第223話 13枚目:巨大蛸襲来
前触れ無しに行われた特大デビルフィッシュ(異世界タコ)の大量出現で、外洋に出ていた船はパニックに陥った。どうやら積極的に船を沈めにかかっているようで、タコ足が海中から船を取り囲むように伸びては絡みつき、水中へと沈めていく。
水属性に特大優位のある雷属性か、減衰がほぼ無い風属性で迎撃が出来た船は立ち往生しつつも沈んでいない。『本の虫』の人達か指揮系統がしっかりしているクランが乗っている船は撤退へと動けつつあるようだ。
そして先月のイベントでマーレイ(異世界ウツボ)をテイムする事が出来た
「後は魔物種族か高レベル住民が乗っている船が沈没を辛うじて逃れている、という感じですね、[ウィンドカッター]!」
『しかし随分と数の多い事だ。しかもほぼ全ての個体が感染済みか』
「状態はどうですか、「第一候補」」
『今の所見れた範囲では酷くても重症一歩手前のようだ。まだ虫下しで対応できる範囲なのは幸いと言っていいであろう』
「神の加護っていうのはすごいですねぇ、私達(召喚者)が言えた事ではありませんが。[ウィンドカッター]!」
で。特級戦力と指揮官が一緒に乗っているこの船はというと、沈みそうまたは沈んだ船の合間を縫って海上を走り回り、沈んだ船の乗員を救助したり、海域の離脱を手伝ったり、迎撃されたり足を斬られたりして弱ったデビルフィッシュ(異世界タコ)の捕獲をしていた。
ルチルは別の場所でヒーラーとしてお仕事、アラーネアさんは捕獲網の急造中、フライリーさんは船の反対側で迎撃組となる。……あれ、言わなかったっけ? 魔法スキルのレベルだけで行ったら、フライリーさんはもう既に私に並んでるよ。妖精族の魔法適性ってすごいよね。
ははは、それにしても貢献値がすごい勢いで溜まっている気配がする。どんどん来い、このまま人間贔屓の神の信徒を引き離す。追いつかせなんてしてやるものか!!
『気合が入っているであるなー「第三候補」』
「そりゃそうですよ。あれだけ痛い目見てボコされて、その舌の根も乾かないうちに喧嘩売ってきたんですから、容赦なんてしません」
『まぁそこは擁護のしようが無いが。まさかあそこまでの事態になってなお、負けを認めぬとは思わなかった。もう意地としか言いようがない』
なんて会話をしながらも海上に出て来たタコ足を魔法で斬り飛ばしていく。しかし本当に数が多いな、一体どれだけをこっちに差し向けて来たのやら。八本をワンセットとして、もう10体以上は足の先が無くなってる筈だぞ?
まぁ嵐の中を覗き見した感じ、一族と言いながら万に迫るぐらいはいるだろうって『本の虫』の人達が予想してたけどさあ。それにしても全く、
「どんぶり勘定なのか海の生き物って言うのが大体そんなものなのか、規模がいちいちデカすぎるんですよ! [ウィンドカッター]!」
『これでもまだ加減している可能性が否めないのは確かであるがな。クレナイイトサンゴが指示したものである可能性が否定できない以上、なおさらだ』
「これで洗脳に抵抗した結果まだマシな数になっているとか、可能性が高くても嫌になりますね。[ウィンドカッター]!」
これでも無詠唱で加減はしてるし、出来るだけ海面と平行に撃って本体には届かないようにしている。殲滅する訳にはいかないってなかなか面倒だな。
……渡鯨族の街の襲撃の時にエルルが手一杯になっていた気持ちがよく分かる。相手が強くない方が問題なんだな、これ。うっかりでオーバーキルしそうって意味で。
それでも大体周りの船は逃がせたか? 【絆】で感知できる限りルウ達も無事なようだ。最低でも船の操作をしている渡鯨族の人達の救助は成功している筈だし、そろそろ引き際だろうか。
「うわぁあああっっ!? 先輩、上っすー!!」
「! [守れ盾となり、防げ壁となって、害為せぬよう天幕を成せ――ハーフ・スフィア・シールド]!」
と思った瞬間に良く通るフライリーさんの声。見上げると同時に両手を掲げ、【無音詠唱】も併用して半球型に展開する防御の魔法を展開する。今私が使える中で、船全体を守れる効果範囲がある中では最硬の
透明な半球が被せられたようなその上へ、「何処からか降って来た」それは位置エネルギーを加速度に変えて衝突する。凄まじい衝撃が走り、ずしりと感じる重みと手ごたえに膝が落ちそうになった。
「は――膝など、ついて、たまるもの……ですかっ!!」
それを気合で即座に立て直す。ちょっと船の通路の床にダメージが入ったが、ギリギリ重量による負荷と私の支える力が釣り合った。うん。ステータスの暴力が種族特性で良かった。
フライリーさんの警告が無ければ、一瞬でこの船が木っ端みじんになっていただろう。立て直しは此処からだというのに、司令塔の混乱と特級戦力の迷子はいただけない。
ギシギシとその重量だけで私の張った防御を破りかねないそれを、恐らくは私と同じく見上げて、「第一候補」は沈痛な呟きを零した。
『そうか』
降って来たのは、全長15mほどのデビルフィッシュ(異世界タコ)だった。それだけなら今他の船を襲っていた個体と変わらないし、そもそもそのサイズはそれだけで既に脅威だ。
しかし他の個体と明らかに違ったのは、その見た目。八本足の軟体は、全体的に白っぽい体色をしていた。これだけなら砂地の海底にでも居たのかなで済むのだが、それが尋常ではないその理由は、もう一点。
『……手遅れになると、こうなるか』
白っぽい体色の、その表面。胴の先端から足の末端まで、よく見ればその大きな目の内側やガチガチと鳴らされる嘴の根元にすら。罅割れか、それとも蜘蛛の巣に突っ込んでしまったかのように。
……びっしりと。「赤い線」が、走っていたのだ。
「なるほど。これは、分かりやすい」
『話しか聞いておらぬから、実物を見るのは我もこれが初めてだ。……確かにこれは、「見れば分かる」な』
その時々蠢く「赤い線」が寄生虫モンスターであるクレナイイトサンゴである事は明白で、これが脳に完全癒着した状態……虫下しが効かない、つまり「第一候補」が呟いた通り「手遅れ」という事になる。
『もはやこうなっては寄生虫の巣としか形容しようがない。虫下しを用いる事でクレナイイトサンゴ自体は駆除できる。出来るが……結局、命は保たぬ』
「かと、言って……ここで、トドメを刺せば、あの寄生虫の思惑通り、でしょう? トドメを刺した、相手か……無差別に、周囲なのかは、知りませんが!」
『どちらも十分にあり得るし、その両方を同時に狙うのが正しいのだろう。全く、本当に、性質の悪いモンスターである』
「全く、同意見です!」
会話をしている間に、手遅れとなった15mのデビルフィッシュ(異世界タコ)は私の張った防御を締め上げ、破ろうとしている。脳のリミッターが外れているからか、そんなに簡単に破れる強度はしていない筈の半球型の盾が、ミシミシと嫌な音を立て始めていた。
魔力を消費する事でその耐久度を回復させることが出来るので、私の魔力に余裕があるうちは大丈夫だ。今の「第一候補」との会話も『本の虫』の人達には聞こえているだろうし、何か対策するならそれなりに早めでお願いしたいかな!
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