第237話 13枚目:それぞれの戦果

 流石に急造とは言え砦がある以上、あちらがそこを抜けるまでは戦闘に参加(と見学)してても大丈夫だろう、という事でエルルと一緒に前線こと甲板への入り口へと移動する。罠の仕掛けてある他の出入り口? 流石に侵入は諦めたみたいだよ。

 私は侵入者たちを見下ろせる位置に登らせてもらい、エルルはそのまま戦闘に参加だ。んー、しかしすごいな。柵と壁で通路が作られて、完全にタワーディフェンスだ。

 でもあちらもバカではないようで、壁や柵を壊しつつ撤退や後退をしながらなんとか攻略しようとしているらしい。装備や見た目からして恐らく人間種族だな。


「しかし何でわざわざ狙ってきたんですかね?」

「聞き取れた範囲では、また何か我々が大事な物を独占しているからという言い分を掲げているようです」

「前の騒ぎと一緒ですか」


 そんな見晴らしの良い場所なので、当然カバーさんも戦況を見て指示を出す為に常駐している。パストダウンさんは外とのやり取りを担当しているようだ。

 襲撃の理由が一緒という辺りに黒幕の存在を感じて頭が痛い。エルルが出てくるなり十把一絡げで仕留められていく召喚者プレイヤー達だが、エルルも前の騒動で学んだのでトドメにならないように加減しているようだ。

 話が通じればいいんだけど、通じない気がするんだよなぁ。第一そもそもだ。


「大事な物を独占しているからそれを奪えば活躍できる、という論理なのでしょうが、出来たら苦労しないんですよね。そもそも、見せ場が欲しいだけなら自分のレベリングが先でしょうに」

「隣の芝生は青い、と言いますから。自分の怠け癖を棚に上げる人間はそれなりに多く、楽に活躍できるならそれに越したことは無いというのは共通ですし」

「手に入れられた者と手に入れられなかった者、その時点で既に実力に絶対的な差がついてしまっているというのも見て見ぬふりですか」

「自分に都合の悪い事は最初から認識しない、というのもよくある事です」


 他人から盗んだものでいばるって、恥ずかしくないか? だってどう考えても滑稽だろう。虎の威を借る狐っていうのは悪口なんだぞ。

 私はこつこつ積み重ねた物が積み上がって力なり形なりになるのが好きなタイプなので、まぁ、苦ではないとは言わないが、地道な努力は出来る方だ。と、思う。

 だからそもそも、他人の物を奪うという発想自体が理解できない。だって自分がやられたら絶対許さないし。いや、結果が降って湧いたら楽だろうなとは思うよ? 思うけど、ゲームはその苦労をこそ楽しむものだろうに。


「だから余計に小物感がするんですよねぇ。獣並みと言うか。実力の差が分からないだけ獣以下でしょうか」

「ぶふっ」


 ……何かツボに入ったのか、カバーさんがふきだしてそのまま肩を震わせていた。まぁメールやウィスパーで指揮はしているようなので、周りの動きに異常は無いんだけど。

 とかやってる間に、私が援護するまでもなくエルルは甲板への入り口である扉まで到着していた。その道中には動けない程度の致命傷を受けた侵入者たちが転がっている。それを、手際よく『本の虫』のメンバー達が捕縛していった。

 終わりで良いかな、と判断して、一応砦の内側を振り返る。よし、「第一候補」及び魔法陣に異常なし。カーリャさんも異常ないな。手を振ってくれたので振り返しておこう。


「で、メイン会場は……」


 本来の甲板も結構な高さだが、この急造の砦があるので更に高い。結果、見晴らしが更によくなった場所から見えた、大嵐手前の海戦模様は、というと。


「……うわ。引っ掻き回されたからと言って、ボロボロに過ぎませんか」


 まぁ、うん。

 忌憚なく言えば、潰走一歩手前、という感じだった。

 この分だとクラン連合的なあれの信頼関係にも影響してそうだし、そもそも士気が落ちてるんじゃないか? 大丈夫かな、予定通りあと3回、レイドという名の捕獲戦、出来る?




 時間通りに全員が撤退し、大嵐が元の壁状態に戻るのを背景に行われた大手クラン同士の話し合いは、それはもう荒れに荒れた、と、後程カバーさんに聞いた。まぁそりゃそうだ。

 あんまりこういうことは言いたくないが、どう考えても今回、参加したクランにまんべんなく「裏切り者」が居た事になる。当然『本の虫』にもだ。でなきゃあんなにきれいに末端と言う末端がクレナイイトサンゴに感染しないし、そもそもクレナイイトサンゴを盗み出すというのが無理だろう。

 で、後で聞いたという事から分かる通り、私は撤退直後、それどころではなかった。


「ふーぃ、何だか随分とややこしい話になってきやがったな」

「ディックさん」

「おう! 竜の姫さんか。どうした?」

「ちょっと、こっちへ」

「うん? 別に構わねぇが……」

「周りの皆さんも一緒に。えぇ、今、すぐに」

「???」


 船を背中から外し、【人化】して泳いで港に上がって来たディックさん。だいぶワイルドだがまぁそれは良い。周りに居た船守ふなもりの人達も同様だ。それもいい。

 問題はだな。


『…………軽度である。軽度であるが――なんだ、この数は』

「!?」


 泳げば服は濡れる。撥水性と速乾性に優れた布を使っているとはいえ、泳いだ直後に脱いで絞るぐらいの必要はある。そこで居合わせたのはまぁいいんだ。良い体つきでしたごちそうさまですってそうじゃなくて。

 その、見えた背中に。

 ……びっしり、と。夥しい、と言っていい数の、「赤い線」が走っていた事だ。


「ご挨拶とお礼を言いに、海から上がって来た瞬間に居合わせて良かった……。これ、服を着たままでは分かりませんよ」

『全くであるな。寄生虫として厄介なだけはある。しかし一体、いや、あの船の上でごたごたしていた間か?』


 当然それはクレナイイトサンゴな訳で。その数については「第一候補」が絶句したという時点で察してほしい。もちろん、普通にしていればこんな数に感染する訳が無い。

 そして更に問題なのが、『本の虫』の人達が全データを洗い直した結果、「捕まえたクレナイイトサンゴの数に抜けは無い」事で……つまり。


「……悪辣な」


 「誰か」が独自に、それだけ大量のクレナイイトサンゴを確保。あの船上での籠城戦をしている間に、ディックさん達に寄生させた、という事だ。

 ……デビルフィッシュ(異世界タコ)一族に加えてクラーケン(異世界イカ)一族どころか、渡鯨族まで滅ぼす気か。

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