第252話 13枚目:事後処理

 「第一候補」の企みはともかく、さほどなくエルルが戻ってきて、見た目巨人は縮んで消えたと報告してくれた。多分巨大化が解けて、普通サイズのクレナイイトサンゴに戻ったのだろう。

 なおその際「骨」となっていた船も解放されたんだが、まぁうん、結構な量の氷を取り込んだことが災い……いや、幸い? して、押し潰されて沈んでしまったらしい。


「まぁ、乗員はまず間違いなくクレナイイトサンゴに重症レベルで寄生されていたでしょうけども」

「そうか、召喚者は殺しても死なないんだったな。……あれ? その場合どうなるんだ?」

『いわゆる死に戻りであるな。その場合は一切の状態異常が解除される故、今度こそあの船団に居た召喚者は正気に戻った筈だ』

「ようやく司令塔が復帰するという事ですね。いえまぁ、頼りきりなのはどうかと自分でも思いますが」


 という事なので、カバーさん達及びイベントに参加している召喚者プレイヤーの約半数が復帰する筈だ。残りの半数? エルルが上空から様子を見てくれていたけど、うん、阿鼻叫喚ってあぁいう事を言うんだね、っていう感じ、かな……。

 なおパストダウンさんを始めとした、島に居てウィスパーやメールを受け取った人たちは正気に戻っていた。後遺症と言うかダメージとしては、魔力ことMPに入っていたらしい。文字通り精神攻撃だったようだ。

 私とエルルは特級戦力なので、全体の動き方が決まるまでは「第一候補」と一緒に待機となる。


「後は何もないと思いたいところです」

『少なくとも、大嵐の終息までは順調に行ってもらいたいであるな』

「流石に自分ごと生贄にしたんだし、主犯とその仲間は動ける状態じゃないと思うが……」


 ……という会話もあったが、どうやらフラグの神様からは見逃して貰えたようだ。いや、居るかどうかは知らないけど。あの見た目巨人が消えてからしばらくして、カバーさんから連絡が来た。

 今度はノイズも何もない。死に戻りでクレナイイトサンゴによる寄生は解除出来たと見ていいようだ。内容もまず謝罪から入った今後の予定だったし、そこに違和感は無かったから大丈夫だろう。


「エルル、カバーさんから指示が来ましたよ」

「何て?」

「渡鯨族の方とデビルフィッシュ及びクラーケン一族を誘導して退避させておくので、クレナイイトサンゴに寄生された召喚者を、一度まとめて吹っ飛ばしてください、だそうです」

「………………」


 要するに虫下しを使わず死に戻りで治療(?)するって事だ。まぁ、虫下しの数には限りがあるからね。上手くすれば治療するだけ増やせると言っても、その時間が無い訳で。

 ……だからと言って仲間の大量殺戮を推奨するか、という感じにエルルは顔を引きつらせていたけど、初期には死に戻りテレポとかも普通に行われてたからね。召喚者に関しては割り切るというか、慣れてほしい。




「死なないからって感覚マヒしすぎなんじゃないのか……?」

「というか、そういう「前提」でこの世界に来てますからねぇ」

「……。てことは、お嬢も」

「仮初の命、という認識はありますよ。例えば住民の命と1対1で引き換えなら、正直安い物です」


 それでも頼まれたから、と、エルルはブレスで召喚者プレイヤーを一掃したから、職業軍人なんだよなぁ。まぁその後死に戻って復帰した召喚者プレイヤーから感謝されて、さらに複雑な心境になってるみたいだけど。

 え、その複雑さに追い打ちをかけてるだろって? いやまぁそれはそうなんだけど、これははっきりしておかないといけないしなぁ。だって、どこまで行っても召喚者っていうのは「異世界の存在」だ。そもそも、異物である。

 自世界内では詰んじゃったから他の世界に助けを求めた(というバックストーリー)なので、本来なら歓迎されない存在なんだよな。やるべきことが終わったらさっさと帰れと言われても仕方ない。


「…………何となく、理解はした」

「理解は」

「納得はしてない」

「なるほど」


 まー「死なないから何やっても大丈夫」なんてそう簡単に納得は出来ないわなー。というか、出来てたら私に対してここまで過保護になってないか。

 ……出来ればそこから無茶の許容量を増やしてくれればいいんだけど、それは期待薄かなー。

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