第225話 13枚目:最強の本気
以前から何度か言っているが、ドラゴン姿の時のエルルは、かなりでかい。
地上に降りて翼をたたみ、尻尾を巻き付け、手足を引っ込めた状態で、たぶんあれ、羽みたいに荷台が開くトラックぐらいある。中~大型トラックだっけ? その上で結構身体も伸びるし、尻尾も長い。で、それだけの身体を支える翼も、広げれば当然でっかい。
でまぁ、エルル自身の見た目は、真っ白い鱗に金色の眼で、翼と尻尾まで含むドラゴン版フルプレート的な真っ黒い鎧を着けてるんだよね。で、現状、ガチギレ状態で【威嚇】系のスキルを使ってる訳でさ。
『いかん、「第三候補」!!』
「はっ、そうでした! エルル!! ストップ! ストップです!! 殺してはいけません!!」
ゴッ、と、あっさり、それはもうあっさり、良く晴れた日の綿毛くらい軽々と「手遅れ」の特大デビルフィッシュ(異世界タコ)が吹っ飛ばされたところで「第一候補」に声を掛けられ、慌てて声を張った。
ばっしゃーん! と盛大な水しぶきが妙に青く染まっているように見えたのは、気のせいではないだろう。恐らく今の一撃で痛打が入ったと見た。空中で即座に態勢を整えてブレスを放とうとしていたラスボス、じゃない、エルルは、寸でのところでトドメを刺すのを中止したようだ。
めっちゃ不機嫌というか正直超怖い顔で、文字通りに睨まれたが、此処で視線に負ける訳にはいかないだろう。
「トドメを刺すと寄生虫がばら撒かれます! 捕獲で! どっちにしろ助からないので周辺被害を減らしてください!」
『………………チッ』
舌打ちが怖い!!
が、まぁ私(護衛対象)の言う事が正しいと判断するぐらいの理性は残っていたようで、ブレスではなく急降下からのサマーソルトを海面に叩き込んだ。っておーい!?
……そしてその勢いで、潜って逃げようとしたらしい「手遅れ」の特大デビルフィッシュ(異世界タコ)が、海面の上へと、ぽーんっと飛び出してきた。それを空中で掴み取るエルル。推定血だと思われる青い液体にまみれたタコは瀕死だが、不思議な事にクレナイイトサンゴに動く様子が見られない。おや?
『……動けば殺す』
「「「!!」」」
違う。あれ、エルルの本気の殺気で動けなくなってるだけだ。
同様に、恐らく今この船の周囲に居る特大デビルフィッシュ(異世界タコ)に殺気付きの脅しをかけて、エルルは一旦港へと飛んで行った。て、うっわ早、翼の一打ちでどんだけ移動してるの。
あぁぁ、特大デビルフィッシュ(異世界タコ)が風圧で引き延ばされてる。「手遅れ」とはいえ容赦無いな。……まぁ私が死にかけた原因だから容赦なんてないか。その場で殺さなかっただけ偉いんだよな、たぶん。
『……竜族は、子を文字通り宝のように大切にすると言うが、納得であるな』
なおその余波については、神々と対面する機会がずば抜けて多く、つまりこういう無形のプレッシャーには慣れているであろう「第一候補」でも割と疲れた声を出しているという辺りでお察しだ。
ぷるぷる小刻みに震えている周囲のタコ足を見回し、それでも一応防御を継続しながら船の他の気配に意識を向ける。うーん、これ、何人起きてるかなー?
……いやぁ、エルル、今までかなり相当めちゃくちゃ手加減してくれてたんだね。
その後、秒で取って返してきたエルルは、周囲に林立していたタコ足を収穫……船の周りを一周してタコ足をひとまとめに持ち、そのまま海面から引っこ抜いたので収穫にしか見えなかった……してもう一度港に戻り、3度目に戻ってきて船の上へと【人化】して着地した。
え、
「だ! か! ら! この、降って湧いた系お嬢は!!」
「いだだだだだ!」
「俺は! お嬢は港で留守番だって、そう聞いてたんだけどなぁ!?」
「痛い痛いすみませんでしたって痛い痛い痛い!」
【人化】してからのお説教タイムを誰も見ていないのはいいとして、痛い! こめかみグリグリが本当に痛い! いや痛いように力加減してるんだろうけど!!
いや竜姿の時の顔をこねくり回されるのはこの痛さに加えて襟首を掴んで揺さぶられるような気持ち悪さもプラスされるからこっちの方がマシか、いや痛いのは痛いな! うん! マシとかそういう話じゃなくて!
まぁエルルにしても私の護衛が本来の仕事なところ、安全な場所に居るという前提で雑用を引き受けたら、護衛対象がピンチに陥ってたという大失態だ。その分の自責もあるだろうし。
「だっからあれほど、自分の立場にもうちょっと自覚を持ってくれと言っただろうが!!」
「野良皇女にそんなの求めないで下さいだだだだだだ痛い痛い痛い!!」
そろそろ本気で頭が割れそうだから誰か、っつか私の首にかかったままの「第一候補」、止めて欲しいんだけど!? 黙って動かずただのぬいぐるみのフリしてないでさぁ!
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