第194話 12枚目:プレイヤータスク

 さてそこからは入れ食いにも大型モンスターにも遭遇せず、無事船は港に帰り着いた。短いと言っても旅は旅だったので、内部時間でざっくり7時間ほどが経過している。

 これまでと同じく『本の虫』の人達が食べられない釣果を集めている場所に移動して、超重量物を始めとした解析が必要なアイテムを提供。

 ……しようと思ったら、何か騒がしいな?


「揉め事か……?」

「あ、エルルさんおかえりなさいー」

「おかえりなさいっす!」

『おやルチルにフライリーさん』


 先に降りたカバーさん達を見送り、引き続き船に乗るアラーネアさんと別れてからの移動だったから、現在位置は騒ぎの外側だ。何か揉めているらしいのは分かるんだけど、誰が何を言っているのかまでは分からないんだよね。

 そこに、こちらは揉め事から逃げて来たらしいルチルとフライリーさんがやって来た。で、私達が沖に出てる間に何が起こったの?


「それが、聞いてもよく分からないんですよねー」

「いやあれは聞く価値ないっすわ……たぶんその内成敗されると思いますよ」

『あー……召喚者ですか』

「っす」


 ルチルとフライリーさんのテンション差でおおよそ事態を把握。しかしフライリーさんをして「聞く価値ない」とは、相当にお粗末な事を言っている様だ。

 しかしそれはそれで一応内容を確認しておきたい。実況スレとか立ってないかな。こういう時『本の虫』の人達は後で状況纏めみたいなのを出すから、外から見た中で良い感じのは……と。

 あ、これとか分かりやすいかも知れない。コメントも早いけど追えないほどじゃないし。えーと最初は何処だー?


「……弱いなら弱いなりに、人格はそこそこまともなのが揃ってるのかと思ってた」

『今まで偶然遭遇しなかっただけの可能性が高いと思いますよ』

「そうかぁ……」


 げんなり、と呟くエルルも大体察したようだ。あるいは話を断片的にでも聞き取る事が出来たか。私の方も無事実況スレッドの最初に辿り着けたので、時系列順に読んでいく。これでも読むだけなら結構早い方、の、筈だ。



 どうやらその実況スレッドによると、その発端はウェットスーツの完成だったようだ。性能的にはなかなかの代物でそれは良かったのだが、そうなると自分も欲しいと思う人間が当然出てくる。

 が、ウェットスーツの材料はあの謎の素材、エルル曰く「何かの皮」だ。エイ族の人達が針にひっかけてくれている話は既に周知されているので、ほとんどのプレイヤーが『本の虫』の所に提供していたらしい。

 ところがそれのどこをどう解釈したのか、『本の虫』がプレイヤー達に対して情報操作を行い、貴重な素材を独占しているという主張が発生。基本的に一般プレイヤーにとっては不要物である無機物アイテムの回収場で、抗議デモみたいなことをしているようだ。



 あ、うん。これは聞く価値ないな。

 第一あの場所には看板が立てられて「提供していただいたアイテムはその正体を問わず、『本の虫』による鑑定後フリー素材となります」と書かれてある。当然『本の虫』の情報纏めスレッドのトップにも書いてあるし、それを承知の上でアイテムを提供していることが大前提だ。

 それに『本の虫』の人達が情報操作をしようと思ったらこんなものでは済まないだろうに。それでなくても5月イベントの時に、必要なら身銭を切ってプレイヤー全体の利益のために頑張っていた事が広く知られている。そんな『本の虫』の人達が、貴重な素材の独占をする? ははは。


『一言でいうと、バカですね』

「よりによって『本の虫』に喧嘩を売るとか、頭が飾りとしか思えないっす。過去最大の集まり具合だとは聞いてましたけど、人が集まると変なのもよって来るんすね」


 まぁ一部あの絶滅済み香木とか、様々な文献資料とか、確かに、貴重な素材を独占していない訳ではない事も知っているが……じゃあお前ら管理できるのか、と聞かれて、首を縦に振る事が出来るプレイヤーが居るとはとても思えない。

 検証班の名は伊達ではないのだ。だからこそプレイヤーの間ではトップを走っている訳で、それだけ労力をかけているのは少しでも考える頭があれば分かるだろうに。つまり、それだけの頭すらないという判断になる。

 というか、『本の虫』の人達に渡すのが嫌なら自力で正体を調べればいいだけのことだろう。頑張って【鑑定】を育てて、検証班に頼らず自分で自分の道を切り開けばいいんだ。


「あ、渡鯨族が来たな」

「流石ですねー。問答無用で引きずって退場ですかー」

『抵抗する事も出来ない程度の能力で抗議デモとか、失笑すら出ません』

「そんで完全被害者なのに、周りの人へのフォローを欠かさない『本の虫』の人達マジ尊敬するっすわー」


 私が実況スレの最新に追いついてしばらくした辺りで、港の治安維持を担当する渡鯨族の人達が登場。ぎゃあぎゃあと道理の通らない主張をしている召喚者プレイヤーの首根っこを掴み、問答無用で引きずっていったようだ。

 事情聴取もあるし、実被害的には周辺への騒音被害と往来の邪魔をした程度だ。前科者には恐らく足りず、厳重注意程度で済まされる事だろう。ブラックリストには入るだろうから、次何かしたら問答無用で牢屋行きだろうけど。

 で、完全にその姿が見えなくなってから『本の虫』の人達というかカバーさんが登場。騒動になった事及びそのせいで往来の邪魔になった事、鑑定などの作業に遅れが出た事を謝っていた。その流れで、詫び石ならぬ詫びポーションを配布するとの事。


『……しかし、何故このタイミングで動いたんですかね』


 それにしても解せないのは、これまでそういう話をあまり聞かなかったのが、このイベントが始まってからその手のバカが急増した感覚があることだ。もちろん初日のエルルあるいは私に対する暴言の投げ逃げも含む。

 もちろん私のイベント参加状況は大分偏っているし、イベントに参加していても人の集まる場所に居るかどうかは別の問題だった。だから、偶然今まで遭遇する事が無かっただけ、という可能性も、エルルに説明した通りだいぶ高い。

 いやまぁ流石にそこまでイベントが関わっているとは思わないけど、イベント以外に問題の種が増えたらそれはそれで嫌だしね?


(たぶん潰そうと思って潰せるような物じゃない類だろうけど、もし原因があって潰せるなら潰しておきたい)


 問題は少ないに限る。それでなくても運営のイベントだけでも結構手一杯だっていうのに、プレイヤー側で別の問題を起こさないでほしい。

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