第222話 13枚目:捕獲進捗
さて「第一候補」からの情報及び虫下しの薬の存在によって、神の加護を受けたというデビルフィッシュ(異世界タコ)一族を捕獲、回収し、虫下しを飲ませてリリースする、という方針が決まった。
しかしその肝心のデビルフィッシュ(異世界タコ)一族筆頭である50m級の奴は大嵐の中心だ。それに「第一候補」曰く、流石にそのサイズだと虫下しも1回分では効かないだろうとの事。
なので、まずは虫下しの数を増やそう、という事で、渡鯨族の人達及び一般
「ルウ。良いですか。出来るだけ大きな奴を、生きたまま捕まえてくるんですよ。生きたままです。足を食べるのはまぁいいですが、胴は食い千切らないように」
「オァアォア」
「いいですね。非常に性質の悪い病或いは毒を持っているような状態になっている個体が居るかも知れませんから、気を付けるんですよ?」
「アォアァォオ」
ルウにしっかり言い含めて他のマーレイ(異世界ウツボ)達の指揮を任せ、私が何をしているかというと、お留守番だ。その後のリリースの事を考えると「第一候補」は港で待機していた方が良いし、私は「第一候補」と原則一緒に活動する事になったからね。
私は夏休みなので時間を合わせる事は簡単だ。なのでやはり社会人だったらしい「第一候補」に合わせてログインしている。「第一候補」がいない間は嵐の近くでの捕獲に参加してるけど。
『まさか荷運び役になるとは思ってなかった……』
「エルルが一番確実で、しかも一度に一番多くのデビルフィッシュを運搬できますからね」
『俺、お嬢の護衛なんだけどなぁ』
リリースされるデビルフィッシュ(異世界タコ)だが、当然北の海で放したところで南の海には帰れない。途中で迷子になってしまうだろう。という事で、人魚族の人達の協力を仰ぎ、南の海へと送り返している。
そしてエルルはそちらのチームで動いていた。いやぁ、ドラゴンの空輸ってすごいよね。ミズダコサイズが10体入る水槽ごと運べて片道3時間かそこらっていうのは。だって船で海岸線を辿っていくと、片道数週間とかかかるし。
うん。実に地味な作業だ。まぁ南の海のデビルフィッシュ(異世界タコ)の数を回復させるっていうサブ目標はちゃくちゃくと達成率が上がってるんだけど。
『今のところは順調であるな』
「診断に間違いがないお陰で、虫下しの数も着々と増やせていますしね」
あぁそうだ、結局「第一候補」だが、本体を着けるのにある程度の大きさが必要なのと、カーリャさんが可愛いデザインを譲らなかったことで、長い腕を首に回すタイプの、ぬいぐるみとなった。デザインは第一回イベントの時の【人化】した「第一候補」だ。デフォルメされてるけど。
格好いい、にはまだ遠いその姿だが、可愛いを極める為のぬいぐるみに比べればまだマシだろう。という訳で、私もそれに合わせて新調された白スーツ+銀色マントに着替え、「第一候補」の「乗った」ぬいぐるみを首に巻いている。
……。何故私も着替える事に? いや、なかなかキリッとしていて、「第一候補」(デフォルメぬいぐるみ)が居ても格好いい寄りの見た目になってるけど。
「緊張感維持の為でもあります」
「あぁなるほど」
……やっぱり、以前の「膿み殖える模造の生命」の時は緊張感に影響があったらしい。可愛いも善し悪しだなぁ。
で、早いものでリアル3日が経過した。その間はひたすらデビルフィッシュ(異世界タコ)の捕獲と虫下しの投与と運搬だったよ。流石にそろそろ一般
単調。うーん。否定は出来ないが……。
「本当の単調な作業って奴を知っていますからねぇ」
『他者と会話できるだけ賑やかで楽しいであるな』
『足八本になれるまでは歩いてるか転がっているか分かりませんでしたし』
「耐性弱化克服の苦行に比べれば十分お祭りっす」
フライリーさんも同意してくれている以上、魔物種族
お陰で捕獲の効率は下がりつつある。周囲で勝手に釣りをするのは構わないが、船同士でぶつかったりして喧嘩に発展するのは止めてくれないかな。邪魔だから。
……そう言いつつ私もデビルフィッシュ(異世界タコ)釣りに参加してるじゃないかって? いやまぁ、エルルが運搬を担当するようになってから、釣るのが追い付かなくなって。
『しかし、そろそろ本丸からの反応があってもおかしくない筈であるが』
「結構な数のデビルフィッシュを捕獲しましたからね」
「どのぐらい捕まえたかもう覚えてないっすよ……」
「僕も100を越えてからは数えてませんねー」
もちろんルチルが言う100というのは私達が捕まえた分だけの話なので、他の
とはいえ流石にあの怪獣サイズのデビルフィッシュ(異世界タコ)による津波とかはノーセンキューだ。周囲の船はともかく港に尋常ではない被害が出る。防ぐのが大変どころではない。
「仕掛けてくるというか、有り得るとしたらそこそこサイズのあるデビルフィッシュによる偵察あるいは様子見でしょうか」
『で、済めば良いのだがな。クレナイイトサンゴにとっての危険度が高いのは確か故、洗脳が進んでいたら問答無用で攻撃してくる可能性もそれなりに高いと見るべきであろう』
「無事に虫下しが効けばいいんですけど」
『くはははは! 負けるとは思っておらん辺りが「第三候補」だな!』
「相手の命を守る方が正直大変ですね」
「知ってる、知ってるっすよ、先輩がそういう言い方する時ってめっちゃ素でガチってこと!」
「あー……確かに、ごしゅじんまだエルルさんほど手加減できませんもんねー」
と、魔物種族組でクラーケン(異世界イカ)とデビルフィッシュ(異世界タコ)を区別なく釣っていると、少し離れた所でルウが声を上げているのが聞こえた。うん? ルウが私への呼びかけ以外で声を出すのは珍しいな。
何事、と思っている間に、その声が聞こえた方向が激しく波立ち始めた。ばっしゃん、と時々マーレイ(異世界ウツボ)が海面に跳ねているところを見ると、もしかして近くのマーレイ(異世界ウツボ)も全員集めて総攻撃してるのか?
で、ルウがそんな本気出す相手って事は……。
「カバーさん!」
『パストダウン!』
「はい。周辺に居る一般
「えぇ、もちろん用意しておりますよ。30mまで対応の特製対超大型デビルフィッシュ捕獲網及び専用撃ち出し大砲!」
釣竿を上げながら声をかけると、打てば響くような返事が返って来た。「第一候補」にはパストダウンさんが応答している。しかしいつの間にそんなものを。
ルチルもアラーネアさんも察してもう動けるようにしている。フライリーさんは、おっと、何か大物がかかったのか苦戦してるな。
「フライリーさん、手伝います」
「あ、先輩、お願いするっす! なんかめっちゃ重い!」
滅茶苦茶しなって逆Uの字を描いている竿に手を伸ばし、フライリーさんが持っている少し上を掴む。うわ、重っ!?
ってちょっと待て、今の私が重いと感じるって相当だぞこれ、一体何がかかったんだ!?
けど引き上げないと移動も出来ない訳で、ちょっと気合入れるか。両手で竿を掴んでしっかり足を踏ん張って、フライリーさんとタイミングを合わせ、せーの……!
『なんだこれは……、っ!? 「第三候補」、待て!』
「な!?」
と、思いっきり力を入れた所で「第一候補」から制止の声。ってこのタイミングで言われても止められないんだけど!?
流石に竜族の皇女である私が本気を出すとそれには敵わなかったのか、ぐんっと竿が持ち上がる。海の中に何かが見えて、それは即座に海面を破って上がって来た。
ざっばぁぁあああああ! と、滝のように海水を落としながら出てきたのは……。
「……タコ足っす?」
先端から3つ目あたりの吸盤に針が刺さった、見えている部分だけでサーフィンボードぐらいある特大のタコ足だった。
ふむ。確かに大物だな? フライリーさんでは持ち上がらないのも納得ってもんだ。針もしっかり刺さっているから、たぶんこれを放すには糸を切るしかないだろう。
「なるほどなるほど。流石にあちらでルウ達が相手をしているのとは違うでしょうしね。距離的に」
『で、あるな』
なるほど。と、「第一候補」共々納得し、息を1つ。
「[ウィンドカッター]!」
『パストダウン、緊急退避だ!!』
「キューゥゥッッ!?」
『いいい一体あの特大サイズが何体来てるって言うんですかぁああああ!?』
「一気に賑やかになってきましたねー!」
「ルチル先輩が楽しそうっすー!?」
私がタコ足の見えている根元に魔法を撃ち込んでタコ足をインベントリに回収、「第一候補」が船へと声をかけて、一気にその場の空気が大規模戦闘の物へ切り替わった。
……うん。ルチルもちょっと退屈してたんだね。ごめんね?
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