第193話 12枚目:理由考察
謎の入れ食い状態は、船が移動したら収まったようだ。しばらくすると魚と魚型モンスターがほぼ同量、そしてそれらを合わせたのと同じくらいの無生物、という沿岸と同じ割合で釣れるようになった。
もちろん超重量物も時々混ざるので、それを釣ってしまった『本の虫』の人達を手伝ったりもしていた。アラーネアさんも力だけで言えば結構強いらしく、若干苦戦しながらも超重量物を引き上げられるようだ。
今までは外洋で釣っても船で牽引するしか無くて、それにも限度があるから厳選した上で大半を泣く泣く放置してたんだってさ。今? 私とエルルがインベントリに入れてるよ。解析が進むと大喜びされてるね。
『流石にお二人のように軽々とはいきませんけれどね。頑張って踏ん張ってやっとこどうにかという感じですし』
『まぁ私達は種族的特性がステータスの暴力ですし』
「間違ってないけどもうちょっと言い方なかったかお嬢」
じゃあ逆に他にどう言えばいいのさ。ステータスの暴力が一番しっくりくるんだけど。今までも散々ゴリ押ししてきたし。それに罠解除系のスキルの時に、その辺の習得にマイナス補正が掛かってるのは体感してる。
うーん……、という顔で黙ってしまったエルルだが、その間も釣り竿は構えているし反応があったら引き上げている。あ、けっこうデカめの流木。まぁインベントリに入れるんだけど。
『しかし流石にというか、沿岸より全体的にサイズが大きい気がしますね』
「あぁ、それは確かに。まぁ港まで来れる魚はモンスター含んで小さい前提だし、それ以外は来た時点で、波やら海底の岩やらで削られて小さくなってるんだろうけど」
『その分情報量が多いという事で『本の虫』の皆様は大変喜んでおられますよ。特に船の残骸等の比較的柔らかい物が残っている場合はとても貴重な資料になるのだとか』
『なるほど。沿岸で釣れた大物に家具の残骸がありましたが、例えば戸棚が丸ごと釣れれば中身があるかも知れないと』
「あー、そういう感じか。まぁ航海日誌とかは水に溶けないインクで書くだろうし、物が残ってれば直接的な情報が拾える可能性があるんだな」
そんな話をしている間に私の方にも反応あり。引き上げると、あ、これ超重量物だ。即インベントリ投入。んん、アイテム名「船の残骸」か。家具じゃないな、残念。
人外組でわいわいしていたら、今度は普通にカバーさんがやって来た。本当にさっきはどうやって移動してたんだろうね? エルルが気配を捉えられないって相当だと思うんだけど。
「先程の入れ食い状態ですが、どうやら特定のエリアに入る事で発生したようです。いえ、エリアというより、特定の流れと航路が重なったら、というべきでしょうか」
『流れ、ですか?』
「はい。どうやら様々な魚がほぼ一塊となって泳ぐ、潮流にも似た流れが時折発生するようです。その法則は現在調査中ですが、解明できれば恩恵は大きいでしょう」
まぁ文字通り入れ食いだったもんなぁ。一般
しかし問題は何故それが発生するかと……。
『カバーさん。発生が終わる時間は読めそうですか?』
「ただいま観測及び予測中です」
「え、終わってから行くのお嬢」
『だって魚の移動に巻き込まれる形で、何かが運ばれてそうじゃないですか』
『なるほどそれは確かにありそうですね』
ぶっちゃけ終わった後の方が美味しそうですらある。情報的な意味で。まぁ魚自体も釣ってみたら何かあるかもしれないけど、そっちはそれこそ一般
私が全てやるのは土台無理な話だ。そもそも出来たらイベントの意味が無いしね。だからお任せできるところは積極的にお任せしていく方針で。超重量物の回収とか、他の人に出来ない所を重点的にやっていく感じでいこう。
アラーネアさんからの同意もある事だし、カバーさんも、なるほど、と頷いてくれたので、可能性としてはそれなりにアリなんじゃなかろうか。
「ふーん。……そうか、釣りという名の嵐の原因調査だったっけか」
『そうですよ。出来れば解明して次の大陸に行けるようになりたいですね』
「嵐の原因を取り除くのか、嵐を突破できる船を作るのか、あるいは嵐を一時的にでも制御する何かを見つけるもしくは作るのか。その辺の最終目標もまだ判然としていないのが問題と言えば問題でしょうか」
「それは確かに問題だな?」
びろーん、と長く伸びた海草を針から外してインベントリに放り込んでいたエルルの言葉に、私とカバーさんが答える。カバーさんは相変わらずにこにこしているが、エルルが指摘すると僅かに視線を逸らした。
まぁイベント期間はいつもの2週間で折り返しが見えてるからね。そろそろ手掛かり皆無状態は脱したいところなのは確かだ。
「いやぁ、「第三候補」さんとエルルさんに持ち込んでいただいた超重量物の解析もやってはいるのですが、海草の塊及び海藻がびっしり生えている物に関しては、それらを乾かしつつ解体しないといけないようで、なかなか進捗が芳しくなく」
『あぁ……。海藻にしろ海草にしろ、資源や情報ではあるでしょうから燃やす訳にもいかないと』
「そもそも燃えないだろ。除草剤とかならともかく」
ひょい、と再び竿を振ってルアー針を海へと投入したエルルの言葉に、何故か動きを止めるカバーさん。
……もしかして、字面が化学っぽい物だから、発想から抜け落ちてた?
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