第211話 12枚目:嵐中撮影
まぁ、見た目はますます可愛くなったがステータスの暴力であることには変わりがない訳でさ。つまり超重量物を釣り上げてインベントリにぽいする動きは竜姿の時と変わらないんだよね。
白いセーラー服(長ズボン)にセーラー帽をかぶった可愛い女の子が、投げれば小舟の一つぐらいは粉砕できそうな岩の塊をひょいひょい釣っているのは、なかなかの衝撃映像だったらしい。
「……なんというか、更に可愛くなっても先輩は先輩でした」
ログイン制限が明けてログインしてきたフライリーさんはそんな事を言っていたが、失礼しちゃうな。私は最初から私だ。
まぁその辺つつきだすと、フライリーさん自身どころかエルルやルチルやアラーネアさんも含めて魔物種族は皆アレでブーメラン合戦になるので、軽く笑って流す。
しかし、【人化】した後の方が「うわ人外だ」っていう視線を浴びる頻度が増えたような気がする。最初から人外(竜姿)だったら「そんなもんかな」って納得するところ、見た目が可愛い美少女な分だけ違和感になるのだろうか。
「とりあえず。誰ですか「わんぱく竜姫」とか「怪力少女」とか呼び始めたの。怒りませんから出てきなさい」
「え、お嬢そんな風に呼ばれてるの?」
「通知が立て続けに来たんです。実際に「二つ名」を確認したら増えてました。大丈夫、港から外洋までぶん投げるだけです」
「そんなことするからそういう風に呼ばれるんじゃねぇかな」
大丈夫だ、【水泳】とか防御系統のスキルをしっかり鍛えていたら死にはしない。
なお他にも「子守られ仔竜」とか「銀竜姫」とかも増えていたがまぁそれはいいとして。今の私はかなり魔法メインで、身体能力的なあれはほぼ種族特性の素の状態なんだけどな?
ちなみに、大の大人の1人ぐらいなら本気で外洋までぶん投げられる。【風古代魔法】で飛距離を上げたら、もしかしたらあの大嵐まで届くかもしれない。帰りは知らないけど。
「あ、「第三候補」さん良い所に」
……とか休憩しながら言っていたら、カバーさんに何か、丈夫な鉄の四角いケージに大きな水晶玉を入れて固定したような物を渡された。縦横50㎝ぐらいだろうか。結構重量があるが、え、なにこれ。
「録画式の監視カメラといいますか、ある程度自立する撮影ドローンといいますか……まぁともかく、そろそろ次のイベントの告知が来る頃ですし、一度嵐の中を確認しておきたいと思いまして」
つまり、これをあの嵐の中に投げ込んでくれという事らしい。それも出来るだけ奥の方に。出来るなら嵐の向こうに行ってしまってもいいらしい。
いやまぁ確かに、特攻隊を出す訳にもいかないだろうけどさ。……ケンカしてる大怪獣たちに当たっても知らないよ?
で。
「「「うわぁ……」」」
私の他にも、エルルや船の上で組み立てられる限りの投石器を使って、数撃ちゃ当たるととにかく数が投げ込まれたフリアド式全方位録画カメラ。
大半は戻ってこなかったし、戻ってきたものもほとんどは壊れているか何が映っているか全く分からない状態だったのだが、20個か30個に1個ぐらい、一応何かが映っていることが確認できるものがあった。
中でも今流れている映像はかなり鮮明と言っていいだろう。かなり高い位置から落ちていって海面にぶつかり、そこからしばらくもみくちゃにされたところで終わっているその数分の映像は、流石の『本の虫』の人達でも呻き声が出る物だった。
「怪獣大決戦で何も間違っていませんでしたね」
「いや流石にデカいにも程がないっすか!?」
ははは。と笑いながら素直な感想を言えば、私の頭の上からフライリーさんが引きつった声を上げた。ピョ、と声がした事から、同じく私の頭の上に居るルチルも同意見らしい。
それは恐らく台風の目のように、雨も風も相殺されて、見かけだけ収まった空間だったのだろう。それすなわち、あの大嵐の中心という事だ。
イベント後半でカバーさんは言っていた。「近日中に相手の大きさに関する情報は公開します」と。だからこの映像を見た時の呻き声は驚きではなく、「当たってほしくない予想が大当たりした」という意味だったのだろう。
何せその映像に映っていたのは。
恐らく全長は50mにも達するだろう巨大タコと巨大イカが、その半分からそれ以下のタコとイカを無数に従えて、盛大に殴り合っている様子だったのだ。
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