第227話 13枚目:進む準備

 別に除け者にしていた訳ではない。その証拠に、召喚者プレイヤーが乗る船の大半は彼らが動かしてくれていたから。ただその危険度と、事態の予測がし辛い事から、言っては何だが「死んでも大丈夫」な召喚者プレイヤーが最前線を張るようにしていたというだけの話だ。

 軽んじていた訳でも侮っていた訳でもない。むしろ、こちらがお願いして一歩下がって貰っていたのだ。当事者と言うなら、これ以上なく当てはまる人達だから。

 覚悟という意味では、むしろ召喚者プレイヤーの方が甘いと言えるだろう。何せ、彼ら……渡鯨族の人達は、死ぬ事すら覚悟の上で飲み込んでいる。そして、その場面を見たくなくて下がって貰っていたのだから。


「気遣いはありがたい。が……儂らの海だ。つまり儂らの問題だ。それを、後ろで見てるだけっつぅのは、そろそろ収まらねぇのよ」


 この世界フリアドはほんと性格イケメンが多いな! ザ・海の男な貫禄たっぷりにそんな事を言われたらそれ以上何も言えないじゃないか!

 とまぁ渡鯨族代表ディックさんからの熱い申し出は、「第一候補」の名誉を挽回するチャンスでもあるという事で反対意見は無し。大蛸襲来の時の無力さ具合を気にしていたらしい。

 そうと決まってしまえば『本の虫』の人達にも迷いはなく、渡鯨族全面協力という事で、路守みちもりさんが使う豪華客船のような船を丸々一隻「儀式場」として使わせてもらえることになった。


『そも、渡鯨族自身が水の属性を持つ故な。その背を借りられるのであれば、これ以上は無い』

「まぁ殺る……もとい、やる気と準備を万端に「対巨獣槍」を装備した船守ふなもりさん達で周囲を固めますしね」

『うむ。嵐の制御に割り込めば、流石に注意の大部分がこちらに向かうであろうからな。一族を率いる海神の使いが2体、抗する為の力はいくらあっても困らん』


 もちろん召喚者プレイヤーも更にその外周に陣取り、船守ふなもりさん達が「対巨獣槍」を使用する道を切り開いたり、撤退を援護したりする予定だ。もちろん対応できる範囲の取り巻きも相手にする事になる。

 なので、すっかり港町はレイドボス戦前のそわそわした空気に染まっている。『本の虫』の人達も大忙しで、大手クラン同士の話し合いというか会議も頻繁に行われている様だ。まぁ最低限の足並みは揃えないと結果が残せないからね、主にサイズと火力の差で。

 とは言え全ての召喚者プレイヤーがそのクラン連合と呼べる組織の指揮下に入る訳ではないし、そのクラン連合に所属していたとしてもある程度は好きに行動するだろう。何せ、この世界フリアドはゲームなのだ。楽しんでなんぼである。


「ま、大人しく指揮下に入っている方が楽しめるとは思いますが。ぶつかる主役達の大きさと攻撃力を考えると」

『下手に目立とうと突出すると、攻撃の余波で木っ端みじんになった上でなお気づかれぬだろうな。まぁそれでもやる奴は居るであろうが』


 私は主に「第一候補」の護衛だし、エルルはその私の護衛だ。そして「第一候補」は嵐の制御に割り込み、その一部を開く事に終始集中する。つまり、何事も無ければ前線に出ることは無い。

 別に退屈はしないだろう。何せ特大規模の海戦を、特等席で見れるんだ。この身体アバターの視力は大変良いから、肝心なところを見逃すという事も無いだろうし。

 「第一候補」がぬいぐるみ姿なのは変わらないが、可愛いマスコットじゃなくて格好いい系になるようにアラーネアさんが頑張ってくれているから笑いをこらえる事もない。うん。楽しい大迫力戦記モノ観賞会だな?


「本当に。……出番が無い事を願いますよ」


 特級戦力に頼らずに、数と絆の力で解決出来たら、そっちの方が良いに決まってるじゃないか。……大概の場合、そうはならないってだけで。

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