第266話 13枚目:次の大陸へ

 そこからリアル1週間をかけて、召喚者プレイヤーがほぼ総出でかかっただけあり、港町はおおよその形を取り戻していた。いやぁ、さすが神の加護もスキルも魔法も種族特性もある世界。どれか1個でも現実で使えればいいのに。

 渡鯨族の人達から意見を吸い上げて復興・再建計画を組み、問題が起これば即座に対処し、その指揮を執り続けた『本の虫』の人達はすげーとしか言えない。これが……組織力……!

 とか思いながら石畳の補修に使う大きな石を運んでいく。私はそのインベントリの容量もあり、主に資材を運ぶ係だった。手で持って運んでいるのはインベントリが一杯になった訳ではなく、周りに「何を運んでいるか」を知らせる為のものだ。「運搬中」の看板代わりとも言う。何故なら私は人気者だからね。重機的な意味で。


『「第三候補」、今大丈夫であるか』

『おや「第一候補」、移動中なので大丈夫ですよ』


 避難所で私の服を引っ張っていた子が、楽しそうに笑いながら親に手を引かれて通りを歩いていくのを視界の端で見送って歩いていると、「第一候補」からウィスパーが入った。

 なお、「第一候補」は向こうの大陸へ、神様を介した連絡を入れたり、ネレイちゃんから話を聞いたりと別の仕事をしていたようだ。労働適性は無いに等しいぬいぐるみだけども、やる事が無い訳じゃない。

 で、そんな中で連絡となると、まぁやっぱり向こうの大陸関係だろう。大陸の住民なのか大陸そのものなのか、あるいはそこまでの航路や航路関係なのかは分からないが。


『うむ。渡鯨族の調査船へちょっかいが掛かって来た事を受け、『本の虫』の方ではレースの開始を早める方向で調整が行われているというのが一点、『本の虫』及びトップクランの本当にトップのみとの話し合いで、程度はあれながら総意が得られたというのが一点だ』

『え。あの件通ったんですか?』

『相手の性質があまりに悪いが故、であるな。あれらに持っていかれるよりかはまだマシ、との事だ』


 ウィスパーなのでこの会話が外に漏れることは無い。私も随分慣れたもので、ウィスパーをしながらでも何ら変わりなく歩き続けるぐらいの事は出来るようになっていた。だから、挙動不審にもなっていない筈だ。

 はーなるほど、と、納得する。つまり、共通敵がいるから上手くいったという事のようだ。……何の事かと言うと、私の誘拐に始まった“破滅の神々”の儀式関係のあれこれを解決する時に、「第一候補」が振って来た「企み事」の事だ。

 本音を言わせてもらうのなら、うん。正直、通るとは思っていなかった。


『それに、こうも言っていたぞ? 勝っていられるのは、俺達が遊んでいた最初の数か月分のリードがある間だけの話だ。死ぬ気で追いついて、正面から食い負かしてやる、とな』

『ははは、威勢の良い啖呵ですね。もし伝えられるなら、やれるもんならやってみろ、とお返しください』

『くはは! 前から思っていたが、「第三候補」も大概負け嫌いであるな!』

『まぁ元々煽られると負かしたくなる性格ですし、何より可愛さと能力を兼ね備えた飛び切りの身体を頂いてしまいましたからねぇ。中身はともかく、この身体に黒星なんかつけてやるものですか』

『くっははは! 伝えておこう!』


 ある意味のゴーサインを受け取ったところで、ウィスパーが終わる。さーて、まずエルルに声かけて準備しなきゃなー。




 で、その日の夜のログイン。


『すごいな。動きに違和感ない。確かにこれならいけそうだ』


 バサァッ、と翼で空気を打ち、港に戻って来たエルルはそんな感想を口にした。それを受けて少し離れた所でハイタッチしているのは、アラーネアさんと『本の虫』の生産部門の人達だろう。

 現在エルルは、首の根元辺りから翼にかけて、黒い鎧の上から小型のリュックのような物を着けていた。小型と言ってもドラゴン姿のエルルと比較しての話なので、そこそこの積載量がある。

 フリアド内時間は夜明け前なので大変暗いが、皆それぞれの方法で視界を確保しているらしく、灯りは抑えられていても視界に問題は無さそうだ。


「なら、メンバーは打合せ通りでいいんですね?」

『うむ。問題無かろう』

「そうですね。よろしくお願いします、エルルさん」

「本来は儂らが運ぶ側なんだが、運ばれる側になるとはなぁ。まぁ今回は色々特殊だ。よろしく頼む、軍人殿」

「ほ、ほほほほほんとにいいんすか!? こんな大事な場面に新米の自分が居て大丈夫っすか!?」

「えー、フライリーさんは一緒に来ないんですかー?」

「ふーちゃ、来ないの……?」

「あぁぁあああ!! 行きます! 行きますよ!? だから泣かないで!?」

『ほんとに賑やかだな。まぁ変に緊張してるよりはいいだろうけど』


 わいわいしながらそのリュック風に作られた、背中に乗せるタイプの籠に乗り込むのは、まず向こうの大陸に居る渡鯨族との橋渡しとしてディックさん、そして、詳しく話を聞いてみると向こうの大陸から特殊な方法で嵐を抜けていていたらしいネレイちゃんとオープさん、神様との話関係で「第一候補」とカーリャさんが確定。

 人間種族召喚者プレイヤー代表としてカバーさんとパストダウンさん。魔物種族召喚者プレイヤー代表は「第一候補」が兼任してサブで私。嵐の中で頑張っているのを手伝っていたら仲良くなっていたという事で、友人招待(と書いて「一般的な反応の確認」と読む)枠としてフライリーさんとルチル。以上の少数精鋭だ。

 うん。だいたいここまでで、今から私達が何をするのか、ひいては「第一候補」の企み事とは何なのかは察しがついたと思う。


「一応海上の警戒は続けていますが、不審な船舶の影は消えないようです」

「渡鯨族の方々だけでなく、クラーケンの一族とも連携を取っていますので、海において裏をかくのは相当に難しいでしょうけど」

『というか、無理であるな。自らの顕現した場所において“破滅の神々”の儀式が行われたとあって、水の神直々に警戒を促す言葉があったと聞いている』

「控えめに言って無理ゲーというやつですね。海からでは」


 ま、つまり。

 「正々堂々」出来る限りの手段を使って、少なくとも“破滅の神々”の信者より先に……具体的には、「空から」次の大陸に向かってしまえ、という事だ。


「さーて全員乗り込みましたし、安全ベルトも良し! エルル、お願いします!」

『了解!』


 そう。

 快適快速エルル急行でね!

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