第253話 13枚目:嵐襲来
エルルの頭痛あるいは胃痛の種が着々と増えている感もするが、もう強く生きてとしか言いようがない問題なのでそっとしておくとして。
レイドという名の捕獲海戦夜の部も順調に行き、一安心だ。妨害工作が無かったからか、デビルフィッシュ(異世界タコ)もクラーケン(異世界イカ)もかなりの数が捕獲できたようだ。
これなら次の日の夜の部には本命に取り掛かれるかな、と思いながら
「――――で、時間通りログインしてみたら、なんっですかこの嵐は!?」
部屋というか建物全体がガタガタ言ってるから何事かと思って飛び出したら、あやうく風で吹き飛ばされそうになったよ! フライリーさんとルチルは大丈夫か!?
即座に屋内に退避したが、この数秒でぐっしょりと濡れてしまった。うーん、布が張り付く感覚再び。あれからすぐに修理してもらって、服(装備)自体は綺麗になってるんだけど。
そこで改めて『本の虫』の人達の情報まとめや内部掲示板を検索してみるが、どうやらどこもかしこも大混乱になっているようだ。ということは、リアル明け方あたりの、
「あ、おはようございますごしゅじんー」
「あっれ、先輩どうしたっすか?」
「ルチル、フライリーさん。おはようございます。とりあえず今は外に出ない方が良いですよ」
「マジっすか」
「そうなんですかー?」
その辺りを一通り見終えたタイミングで、【人化】したルチルとその頭に乗ったフライリーさんがやってきた。どうやらフライリーさんもイベントという事で、タイミングを合わせてログインしてきたようだ。ルチルは最近私よりフライリーさんとの方が仲が良い気がするので疑問は無い。
建物の揺れも認識してはいるが疑問顔の2人に、一応証拠、という事で、扉を半分だけ開けてその暴風を体験してもらった。
「なるほどこれはダメですねー!」
「一瞬も持たずに吹っ飛ばされて藻屑になるっすね!」
心から納得してくれたようで何よりだ。どっちも軽いから、風に乗ったらどこまで飛ばされるか分かったもんじゃないしね。
さて問題はこの超大型台風もかくやという暴風雨だ。街の被害や他の人の安否も気になるが、一体何が起こっている?
「エルルがいないって事は、何がしか結構な大事が起こっているという事なのでしょうが……」
心なしかガタガタという揺れが激しくなってきた気もするが、とりあえず今は情報を集めるのが先だ。いや、いっそカバーさんの到着を待った方が良いか? 私がログインしてるなら居る筈だし。
エルルも、呼べば来そうな気はするんだけど、この嵐で何もしてないとは思えないしな。忙しく戦闘とかしてたら色んな意味で致命的な邪魔になるだろうし。
と、迷っている間に、開きっぱなしだった『本の虫』の人達の情報まとめが更新された。うん?
「……木造家屋の安全が保障できない為、港町に居る
「先輩、この建物って木造ですよね?」
「そうですね」
「最悪、建物ごと吹き飛ばされるって書いてますねー」
「なるほど、それでここまでガタガタ言っているという訳ですか」
そんな事を言っている間に、ガタガタと建物が揺れる音に、メギリ、と嫌な音が混ざり始めた。うーんこれは。
「とりあえずルチルは【人化】を解いて、フライリーさんと一緒にこちらへ」
「あっ、そうか。先輩の方が丈夫ですもんね」
「ごしゅじんが【人化】出来るようになってて良かったですー」
「装備もフル回復してもらってますし、まぁ、飛ばされても【飛行】と魔法で姿勢制御ぐらいは出来るでしょう」
エルルの姿が無いがとりあえず避難を優先する事にして、襟のボタンをはずして2人を招く。散々エルルにしてもらっていたことを今度は私がする番になったって事だな。まぁロリなんだけど。
石や建物の一部が風に乗って飛ばされてきても、直撃するのが私ならまぁ死にはしないだろう。一応2人にパーティ申請を飛ばしておき、服の中に入って貰う。小鳥さんと手乗りサイズな妖精さんだから、大丈夫だな。
さて、と、襟のボタンを止め直して気合を入れる。『本の虫』の情報まとめに避難先とそこまでの経路が乗せられていたので、一番近い場所……造船所に行くことに決めた。重要パーツを作る場所は丈夫な建物らしいんだよね。
「それではちょっと息苦しいかも知れませんが我慢してください。行きます!」
いくらステータスの暴力だって言っても体重の軽さはどうにもならない。なので【風古代魔法】と【水古代魔法】で暴風雨への防御を張って、走り抜ける方針だ。
避難先に着いたら『本の虫』の人達にエルルを探して貰うとして、今は避難! と気合を入れ直し。
とうとう、ベキッ、と、致命的な音を立て始めた建物の中から、暴風雨荒れ狂う外へと飛び出した。
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