第286話 14枚目:旧竜都発見

 北の人魚族の街から地上に出て、カバーさんを始めとした馴染みの『本の虫』の人達と一緒に、快適快速エルル急行で更に北へ移動だ。もちろん寒さは大変な事になっているが、流石に全員綿雪鳥の羽毛やこちらのモンスターから取れる毛皮を使った装備に変えているので、今のところ問題は無いようだ。

 え、私はどうしたかって? ははは、ちゃんと着替えてるに決まってるじゃないか。作ったのはアラーネアさん。……蜘蛛って寒い所ダメだった筈なんだけど、頑張ってこっちに来たらしい。

 ズボンとセットのワンピース風ロングコートに、あの、あれ。もふもふのたれ付き帽子。えーと……そう、ウシャンカ! あれを上からドン。もちろんロングブーツと長手袋も完備だ。色? 白地に銀糸の刺繍で、ボタンや細工も銀色だよ。刺繍の模様は軍服にうっすら入っているのと一緒。


「つまり効果的には一緒なんですよね。というか、+の表記が増えてより強力になっているとか。アラーネアさんの上達具合が凄まじいです」

『そりゃあれだけ大挙してやってきた召喚者達に防寒具を作りまくれば、腕は上がるだろ』


 髪は外に出しているが、ヴェール付きのリボンと言う形のアクセサリで1つにまとめて覆っているので、髪が凍り付いたり雪だらけになったりはしない。もちろんこれも装備で効果付きだ。

 全体的にもこもこして丸っこいので、子供服感が強調される結果となっている。まぁモデルにとスクショを取られたのは別にいいんだけど、これはもしかして軍服で格好いい方向に振った事の反動か? やけに可愛いな(自画自賛)。

 裏地のもふもふを堪能している間に、エルルは地形を頼りに上下の丸がくっついている、この大陸で一番細い地形となっている場所へ辿り着いていた。しかしまぁ、相変わらず真っ白で何の変化も見えないんだよなぁ。


『お嬢、ある程度魔法で吹っ飛ばせるか?』

「え、魔法使っていいんですか? たぶん規模だけならいけますけど」

『それなりに丈夫には出来てる筈だし、上の雪だけならたぶんお嬢ぐらいの規模で丁度いい、と思う』


 との事なので、背負い籠から身を乗り出すようにして手を伸ばす。【風古代魔法】から風のハンマーの形を取る大規模魔法を選んで詠唱。流石に【竜魔法】を乗せるのは習熟不足なので、素直にそのまま撃ち下ろした。

 ドン!! と凄まじい音を立てて、きのこ雲のように雪が舞い上がる。地上にいれば大変な事になっているだろうが、流石に上空にいる上、エルルがホバリングする為の羽ばたきで風が生まれているので、ここまでは届かなかったようだ。

 しばらく待つと、一気に舞い上がった雪は塊のまま風に流されていった。流石に押し固められた雪の部分は近くに落ちたかもしれないが、それでも大分雪の厚みは減っただろう。


「あ、なんかありますね」

「おや、本当ですか?」

『多分防壁だな。……完全に埋まってるし、地下に居たとしても何か反応はある筈だ。無人だろうから壁の内側に降りるぞ』

「そういう意味でも魔法で吹っ飛ばしたんですか?」

『まぁな。これが一番手っ取り早い。……お嬢なら多少無茶しても許されるってのもあるけど』


 ……竜族にとっての皇族って強いなぁ。私の場合、それに加えて子供だからっていうのもありそうだけど。

 というのはさておき、雪の中から顔を出したストーンサークルのような物(多分街を囲む防壁の頭)の内側へ、南側から近寄って着地したエルル。『本の虫』の人達はささっと降りると2手に分かれ、防壁の調査と雪かきを開始した。

 もちろん私と、全員を降ろして【人化】したエルルも参加する。手際が良いから作業が早い早い。防壁を壁として段の付いたすり鉢状に掘り進め、雪を運んでは防壁の外へと捨てていく。


「おや、意外と門は綺麗ですね」

「……いや、たぶん、そうでもない」

「と、言いますと?」

「閂が歪んでる。何か大きな衝撃を受けたのを、無理やり力で押し戻したんだ」


 雪かき開始から1時間もすれば、高さにして10mはありそうな防壁の半分以上が見えてきていた。……あ、ほんとだ。滅茶苦茶重そうな、金属で補強された木造の大きな扉に通された閂が、一回曲げて伸ばし直した針金みたいになってる。

 ……しかしこの門を無理に突破する相手に力で勝つとか、竜族だなぁ。だって閂だけでもちょっとした家の大黒柱ぐらいあるのに。どうせこれもただの鋼じゃ無いだろうし。


「なるほど。門の外側の調査も必要ですね。……ところでエルルさん。この門、開けられますか?」

「…………流石にちょっと厳しいな。こういう門は最低でも5人、多ければ20人単位でなきゃ開閉できないようになってるから……この門だと、竜族で10人は要ると思う」

「では開閉については諦め、外側の調査は別動隊に任せましょう。幸い雪が積もっていますから、これを一部残して階段にすれば出入り自体は可能になりますし」


 カバーさん、相変わらず判断が早い。

 ……まぁ竜族(大人)で10人って事は、一般人間種族召喚者プレイヤーだと下手すれば数百人単位で必要って事だもんな。そんなサイズと重さの門なら、普通はこう、機構的な仕掛けで開け閉めできるようになってるんだけど、うん。竜族だから、手動での開閉だと思う。

 種族特性がステータスの暴力って、改めて思うけどぶっ飛んでるよなぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る