第288話 14枚目:お城探索

 幸いと言うべきか、大通りを見つけてそこを中心に除雪していって、竜都の中央に辿り着けたのはそんな話をした翌日だった。……辿り着けたというか、掘り出せたというか。

 中央にあったのは、予定調和的にお城だった。形というか雰囲気は……うーん、元々は砦だったお城ってあるじゃない。質実剛健寄りな、装飾より実利です、みたいな。あんな感じだ。

 いわゆる内壁ってやつに当たるのか、お城の周りを囲む壁もあった。けど特徴的なのは、その壁やお城には、ヘリポートのように広くて平らな屋上があるって事だろう。


「まぁ飛んでたら空から来る方が早いし、急ぎの時は大体飛んでるからな。外壁も、門の上は幅が広かっただろ? あれは飛んでくるのと飛んで行くのに使うんだ」


 ヘリポートならぬドラゴンポートだったらしい。まぁ確かに飛んだ方が早いのは今まで散々経験してきたとおりだし、竜族の街なんだからそれを前提にした作りにはなってるか。

 そしてお城及び内壁だが、施錠はされていなかった。というか、錠自体が外されていた。……なるほど。鍵と言うか錠前は貴重品枠なんだな。放置して研究されても困るだろうし。

 まだ竜都の大半は雪の下だ。しかしそれでも、多少なりと何か(私=野良皇女のフラグ的にも)あるとしたらこのお城だろうって事で、先にお城を調べる事になった。


「まぁ石造りベースのガランとした空間な訳ですが」

「そりゃ物は残って無いだろ。隠し通路とかも、埋めれるものは埋めてるだろうし」

「引っ越しですもんね」


 ……エルルが一緒でオートマップがあっても迷子になりそうなんだけど。何この複雑な通路の繋がりと似たような部屋の集まり。いやそりゃ砦としての機能を考えればこれでいいんだけどさ。ダンジョンかな?

 推奨レベルが恐ろしい事になるだろうな……と思いながらしばらくお城をうろうろする。うん、何もないな。流石にこれだけ空っぽならフラグなんて無かったか。


「……ん?」


 と、思ったのだが。

 大体構造は似たような物、って事で、ざっくり部屋の用途の解説や施設系の方向を推測していたエルルが、ふと小さく呟いた。現在位置? えーと、さっき元食堂って大きな部屋を通って、今は神殿がありそうな方向へ向かってるところだ。

 小さく首をかしげている辺り、敵対的なものではないらしい。まぁ一応お城の中だしね。けど、少なくとも無視は出来ない程度の何かはあるようだ。という事で、私もちょっと集中。


「……エルル。これ、なんかどっか、魔力が流れて行ってません?」

「だよ、なぁ? いやでも、防御や感知魔法の類も全部解除されてる筈なんだが……」


 「第一候補」関係でだいぶ慣れたのか、めちゃくちゃうっすらあるいは細い魔力の流れに気が付いた。エルルも最初は違和感だけだったのが、ちゃんと確認したようだ。その上で、分からない、と首を傾げている。

 竜族の忘れ物か、それとも神様関係か。大穴でモンスターの置き土産(と書いて罠と読む)か。とりあえず「何か」は見つかったので、カバーさんに現在位置座標付きのメールを送ってその魔力の流れを辿っていくことにする。うっすいからそこそこ集中が要るな。空地で蟻の行列を辿ってる感じだ。

 まぁ幸い建物の中自体は綺麗なので、辿りつつ移動する分には何も問題はない。そのまま、通路で合流したり分岐したりしている流れを追いかけて、お城の中を歩き回る。


「結構規模というか範囲が大きかったですね……」


 源っぽい場所に辿り着くまでに、たぶん半時間ぐらいかかったんじゃないかな。もちろんとっくにカバーさんも合流している。この魔力の流れを辿るの、感知系スキルの良い鍛錬になりそうなんだって。

 さてそれはともかく、いくつにも分かれていた魔力の流れが集合する場所を見つけた。……鉄格子がはまってる地下への通路だ。既に嫌な予感しかしないんだけどなー!?


「あー……お嬢。ちょっと待っててくれるか」

「と、言いますと?」

「……中、居る可能性がある」

「はい?」


 苦酸っぱい物をうっかり食べてしまったような顔で、頭が痛い、とばかり額を押さえてのエルルの言葉。あぁうんそういう場所なのね、とは思ったが、流石に「居る可能性がある」とはなんだそれ。

 だってここはとっくに放棄された竜族の街で、すっかり雪に埋まっていたことからも分かる通り、それこそ数百年単位で時間が経っている。下手したら千年オーバーだ。

 だから、生き物が居る訳が無い。普通に考えれば。だって閉じ込められてるんだぞ? もちろん看守とかも居なくなってる訳だし。それに生き物なら、うっかり忘れるなんてこともない筈だ。


「あるんだよ……。確かに、俺の時代から何年たったのか、まだ具体的には分かってない。分かってないけど、少なくとも俺の最後の記憶は、あの大規模なモンスターの群れから数年後ってとこだ。だから、もしそのタイミングで引っ越ししてんなら、時代的には合う。ここまではいいか?」

「まぁ確かにそれはそうでしょうが……飲まず食わずで、それこそどれ程時間が経ったかもわからないんですよ?」

「まぁ、そうなんだが。……その条件を、無視できる可能性があるんだよ、ここは」

「飲まず食わずに寒さも加えて、かつ忘れ物される可能性ですか?」

「忘れ物される。……いや、うん。間違っちゃいないけどもうちょっと言い方なかったか」


 ここで、話がそれた、とばかり軽く頭を振ったエルル。頭が痛い、と、嫌な予感がする、を混ぜっぱなしにしたような顔で、鉄格子の先に続く、闇に沈む階段へ視線を向けた。


「……懲罰房なんだよ、ここ。俺ら用だから、「身体を封じて精神にダメージを与える」方向の」


 ……。

 …………。


「…………なるほど。少なくとも身体的には封印状態、つまりエルルと似たような物だと。中に居れば」

「そういう事だ。で、魔力が流れ込んでて、けどこの程度の量って事は……罰を与える部分も止まって、完全封印状態になってる可能性が、ある。の、上に。滅多に使われないし、使われるような奴は不真面目なのがほとんどだから、点呼とかとっても、うっかり忘れられる可能性が、ゼロじゃない」

「一応魔法なのでは?」

「最悪な夢を見てるようなもんだから、うっかり身体の封印を破って暴れて壊されないように、壁に埋め込む形で作ってあるんだ。だから単に解除しただけだと再起動する。……もちろん、劣化防止とかも入ってるから、それが惰性で動いてるだけかも、知れないんだが」


 つまり、竜族の問題児が居る可能性は、そこそこあると。

 なんか…………斜め上に三回転半ひねりした感じのものが出て来たな?

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