べて神々関係の手掛かりが見つからないものかと思ったら、エルルと同時代の竜族が見つかった。うん。何でそうなったのかさっぱり分からないな?
あ、うん。居たよ。気のせいじゃ無かった。エルルが1人で鉄格子の向こうに行って、1時間ぐらいかかってた。封印を解くのってやっぱり時間かかるのかな。
で、戻ってきたらもう1人いるんだからびっくりだよね。もちろん同じ格好じゃない。服のデザインとしてはほぼ一緒だけど、色は地が白いし細かい所も違う。で、本人は身長がエルルと同じくらいで、たぶん肩の少し下ぐらいまである黒い髪を右サイドテールにしてて、目が青い。冬の高い高い空みたいなきれいな青色だ。
「いっやーしかしあのエルルリージェがそんな冗談言うなんてなー! この竜都が放棄されるなんてあり得る訳ないじゃんかあの喧嘩し通しの女神達を抑えてるのは誰だと思ってるんだよナイナイあったらどんな天変地異だっつうわぁぁああああああ本物の皇女様だぁああああああああ!!??」
……なお、これが私が聞いた、第一声だ。途中から聞きなれない声が聞こえるなとは思ったんだけど、ずっと1人で喋り続けてたらしい。エルル? ザ・苦虫を噛み潰したような顔で黙ってるよ。あんなにくっきりした眉間のしわは初めて見たな。
そして皇女様だ(以下略)と叫んだ勢いで、鉄格子の向こうにある階段を転がり落ちていった白服黒髪碧眼な右サイドテールさん。うーん。
「……えーと、エルル。知り合いですか?」
「…………腐れ縁、だな。何が一番近いかって言うと」
めちゃくちゃ渋面で絞り出すような言葉に、もう一度地下へ続く鉄格子の向こうを見る。ドタバタバタ、と音がしているから、多分すぐ起き上がって階段を上り直しているのだろう。
そしてその予想通り、ドバーン! という形で再登場。その青い目が真ん丸に見開かれて、即座にエルルの方へと顔が向いた。
「おいエルルリージェ聞いてないぞ竜皇様に新しい娘が生まれたなんて!?」
「だからお前はいい加減人の話を聞けって言ってるだろうが。全部説明したからな、さっき」
「あっはっは、懲罰房に居た奴にある事ない事吹き込んで騙すのはいつもの遊びだろ? もー騙されないからなっっだぁ!?」
エルルが殴った。頭を思いっきり、上から下へ。うわぁ、痛そう。そしていつものって言えるほどやらかしてるのか。うーわぁ。
私も思わず呆れた顔をしてしまうってもんだよ。エルルがこの短時間だけで取れなくなるんじゃないかってレベルで眉間のしわが深くなってるし。顔はどんどん無表情に近くなってるし。この、見れば分かる問題児感よ。
「……封印、解かなかった方が良かったですかね」
「え」
「えぇぇっ!? そそそそれはご勘弁を皇女様!!」
前にも言ったような気がするが、私は基本的に身内が優先である。そしてその中でも、個々人の人格や感情が優先だ。なので、エルルが疲れるのにエルルしか面倒が見れない相手は、正直、気づかなかったことにして放置も「有り」なのだ。
それを素直に呟くと、エルルは眉間のしわを解いてこちらを振り返り、白服黒髪碧眼右サイドテールさんはその場で土下座した。ははは、本当に竜族が分かる相手だと皇女って立場は強いなぁ。
とはいえ今の呟きは偽る事なき本音である。とりあえず、まず名前ぐらい教えてほしいんだけどそれ以前に、だ。
「だってエルル、説明はしたんですよね? 召喚者とかこの大陸の現状とか。それを一片も信じず頭から冗談だと否定した上に、竜族らしいのかも知れませんが、大陸の平和を守っているプライドより傲慢の方が勝っているように見えますし」
「いやだって流石に冗談でしょう大陸全部が雪で覆われてるとか!? 言葉を解する生き物の姿が見えなくなっているとか!? 神の姿が見えないとか!?」
「まだ私が喋ってるんですけど」
「申し訳ありませんでしたっっ!!!」
がばっ、と顔を上げて反論してくる右サイドテールさんだが、私が小首を傾げて釘をさすと、ガン! と床に額を打ち付けるようにして土下座の態勢に戻った。ここまでくるとやりにくいな。フィルツェーニクさんの時にも思ったけど。
「それに現在の世界情勢から言って、多様な種族が手を取り合い、協力し合う必要があります。その輪を乱す要因となるなら、はっきり言って邪魔です。それでなくてもややこしい現状が更にややこしくなるばかりです」
「……まぁ、否定は出来ないな……」
「否定してくれよエルルリージェ!? 幼馴染だろう!?」
「お前の考えが大体分かってるからこそ否定できないんだよ」
エルルがさじを投げかけている、というか、若干諦めモードだ。うーん、一般
……ま、それでも古代竜族、特級戦力には違いないから、味方に出来れば確かに色々助かる。それは分かるんだ。だからエルルも封印を解く方向で動いたんだろうし。
ぽこっと出て来た「幼馴染」というワードに、詳しい事は聞けるかなーと心の隅で思いつつ、寒さか封印と言う処置にか、小刻みに震えだした右サイドテールさんに声をかける。
「なので。出来れば柔軟な思考及び対応と、快い協力の姿勢と、不測の事態が起こり得るという覚悟を持っていただきたいのです」
「うっ」
「信じ難い事でも頭から嘘と決めつけるのは論外、他の種族を見下すなんて以ての外、想定外の事が起こった時に思考停止に陥ったり混乱して二次被害を出すのは最低なのです」
「ぐっ」
「分かっていただけますか?」
「ぐぅ……っ!」
……そこでダメージが入るからアウトなんだよなぁ。
というのは、黙っておいてあげた。
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