第179話 11枚目:軍勢殲滅戦
メイン迎撃魔法を【火古代魔法】に切り替えてから、多分結構時間が経ったんじゃないだろうか。だって暗かった空が白み始めてるし。我ながら長時間戦闘にも慣れたもんだ。
まぁそれだけこの身体(アバター)が優秀って事なんだろうけど。とか思いつつ懲りずに飛んでくる水球を、炎の槍を一点集中させることで蒸発させる。あっはっは、ナギカマさんのところに続いて【環境耐性】がガンガン上がってるよ!
現実も6月半ばを過ぎて早々に連日最高気温が伸び続けてるっていうのに、ゲームでまでこんな高温多湿の環境に放り込まれるって私何かやったか!? いやまぁ「第一候補」の誘いにほいほい乗ったのは私だけども!
『気温が高いだけならまだしも、空気が重い……っ!』
文句を言いながらも詠唱を続けて次を準備する。連射していると言っても
あ、ちなみにこの水球の発射点は無い。正確には「軍勢」とセットの地形効果扱いなので、まだぼーっとしているらしい鬼神様が本調子になるまで……「軍勢」のフェーズあるいはステージを越えるまでは、撃たれてからの迎撃しか出来ないようになっているらしい。
そろそろ聞き慣れて来た、バッキーン! という甲高い音が地上から響いてきた。流石にエルルも武器に魔力を一切流さずに相手するのは厳しいようで、出来るだけ魔力を流さずに戦って、囲まれるなり弾かれたりしたら魔力を流して状況を打破、という戦い方をしているようだ。
『エルル、武器は持ちそうですか!?』
「山ほど持たせてくれただけあって、まだ何とか!」
てことは残量を気にする必要が出来てきたって事だな。まだこの後槍の雨が待ってるんだけど、温存して手傷を負っては意味が無いし。
しかし、環境的には鍛冶場の中に大分近くなっている筈だ。それでも“角掲げる鉄火にして卜占”の神には動きが無い。やはり金棒が無いとダメか。
とはいえ、この体格の鬼神様に似合いのサイズっていうと、それこそ何日もかかるんじゃなかろうか。大丈夫? 仕切り直した方が良いんじゃない?
『ん?』
と思いつつ、炎の剣で水球を叩き切るようにして迎撃していると、ふと「軍勢」の動きに違和感があるような気がした。今までは一点集中、全方向を包囲してからの“角掲げる鉄火にして卜占”の神へと全力をもって向かってきていた。
それが何か、目標がぶれてるというか、一部が外に向かっているような……?
『何が――っ! エルル!』
「どした!」
『そこから鬼神様を基準に10時方向へ「軍勢」を突破してください!』
「了解!」
理由を聞かずに応えてくれるエルルのなんて頼もしい事か。まぁその代わり、エルルが何とかしてた部分、鬼神様の周囲へと「軍勢」が詰めてきてるんだけどね。
「[それは日照りを齎す太陽の欠片
跳ね爆ぜ燃やして焼き尽くせ――プチフレア]!」
まぁそこは指示を出した責任と言う事で、私が対処する。流石に元の伝承からして数で攻めたと言われる場所だ。合戦に使われる平原のような場所で特段これと言って何もないから、多少なら大技も出せるからね。
もちろん鬼神様に直撃はしないように注意してるけど、周囲の気温までは管轄外。おかしいな、一撃も貰ってない筈なのに体力が削れていくぞ? 【環境耐性】のレベルがガンガン上がっていくのは美味しいけども。
そこ、半分自爆とか言うな!
〈…………ぬ〉
足元が炎の海になっても気にせずぼーっとしていた鬼神様。本来「火」と「鉄」の権能を持つ鍛冶の元締めだけあって、この気温も湿度も、むしろ落ち着くのかもしれない。
そのせいか周辺環境の変化には微塵も反応しなかったのだが、私がエルルに移動をお願いしてから数分後、その方向へと、このフェーズあるいはステージになってから初めてとなる、反応らしい反応を見せた。
それに、まぁ当然というべきか。周囲の「軍勢」も反応する。「軍勢」が反応するなら「水の術」も反応する訳で。ざばばぁ、という音と共に、ここまではずっと単発で飛んできていた小屋ほどの水球が、複数同時に飛んできた。
「[篝火掲げ火の粉を撒きて
辺りを赤々照らすは炎の宴
轟々燃える火の声には近づくなかれ
彼らは全てを喰らい尽くして炭へと変える――ダンシングフレイム]!」
それに対してこちらは、早口で詠唱して出現させた密度の高い複数の火球を、それぞれに正面からぶつけて相殺する。
一応言っておくと、属性相性的に火は水に弱い。フリアド世界ではどうも対応する属性同士の相殺ではなく、各属性に相関があるようだ。つまり、全属性に有利と不利があるという事らしい。
まぁ詳しい減衰・増幅率は運営か『本の虫』の人達に聞いてもらうとして、だから封印の儀式でも「水の術」が出て来たんだろう。それをゴリ押しで突破してしまうのがステータスの暴力というやつだ。うーん、我ながら理不尽だなぁ。
〈……おぉ……〉
水球を相殺した余波で地上の「軍勢」を吹き飛ばしつつ次の詠唱を進めていると、鬼神様が動いた。
随分と星の姿が消えた空の下で、ぬぅ、と、何かを掴もうとするように手を伸ばしたのだ。それはさっき「軍勢」の違和感があった方向で、同時に、エルルに向かって貰った方向だ。
鬼神様のその動きに応えるように、その方向から、ぶぉん、と風を切る音が聞こえて来た。
『……鬼族の鍛冶師と言うのは凄腕ぞろいですねぇ』
ズバシィィ! と重量級の音を立てて「それ」が鬼神様の手に収まった、ちょうどそのタイミングで、最初の一差しが夜明けを告げた。
見る見るうちに光量を増す陽光に照らされて、真新しい金属が物騒な光を返す。鬼神様が、ゆら、と視線を「軍勢」へ向けたのを察して、私は慌てて空気の足場を蹴り、エルル達の方へ合流した。
「全員伏せろ――っ!!!」
「[壁となり、護りとなり、聳え立て――マジックウォール]!」
合流した先のエルルも察したのだろう。その場に居た鍛冶師さん達と……恐らく、“角掲げる鉄火にして卜占”の神の、巫女と宮司だろうか。鬼族の人達に防御を叫んでいた。ほぼ同時に私が着地、その全員を隠す形で透明な魔力の壁を展開する。
直後。
〈おぉ――――ぉおおおおおおオオオオオオオオオ!!!〉
ゴッ、と。
今までの苦戦は何だったのか、と言うほどにあっけなく。
真新しい、しかし急造とは思えない程に威圧感と存在感のある「金棒」の一薙ぎで……「軍勢」は、朝日に照らされたその平原から、綺麗さっぱりと一掃されていた。
『……これで防ぎきれなかったらどうしようかと思いましたよ』
「なんつーか、流石鬼族の神だな……」
もちろんそんな攻撃力を振り回されたら敵味方関係なく巻き込まれる訳で、流石に疲労困憊している鍛冶師の皆さんや奉納の儀式をするために来たのだろう巫女さんや宮司さんが無事では済まない。
詠唱破棄できるところを敢えて詠唱して強度を上げたかいはあったようだ。あの四半秒で私を抱え込み、ずっと背負うばかりだったグレートソードを地面に半分程も突き立てて盾としたエルルの反応も流石なんだけど、この姿勢が役に立っていたら、最悪彼らに死者が出ていただろう。
…………最初からこんな色だったかな、と思うほど一様に、皹で真っ白になった魔力の壁。それにエルルともども顔が引きつってしまったのは、まぁ、仕方ない。
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