第265話 13枚目:騒動決着

 気付けというのが何かは分からないが、虫下しの効果が確かなのは分かっていた事だ。私達が街の中を巡り切る頃には、綺麗な晴天が空一杯に広がっていた。

 そして港に戻ってみれば、少し沖合に、ぷかぁ、と浮かぶ巨大な姿があるのも見えた。うん。その、脱力して浮いてるから、何て表現するかってなると、ぷかぁ、が一番ぴったりなんだよね。

 まぁそれは当然、虫下し及び気付けを(文字通り)叩き込まれたデビルフィッシュ(異世界タコ)とクラーケン(異世界イカ)の長達な訳で。


「で、どういう状況ですか?」

「気付けが効きすぎたらしいですよ」


 ……気付けって本当に何なんだろう。聞きたいような聞きたくないような。

 しかしまぁ、うん。大嵐の件はこれでひとまず解決……いや、沖合でまだ戦争をしている奴らがいるから、そっちからも完全にクレナイイトサンゴを排除しないと解決とは言えないか。

 でも、ここまでの事を考えると消化試合と言っていいだろう。ようやく一息つける。


「渡鯨族の方々が海洋調査を行ってくださるそうなので、我々はその間、街の復興に注力する予定です。沖合の捕獲戦はまだ続いていますが、そちらは貢献度を稼ぎたい希望者にお任せです」

「なるほど。それなら私は、復興組ですね。流石に一度ちょっと休みますけど」

「あ、そうか。そろそろそれぐらいの時間か」


 とりあえずは、ログイン制限が近づいてるからログアウトだ。まぁもう私(特級戦力)がいなきゃどうにもならないって場面は過ぎただろうし、エルルも居るし、多分大丈夫だろう。




 で。


『やれやれ。これでようやく一区切りであるな』

「ですね。実際の日数としてはそうでもない筈なのに、内容が濃いことこの上ないです」

『全く同意である』


 午後のログインからは私も貢献度稼ぎに参加して、結局狩り、じゃない、捕まえ尽くせたのが夜のログイン時間を半分ぐらい使った後のことだ。ほんと何万匹いた事やら。

 どうやらその間に渡鯨族の人達及びエイ族を間に挟み、長同士の話し合い的なものは終わったらしい。色々細かい部分はあるけど、最終的にとりあえずクレナイイトサンゴが全部悪いって結論になったようだ。

 まぁ流石に少なくない被害が出ているし、どうやら長含めた上位数体は【人化】も(レベルは低いが)出来るようなので、当面は街の復興に可能な限りの助力をする事で賠償に代える、という事になったらしい。


「……まぁお嬢の提案も、ある意味丁度いいっちゃ丁度良かったのかも知れないが……」

「だって美味しかったんですよ。ほんとに。あれは皆食べるべきです」

『食事が不要なこの身を恨む日が来るとは思わなんだ。我も成長を急ぐか……』


 え、私が何をしたかって? あぁ、罰を決める時に、「両方の長の「腕」を同じ本数だけ斬り落とす」っていうのを提案してみた。クラーケン(異世界イカ)の方が全部の本数が多いから、比率で行くとデビルフィッシュ(異世界タコ)の方が罰として重くなる。

 静養してればまた生えてくるし、全部を落とす訳じゃないしって事で採用されたんだよね。理由? 美味しかったから。根元から切り落とせば皆食べれるよね、あのサイズだし。

 という訳で現在、街は復興の景気づけと事態解決のお祝いでお祭り状態だ。その主役は切り落とされた特大のタコ足とイカ足である。解体されて小分けされてあちこちで料理になってるよ。


「身が締まっていながら柔らかくたいへんジューシー。あー美味しい」

『うぬ……』


 まだ【人化】が出来ない=食べられない「第一候補」には悪いが、美味しいから仕方ないな!

 なお今後の予定としては、デビルフィッシュ(異世界タコ)一族は【人化】が出来る数体を除いて南の海へ帰還を開始、クラーケン(異世界イカ)一族は同じく【人化】が出来る数体を除いて海洋調査の手伝い、渡鯨族の約半数は航路を含む海洋調査に回り、後は全員一致団結で港町の復興を行う、という事になっている。

 まぁスキルとかあるから、リアルの被災現場に比べれば手早く済むだろう。『本の虫』の人達には、以前の5月イベントで街を修復・再建していく作業のコツと順序みたいなものがあるだろうし。


「木造建築ですから、最悪でも木を育てるとこから手伝えばいいですしね。街の中を巡っている間に、使えそうな残骸は既に纏めていましたし」

「まぁ石造りの建物に被害が無かったのは幸いだよな。当面の寝泊まりはそこですればいいんだし」

『我ら召喚者は、自分用のテントを持ち歩いておるのが普通であるしな。城壁周辺を借りれば問題あるまい』

「……野宿慣れでいいのか、それって」


 航路情報を盗み出したやつら……推定これもあの『バッドエンド』とかいうクランだろう……の動きも気になる、というか、海洋調査をしている組と鉢合わせる可能性があるんだが、そちらは出会ってみないと分からない。

 流石に嵐の前の航路情報を鵜呑みにして、海の真ん中で事故ったりしたらヤバいでは済まない。次の大陸へのレース本番は、その調査と街の復興が終わってからだな。

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