第274話 13枚目:北の人魚族

 途中でエルルがカバーさんを連れて戻って来てくれたことで、どうにか防壁だけはそこそこの高さまで積み上げる事が出来た。水を掛ければ固まるんだからある意味楽なもんだ。

 逆に言えば防壁内部、街並みについては一切ノータッチなんだけどな。まぁそこは順次到着次第一般召喚者プレイヤーに頑張ってもらうしかないだろう。手数が無いとどうにもならないし。

 そして一応レースという形を取っている事と、私達が先行して到着しているのは一般召喚者プレイヤーには秘密という事で、レースの上位者がすぐ近くまで来ている現在、さっさか移動しないといけない訳だ。


「とりあえず、ネレイちゃんを送り届けるのを兼ねて北の人魚族の所に向かってもいいでしょうか?」

「もちろん、歓迎いたします」


 という事で、今度はパストダウンさんを残して快適快速エルル急行で雪と氷で覆われた大陸を移動。うーん、上空からだと相変わらず何も見えないんだよなぁ。

 しかしオープさんは地形の何かを見分ける事が出来たらしく、しばらくすると一見何も変わらない白い大地へ降りるように指示があった。海岸沿いではあるけど、うん、全く他との違いが分からないぞ?

 分厚い海中の氷も、その高さまで積み上がってる雪も同じなんだよなぁ……と思いながら地上に降りたオープさんの様子を見ていると、しばらく歩いて離れた後、周囲を見回して場所を確認する様な仕草をして――歌い出した。


「民謡的なこれはこれで良い歌声ですね」

『【歌唱魔法】系列のー、合図か何かでしょうかー』


 まだ【環境耐性】が上がり切っていなかったらしく(というか、北に進んで環境が厳しくなったようで)、フライリーさんと一緒に私の服の中へ避難しているルチルがひょこっと顔を出した。あー、なるほど。

 そしてその予想は間違っていなかったらしく、しばらくすると、どこからか応じるような歌声が響いてきた。2つの旋律が綺麗に重なる事数分。恐らく曲が終わった所で、ぼこっ、という感じで、雪の一部が盛り上がった。

 直径にして、約2mと言ったところだろうか。上層のパウダースノーをさらさらと周囲に落としながら持ち上がって来たその雪の塊は、どうやら下に通路の蓋がある場所だったらしい。たっぷり5mはありそうな雪のブロックを押し上げて、数名の大人が顔をのぞかせたのだ。


「おぉ、オープ! よく戻った!」

「遅くなりましたが、流氷の巫女様が護衛を命じられたオープ、ただいま戻りました」


 全体的な空気と言うか色合いが似ているから、多分彼らが北の人魚族なのだろう。……それでも、赤い目はネレイちゃんだけだけど。最初の大陸の人魚族より、全体的に髪の色は濃く、肌の色は薄いようだ。

 そして今さらっと「流氷の巫女」って言葉が出て来たな。やっぱり巫女だったのかネレイちゃん。いや、大体察してたけどさ。

 エルルもとっくに【人化】して話の流れを見ている間に、オープさんは私達について説明してくれたらしい。うーん、あっちの人達の反応が大きいなー。……まぁ御使族と竜族のネームバリュー考えたら妥当か。その上、召喚者って爆弾もあるんだし。


「――という訳で、客人として迎え入れて頂きたい。どうだろうか?」

「う、うむ、それはもちろん無碍にする訳にもいかん。ましてあの大嵐を解決した立役者ともなれば、なぁ!」


 いやに強調された語尾は、どうやら通路の下で待っているらしい他の人魚族の人達に伝えて、同意を求める物だったらしい。耳を澄ませると、ざわざわした声が小さく聞こえてきていた。

 あー、交流がほとんど無いって言ってたもんな。てことは、種族単位での引き籠りか。そこに突然の、しかも隣の大陸からの来客。そりゃテンパりもするってもんだ。

 ……それでなくても最初の大陸と違って、モンスターの跋扈が酷いって言うのに。それで種族間の交流が寸断された、というのもあるだろう。実はこっちの大陸に来てから、まだモンスターは1匹も見かけてないんだけど。環境のせいかな?

 とか思っている間にオープさんが戻って来た。


「長の確認も取れました。皆様を歓迎いたします。ようこそ、北の人魚族の街へ!」


 あ、あのテンパってた人が長なんだ。長直々の出迎えとか、ネレイちゃん重要人物だなぁ。しかしとりあえず歓迎してくれるっていうんならお呼ばれさせてもらおう。私もそろそろ寒くなって来た。だって【環境耐性】のレベルがじわじわ上がってるからね。

 ……まぁ、一点、気になると言えば……せっかく帰って来たっていうのに、あんまりネレイちゃんの元気がない、って事だろうか。

 なんかその辺も事情あるのかな。お魚にはしゃいでた時の明るさが欠片も見えないんだけど。……巫女らしくちゃんとしなきゃ、って気を張ってる、ぐらいなら、まだいいんだけどな。

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