第224話 13枚目:巨大蛸攻防戦
クレナイイトサンゴ同士に何かしらのネットワークがあるのか、あるいは群体生物的な挙動をするのか。もしくは周囲に船の姿が無くなったというのもあるかも知れないが、この「手遅れ」なデビルフィッシュ(異世界タコ)が降ってきた直後辺りから、この船は総攻撃を受ける事となっていた。
もちろん私は嘴まで使って防御を破りに来ているデビルフィッシュ(異世界タコ)の相手で手一杯だし、ルチルも攻撃に参加し始めた気配もするが、それでも手数が足りないだろう。
私の張った防御は半球型なので、ある程度は周囲からの攻撃も防ぐことが出来る。が、攻撃を防ぐという事は、その分だけ耐久値の削れ方が大きくなるという事だ。
「流石即死判定までありそうな嘴攻撃、魔力の削れ方が尋常じゃないんですが……!」
『見る限り即死属性は無いようであるな。ただその攻撃力が桁外れなだけか』
「幸いかそうでないかと言われれば幸いですが、だけ、じゃぁ無いんですよねぇ……!」
周囲の光景に変化は無いが、多分迎撃しながらじわじわ移動しているんじゃないだろうか? それに捕獲用の網を撃ち出す大砲の音が周囲から聞こえるから、ヒットアンドアウェイで特大デビルフィッシュ(異世界タコ)の数自体は減っている筈だ。
さて問題は対応できる数になるまで、耐久出来るかどうかという事だが……。
「こ、のっ!」
バキリ、と罅の入る音がする。【並列詠唱】と【無音詠唱】で防御の重ね掛けもしているのに、その上で破られるのと守るのとがどうにか釣り合っている状態だ。
「手遅れ」の特大デビルフィッシュ(異世界タコ)だけでこれなので、周りからの攻撃が加わるとギリギリの均衡はマイナスへと傾いてしまう。そして防御が破られればどうなるか、というのは、そこまで考えなくても分かる事だ。
そして現状の難易度を上げているのは、もう一点。
「問答無用で吹っ飛ばしてしまう訳にはいかないというのがまた……!」
『しかしここでクレナイイトサンゴをばら撒く訳にもいくまい。
「分かってるから、防御に徹しているんでしょう!」
さらに響いた罅割れの音にかぶせるようにして防御を間に合わせる。それに周囲に一杯他の人がいる現状【吸引領域】や【王権領域】を展開する訳にいかない、というのも魔力が厳しい要因の1つだ。
……え、「第一候補」は何してるんだって? あぁ、まぁ、確かに魔物種族で、かつ全プレイヤー中最も早く種族レベルがカンストした実力者だね。そのステータスもレベルキャップが外れて更に伸びてるだろうし。
そうなんだけどさ。
「それにしても「第一候補」、現状最も魔物の王に近いあなたが、まさか、調べ物に夢中になって魔法スキルの1つも手に入れてないとは思わないじゃないですか!?」
『それに関しては、弁明のしようもない……』
「神関係に特化している、とは聞きましたが! まさか移動補助系のスキルすら捨てているとは心底想定外なのですが!?」
『すまぬ。誠にすまぬ』
ってことで、現状喋るマスコットだ。神官に戦闘力を期待するなよと言われればそれまでなんだけど、まさかの戦闘力皆無とは思わないじゃないか!!
いやまぁ、もうちょっとスキルが育ったり神との関係がしっかりしたりすれば、降臨とか憑依とかそういう感じで、神の力を振るえたりするのかもしれない。というか、だから世界三大最強種族に数えられてるんだろうと想像は付く。
けど現状何の助けにもならないんだよね! 私としては一緒に行動するのは「万が一」だったけど、実際の戦闘力を考えると妥当極まる判断だったとは思わなかったよ!
「可愛い姿でマスコット扱いも妥当だったのではないかと思い始めた所ですよ!」
『カーリャの趣味が多分に入っていたとは言え、流石に威厳が皆無の姿では支障がある故な?』
あと周りの緊張感。今の緊張状態になって、私込みとはいえ格好いい系の姿に変わっていて良かったと心底思う。ここであのころころデフォルメハコフグ姿だったら、緊迫しきれず既に沈められてた可能性まであるんじゃなかろうか。
まぁそんな事をしている間も私は防御に全力を出しているし、他の皆も迎撃や離脱に必死になっている訳だ。しかしすごい数のタコ足だな。船の周りにタコ足の森が出来たみたいだ。
海面に出てくる端からフライリーさんやルチルが斬り飛ばしているようだが、それでも捕獲して減る数より集まってくる数の方が多いらしい。段々と防御を叩く数は増えつつあるようだ。
「……最悪、船頭さんだけ拾って【飛行】で離脱しますからね」
『……致し方あるまい』
離脱は間に合わない。そう予想して「第一候補」に伝えると、頷きが返って来た。たぶんそのままメールを送っているのだろう。
そりゃ私だって、ルチルやフライリーさん始め船に乗っている皆を見捨てたくは無い。見捨てたくはないが……私が【人化】を解いて抱えられるのは1人だけで、
「手遅れ」の特大デビルフィッシュ(異世界タコ)を放置する事、皆を見捨てる事。どちらもやりたくは無いが、どうしても離脱をしなければならない、となれば――
「――――ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
そこまで覚悟を決めた、瞬間。文字通りの咆哮が、響き渡った。
周囲のタコ足も、「手遅れ」の特大デビルフィッシュ(異世界タコ)も動きを止めている。……いや、今の咆哮と、それに乗せて叩きつけられた殺気と闘気、それに縫い留められて「動けない」というのが正しいだろうか。
周囲一帯から波以外の音が消えた中、バサ、バサ、と空気を打つ翼の音が聞こえて来た。防御の上に乗っかっているデビルフィッシュ(異世界タコ)のせいで、その姿は見えないが、何が……「誰が」来たかは、明白だろう。
『……お前ら。お嬢に、何してやがる……!!』
……ぶっちゃけここまでガチギレしたエルルは初めてだから、私も正直大分怖かったのは内緒だ。
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