第275話 13枚目:イベントのお知らせ
北の人魚族の街は、どうやら元々は山の斜面だった場所に、氷のブロックで天井とそれを支える柱を作り、ほとんど暗い色の岩の塊である山を削りだしてその岩で住居を作る、という、半地下な作りをしていた。
あの雪を持ち上げて現れた通路は街の一番高い所にある小屋へ繋がっており、地上へ出るにはここが唯一の出入り口なのだそうだ。ちなみに海へ出るのは逆に、街の最も低い場所にあるトンネルから、海中の氷へ開けた穴を通っていくらしい。
そのトンネルの維持は大変だろうなと思うんだが、それはもう慣習であり仕事であり、生活の一部であるからいいらしい。雪下ろしみたいなもんか。そしてネレイちゃんの言っていた通り、雪の下に入ると、そこは意外なほどに温かかった。
「へぇ、あの燃やしてた石とはまたちょっと違うのか」
「あぁ、
黒っぽい火山岩がメインに使われているようで、耐火性も耐久性も十分そうだ。フライリーさんは私の頭の上だが、ルチルは【人化】して、興味深そうにきょろきょろと周囲を見回していた。
半地下と言ってもかなりの広さがあり、天井を支える氷の柱やその半分ぐらいの岩の柱に、蔦が巻き付いて光る花が鈴なりに咲いている形の灯りがある為、息苦しさや狭苦しさはあまり感じない。主に灯りの近くに畑や実の付きそうな鉢植えがあるところを見ると、換気と言うか、空気の浄化についてもしっかり考えられているようだ。
灯りになっている花について聞いてみると、あれはこの大陸の固有種で「陽光花」というらしい。その名の通り太陽の運行に合わせて光の強さを変えていくのだそうで、昼と夜とを間違えることは無いのだそうだ。
「ふむ……数点気になる点はありますが、そうですね。確かにこの街の作りで、大勢の召喚者を受け入れるのは無理があるでしょう。港町を再建したのは正解でしたね」
「我らもあまり数が増える種族ではありませんからな。かと言って、客人用の準備があるかと言うとそうでもなく。出来るだけ掃除と整備は致しますが、滞在していただけるのは空き倉庫の1つとなります」
「いえいえ、十分ですよ。建物の作りからして、居住環境としては十分なのは分かりますから」
という事で案内されたのは、山をだいぶ下った先だった。元々の山の形を推測して、その麓の、平面に移るあたりだろう。漁に出る場所はもう少し下らしく、普段の生活の動線からは少し外れた建物だ。
そのまま案内役をしてくれているオープさんは申し訳なさそうにしているが、うん、言っては何だが、急に押し掛けたのはこっちだしなぁ。
部屋の中にも「陽光花」の鉢植えがあり、大黒柱に相当する柱に巻き付いて明るく光っていた。それとは別に、壁にはランプを掛けられそうな場所がある。朝方や夕暮れで、灯りが足りない時は別で点ければいいって事なんだろう。
「それでは、ごゆっくりどうぞ。何か用がある場合は、もう少し下った海神様の神殿へお越しください」
「分かりました。何から何までありがとうございます」
一通り街にあるお店の位置なんかを説明してもらったところで、オープさんは去っていった。ネレイちゃんとは通路を通った時点で別れてるんだよね。大丈夫かな。
倉庫と言ってもだだっ広いだけではなく、それなりに部屋数があって2階もあった。個室としても使えるし、当面の拠点として使うには十分だろう。今後も、数パーティ単位が交代で順番にやってくるなら対応できそうだ。
で。こうしている現在、8月の終わりが見えている訳でね?
「いろいろ忙しくて確認していませんでしたが、そろそろ確認しておきましょうか」
「……。あぁ、次の啓示が来てたのか」
そう。9月頭のイベントのお知らせだ。
レースを含めた8月イベントの結果はまだ確定していないが、それは末日まで集計を続ける都合上仕方ない。しかし新しい大陸という新フィールドが登場して、しかも開拓から始めなければならない大変さだっていうのに、どんなイベントをするんだろうね?
と思いつつ、イベントページを確認だ。ルチルとフライリーさんもついてきた。……フライリーさん、私の画面を覗き込むんじゃなくて自分のメニューを開けばいいんじゃないのかい?
「ここからだと先輩の画面を見る方が早いっす」
『じゃあ僕も上から見ますねー』
ルチルまで【人化】を解いて私の帽子の上へ乗って来た。いや、いいんだけどさ。その光景を見ているカバーさんがいつも以上ににっこにこしてるだけだし。
さてカバーさんと「第一候補」はすでに確認しているだろうイベントの内容は、というと……あぁなるほど、こうくる訳か。
9月イベントを一言で言うと、探索イベントだ。というといつかの「たからばこ」騒動を思い出すが、そうではない。どちらかというと夏休みの課題で図鑑を調べて、その生き物を探す的なイメージが近いだろう。まぁ、とりあえずバックストーリーを確認だ。
あの大嵐による海路の寸断を見事解決し、新たな大地に辿り着いた召喚者達。その活躍についての褒章や順位についてはさておき、神々はまずその快挙を寿ぎ、断絶されていた繋がりが1つ復活したことを喜んだ。
しかし、そうして明らかになった新たな大地は、神々をもってしても想定外の状況となっていた。繋がりが断絶している間に何が起こったのか、神々の記憶とはかけ離れた姿へと変わっていたのだ。
一体この新たな大地に何があったのか、或いは、何が起こっているのか。まずそれを調べない事にはどう動くかは決められない。よって神々は流石に意見を合わせ、召喚者達へと託宣を下すのだった。
どうやら今回は平和に話し合いが出来たらしい。しかし、神々が喧嘩をいったん横に置くほどこの大陸の状態は大変なようだ。うーん、とびっきりの厄介事がある気配がするなぁ。……いつものことだけど。流石に慣れてきた。
さてそんな訳で、イベント期間はいつもの2週間。その間はヒントとなる生き物や痕跡が出現しやすくなり、それを捕まえたり調べたりしてポイントを稼ぐ形になるようだ。なおポイントを稼ぐと、信仰している神様から一定ポイントごとにご褒美が貰えるとの事。
他の神様にポイントを分けたりすることは出来ず、最終的なポイントの総計で競争するというのは変わらないらしい。喧嘩は無しにしたんじゃなかったのか。
「へー、調査っすかー。……『本の虫』の人達無双が目に見えるっすよ?」
「ははは。競争はさておくとしても、どっちみち問題に対処する為には情報を集めなければいけませんからね」
それでいくと、渡鯨族の港町跡を発見したのはフライングになるんだろうか。……魔法の練習がてら、片っ端から雪を掘り返していくのはダメかな。
ダメか。うっかり北の人魚族みたいな集落があったら大迷惑だもんな。
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