第243話 13枚目:元凶

「な……っ!?」


 明確に痛い、という感覚自体が久しぶりで反応が遅れる。背中に袈裟懸けで走った痛みは、たぶん刃物で切り裂かれたのだろう。【人化】していると鱗の実体が無い分だけ防御力は下がる(エルル談)とはいえ、私相手に「斬ってダメージを通せる」って相当強いぞ!?

 咄嗟に振り返るが、先程までは居なかったその人影は、全身をすっぽりとフード付きマントで覆って全く詳細が分からない。唯一分かるのは、その左手にかなり上物な気配のロングソードを握ってるって事だけだ。

 その人影が、身をかがめた――と思うと、その身体をブラインドにしていた魔法が飛んできた。見た感じ水属性と風属性、そして現在位置は海辺で、迷路を直線で進んできたせいか崖っぽい場所な訳でさ。


「しまっ……!」

「ルミル殿!」

「るみちゃ!?」


 まぁ、ノックバックで海に放り出されるよね。幸いと言っていいのか高さはそんなに無かったらしく、すぐにどぼんと音がして、私は北の海へと叩き込まれた。寒い!!

 ってちょっと待て、結構深さある上に海底に向かう海流がある!? うわこれ結構しっかり泳がないと吸い込まれる!


『うっふフふ、これはこれは、皆様お集まりで』


 そして、海の中に居るにもかかわらず聞こえてくる、鼻にかかったような見知らぬ声。たぶんスキルか何かを使っているのだろう。エコーとノイズで装飾されていて、その声から男女の区別は難しい。


『お転婆なお姫様には驚かされまシたが、それもここまで。手負いで落ちた先は冷たい海。うっふフふ、いくら竜とは言えまだ子供。上がってこれはしないでしょう』


 何とか姿勢を制御して頭を上に、足を下に向ける。意外と息は大丈夫だな。落ちる時に思い切り息を吸ったからか?

 どうにか岩を掴んで海中まで続いていた崖をよじ登り、海面に顔を出す。その間にも、まだまだ声は続いていた。


『良い塩梅に観客も集まった事でスし、儀式の進行も最終段階。生贄の位置がずれているのは誤差の範囲。実に実に良い頃合いでスね』


 愉しい、と。声を聞くだけで分かる調子で、その声は続ける。


『それでは、まずは名乗りを。人の心の闇に潜み、僅かな隙から光を食い散らかす我らを。秩序無き混沌をこそ望み、悪徳とケダモノが支配する世を求める我らを。どうかお見知りおきくださいますよう――』


 ケラリケラリ。ようやく、ようやく重い腰を上げて表舞台に出て来た、この一連の流れの裏で糸を引いていた「黒幕」は。

 愉しそうに嗤いながら、こう名乗った。


『――我ら、クラン『バッドエンド』。世界を救うために召喚されながら、世界を滅びに導く、“破滅の神々”に魅入られた召喚者! その活動の手始めとして、まずは、海の安全を――滅ぼシます!』


 ……うん、まぁ、色々言いたい事も聞きたいこともたくさんあるけど。

 午前中の捕獲戦で「第一候補」がやったのと似たような、しかし「属性」が致命的に違う力場が展開され始めたし。

 何より、ネレイちゃんの悲鳴が聞こえたからね。



「展開、【王権領域】」



 とりあえず、潰そう。

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