第273話 13枚目:港町再建中

 そのまま無事、海中の氷を切り離すことには成功した。切り離した瞬間に沿岸を高波が襲ったようだが、それも一度をしのげばやや高めの波で落ち着いたらしい。

 切り離した氷はと言うと、波に乗って海の向こうへと流れていった。魚がたっぷり入っている為、クラーケン一族のご飯になるのかもしれない。

 断面が見えるようになった海中の氷からは、そこを登って来た波が零れ落ちて滝のようになっている。これも流れ落ちながら少しずつ凍っているので、放っておくとまた氷の塊が復活するだろう。


「えー、それでは街の跡が見つかりましたので、そこの除雪及び氷のブロックによる防壁の建設に取り掛かりたいと思います」


 まぁその前に、本来の目的を果たすべきだな。

 どうやら開拓を始めた場所よりやや西に街の跡が見つかったようだ。具体的には石畳が見つかった。だから、まずは元の街の大きさをはっきりさせる事から始めよう、という事になった。

 私は引き続きその辺りの氷を溶かして割って海岸から引き剥がす作業を続け、ルチル、フライリーさん、ネレイちゃんがパウダースノーの吹き飛ばしを、後の全員で氷のブロックの切り出し(=街跡の発掘)を担当するらしい。


「なるほど、綿雪鳥が集まる筈ですよ。ここには他の場所と比べて、栄養のある土が多く残っていたようですから」


 と言う事らしい。まぁディックさんが「緑地」って言ってたもんな。他に比べれば食べるものが多いのは、まぁ、イメージだけでもそうだ。雪の中でどうやって何を見つけて食べていたのかは知らないけど。

 一部でも氷の塊が無くなったからか、雪をどけても上から海水が降ってくることは無いようだ。つまり、波がまっすぐ陸地へではなく、氷の切れ目となった場所に向かってるって事だな。

 だがしかし氷に触れれば張り付いて動けなくなるのは分かり切っている。なので【飛行】で若干浮き上がった状態は継続して、雪がどけられる進捗状況を確認しつつ、細長い形に圧縮した高熱の領域で、海中の氷を焼き切りにかかる。


「急がないと、あっという間にまた氷で塞がってしまいそうですね……」


 気温自体がものすごく低い現状、氷があればそのまま水分は凍っていく。それでなくても地面自体がカチコチに凍っていて、波打ち際では既に新しい氷の塊が出来つつあるのだ。

 陽の光が弱いって事は(今の所)無いので、とりあえず一回手を入れてしまえばしばらくは持つ……と、思いたい。少なくとも、一般召喚者プレイヤーでも出来る手入れの範囲に落とし込まないと、その後が続かないだろう。

 とか思いつつ、新しい氷の塊を切り出すことに成功。よーしそのまま外洋まで行ってしまえー。




 で。結局推定こちらの大陸にあった渡鯨族の街、その痕跡が完全にあらわになるまで、リアル3日かかった。いやまぁ、この少人数だとよくやった方だと思うよ? 途中から私も雪のブロックを切り出す方に参加したし。

 なお、既にレースは開始している。まぁ海に慣れた渡鯨族の人達で少なくとも数日かかる距離だからね。そもそも体が大きい=移動速度も相当に早いって事なのだ。ログイン時間を調節して交代で船を動かし続けたとしても、内部時間で10日ほど、つまりリアル2日半ぐらいはかかるだろう。

 さてあらわになった元渡鯨族の街だが、畑や防風林があったとの事で、やっぱり相当に大きい。今もせっせと雪のブロックを氷のブロックに変えて積み上げてはいるが、正直、レースの1位到着者が現れるまでに間に合うかどうかは微妙なところだ。


「というか、途中座礁者が多くないっすか?」

「まぁ、その場合はクラーケン一族の方々に回収して頂ける筈ですので」


 ……まぁそのレース自体が相当に難易度が高いようだが。え? 座礁理由に巨大な流氷を回避し損ねたっていうのがあるって? とっても透明で見え辛いから回避が難しい? へー、自然って怖いなぁ(棒読み)。

 しかし、こちらの大陸にいた筈の渡鯨族の人達は、一体どこに行ったんだろうか。街が防壁まで含めてほとんど更地と化しているっていうのが不吉で仕方ないんだけど。

 元々の基礎がしっかり作られていたから、今もこうやって迷いなく氷のブロックを積み上げられる。しかしそれはつまり、そこまでしっかり作られていた建物と防壁が、跡形残らず壊されたか吹っ飛ばされた「何か」が起きてたって事だ。


「やっぱり、こちらの渡鯨族の方々を探したいですよねぇ」

「我らに、心当たりがあれば良かったのですが……。この街がこのようになってしまっていた事も、今初めて知った次第でして。申し訳ない」

「いえいえ、お気になさらず」


 ちなみに改めて聞いたところ、ネレイちゃんとオープさんこと北の人魚族は、カクカクな雪だるまの形をしているこの大陸の、下の丸を西向きに辿っていき、くびれが見える辺りに街があるのだそうだ。結構遠いので、渡鯨族と交流が少なかったのも、街の様子を知らなかったのも、まぁ仕方ないだろう。

 そして今更ながら何でわざわざ危険を冒してあちらの大陸に渡ったかと言うと、あの大嵐が解決する兆しがある、と、神様から啓示があったそうなのだ。そしてその真偽を確認する為に、ネレイちゃんとオープさんが選ばれたらしい。

 ……そしてその途中で、あのゲテモノピエロに捕まってしまった、という事のようだ。


「あの嵐は、離れていても良く見えました。同時に、流氷の流れや魚の動きにも影響があったもので、我らとしても苦しい時代だったのです」

「ほんとはた迷惑な大喧嘩でしたね、全く。大体クレナイイトサンゴが悪いとはいえ」


 まぁ、もちろん、その報告にも早く行った方がいいのだろう。ネレイちゃんがそろそろホームシックとかになってもおかしくないだろうし。それでも手伝ってくれているのは、うん。前に聞いた通りだな。

 しかしこれ、ほんとに防壁だけでも再建間に合うかな。圧倒的にマンパワーが足りないぞ?

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