第226話 13枚目:作戦会議
港に戻ってしばらくするとログイン制限が明けたらしく、船に乗っていた『本の虫』の人達とフライリーさん、アラーネアさんも
ちなみにルチルはお説教がしばらく続いた辺りで気が付いて止めに入ってくれたよ。ありがとう。本当にありがとう。
「うん。エルルさんだけは怒らしちゃダメっすね。覚えたっす」
「まぁ僕もあそこまで怒っているのは初めて見ましたねー」
さて話を戻そう。まず「手遅れ」だった個体だけど、エルルが港にポイした時点で虫の息で、急いで港に残っていた『本の虫』の人達が虫下しを飲ませてクレナイイトサンゴを回収し、綺麗な体になった所で息を引き取ったのだそうだ。
そして確かにエルルの攻撃によるダメージは確かにトドメに近かったが、もう脳だけではなく全身が食い荒らされてボロボロで、まともな神経自体が残っていなかったらしい。「手遅れ」という表現は、誇張でも何でもないって事だな。
他の個体は順次虫下しの投与で元気と言うか、元の状態に戻っていった。流石にエルルもこのサイズは空輸できない(のと私がやらかした以上離れるのを断固拒否した)ので、人魚族の人達による海路で南の海へ戻されることになった。
『かなりの量のクレナイイトサンゴを捕獲できた故、虫下しの数を大きく増やせたことが唯一の幸いか』
「ま、その状態になるまで待つことはしませんけどね」
『当然である』
そして南の海に戻す前に特大デビルフィッシュ(異世界タコ)達に話を聞いてみると、正気に戻ったからか【魔物言語】で会話できた。なので、神の加護を受けたデビルフィッシュ(異世界タコ)一族で間違いないようだ。
ぷるぷると寒さだかエルルの姿にだか震えながら話してくれたところによると、あの大嵐はデビルフィッシュ(異世界タコ)一族の長……あの50m級の個体によるものでほぼ間違いないのだそうだ。
ただ長単独にしては規模も期間も長い為、恐らくクラーケン(異世界イカ)一族の長も同様の力を持っていて、その合わせ技でこんなに長期間に渡って嵐が起こり続けているのではないか、という予想をしていた。
「まぁほぼ間違いないと見ていいでしょう」
「問題があるとすれば、クレナイイトサンゴの感染状況、と」
『未だ感染していない、というのは、あまりにも楽観的であろうな』
「でしょうね。あの映像で見た限りでは「手遅れ」の個体は居ませんでしたが」
その辺も聞いてみたのだが、どうやらクレナイイトサンゴによる洗脳中はあまり意識できないものらしい。あの「手遅れ」の個体も、彼ら曰くは何も変わらない普段通りの状態だったという。
では、と、デビルフィッシュ(異世界タコ)の配置状況を聞いてみると、それもまた要領を得ない。誰の指示で嵐の外に出て来たのかとか、食事をどうしているのかとか、その辺が曖昧なのだ。
やはりその辺りは寄生による影響だったらしく、軽症であってもかなり行動や記憶だけでなく、感覚にも干渉されるようだ。まぁ、神経への寄生及び癒着だからなぁ。
「やはり、クラーケン一族への接触が必要ですね」
「確かに。このまま外で対処療法的な行動を続けていても、埒が明きません」
「けどそれにはあの嵐を何とかしなきゃいけない訳だろ? 流石に俺でもあの中に突っ込むのは無理だぞ」
「クラーケン釣りも続けていますが、知性がありそうな個体が居ないんですよね」
『あの嵐が神の力によるものらしく、祈りもなかなか届きにくい状況となっているようだ』
「というか、そもそもですがー。どうやってデビルフィッシュ達は、嵐の外の状況を知ったのでしょうかー?」
虫下しを作成している間の時間でわいわいと相談している中、ルチルがふと零した疑問に沈黙が下りた。……確かにな? 嵐の外でなんやかんやしていたのは確かなんだから、察知するならデビルフィッシュ(異世界タコ)もクラーケン(異世界イカ)もほぼ同時の筈だよな?
でも反応したのはデビルフィッシュ(異世界タコ)だけ。正確に言えばクレナイイトサンゴに寄生された個体だけ。であるなら……。
「……もしかすると、嵐の外を察知できているのは、クレナイイトサンゴだけ……?」
『……確かに、可能性としてはあり得るか。が、そうなると、いくつか深刻な問題が出てくるであろう』
「えぇ。まず肝心の2種族に我々の動きが一切伝わっていない事。ついで、本当に対処しなければならない相手に動きが筒抜けになっている事。それらによって後手に回っている事も問題でしょう」
「情報については遮断されている可能性もありますね。モンスターにとっての最悪は、2種族が寄生虫の存在に気付き、こちらと足並みを揃える事でしょうから」
「てことは……多少無理を押してでも、あの嵐を突破する必要がある、って事か?」
「それが出来ないから外で色々してるんじゃありませんでしたっけー」
ルチルの指摘に、それな、と同意する事しか出来ない。ある種の矛盾だ。鍵を部屋の中に置きっぱなしにしたオートロックの扉みたいなもので、自力解決はかなり難易度が高い。
たぶんこのまま、地道にデビルフィッシュ(異世界タコ)の数を減らしていっても、一応解決しなくは無いと思う。その場合、クラーケン(異世界イカ)へのクレナイイトサンゴの感染規模がかなりのものになっているだろうけど。
……ベターであってもベストじゃない気がするんだよな。もう一手、何かもう1つ手札があれば。この場合、嵐を一時的にでいいから突破する手段か。
「まぁ、突破した所で何も対策なしだと、数の暴力で沈められてしまうのがオチですが」
『あの嵐の制御に割り込めれば良いのだが、流石に海の上で大規模な儀式を行うのは難しい。そもそも儀式場の確保が出来ぬ。出来たとしても、我だけでは必要な力が足らぬであろう』
儀式さえできれば嵐の制御に割り込めるのか、というのはまぁ「第一候補」が出来るというのなら出来るのだろう。神関係特化型種族が神関係特化型のスキル構成をしているんだ。此処で嘘を言う理由もないし。
儀式場っていうのはあれかな。鬼族のところで机を使って作っていた、いかにも儀式って感じのあれ。大規模って事は会議で使う大部屋ぐらいは要るのだろうか。
で、必要な力っていうのは……ニュアンス的に、単なる魔力ではない感じだな? だってそれなら私が居るからね。リソースだけで言えば問題ない筈だ。
「ふぅん。つまり、強い水の力と大きな足場がありゃぁいいんだな?」
割り込んできた声に、なるほど水属性の魔力あるいはマナなのか、と納得する。確かにそれは私では用意できないな、宝石の数にも限りがあるし。
って、ん?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます